第16話 一歩づつ前へ

 一つづつパズルを解き、問題を引き起こしていた所を見つけ出す。どうしても理屈がつかないコードが三つ。これがシステムを麻痺させた原因だ。

 三か月が経ちようやく全部の変換と修正が終わった。同時に設計書も出来上がる。

 ドキドキしながらコードを実行する。

 やはり動かない。

 焦る心を抑えて、慎重に追跡する。ここでパニックになっても仕方がない。

 解析ミスを見つけて修正する。

 一つ修正した。

 二つ修正した。

 コードが動き始めた。テスト用コードがさくさくと動き、動画が再現される。

 やったね!

 自分を誇りに思う。ここまでの複雑なコードを問題なく合併させたのだ。


 そのままなし崩し的に次の仕事に入る。今度はこの描画システムの上で製品を完成させるのだ。


 パチンコのプログラムは二つに分別される。

 一つはメイン・システムでこの部分は当たりの抽選などを行う、パチンコメーカー社外秘の部分だ。

 容量は何と64Kバイト。現代においては恐ろしく小さい部類に入る。

 これには立派な理由があり、警察上層部OBが経営する遊戯に関する監視団体がチェックするのがこの部分なのだ。

 違法な仕掛けを施されないように構造が制限されているため、どれだけ容量が足りなかろうがこの部分を変えることはできないようになっている。

 パチンコメーカーが根を上げて何とかもっと強力なものに変えてくれと頼んでも監視団体は絶対に聞いてくれない。

 その裏の理由は、コードを触れるだけの技術者が警察OBの会社内にいないことが原因である。だから少しでも変えられると彼らの仕事は破綻する。

 つまりは国の組織人である警察官僚が老後の豊かな生活を保障するために作り上げた機構が技術の発展を邪魔していると考えればよい。

 役人の利権ここに極まれりだ。


 それに比べて描画を行うサブ・システムは自由だ。メイン・システムからの命令に従い、お絵描きをするのがこの部分の仕事だ。

 この部分の一番の制限は納期である。納期が延びることだけは絶対に許されない。

 作ったシステムは先に述べた監視団体による検査を受ける。この検査が警察OBたちの利権となっており、一回の検査に500万円を支払うことになる。むろんボッタクリである。

 検査は予約制で何か月も前に予約しなくてはならず、当日に製品が間に合わない場合はこの検査代金はそのまま没収される。そして次の検査の予約を入れてもそれができるのは半年先となり、新機種の発売スケジュールが無茶苦茶になる。

 指一本動かさずに、大金を稼ぐ、これがお上のやることであった。

 まさに現在の官僚たちは悪代官の鑑と言えよう。

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