第15話 神様ならず
K主任がいそいそとパソコンパーツを買って来た。
会社は秋葉原にあるのでこういったアイテムはすぐに買ってこれる。
どうやら自分用の新しいパソコンを組むらしい。
他のメンバーにも手伝って貰って何かやらガサゴソとしていたが、ようやく組み上がって電源スイッチを入れた。
・・何も起こらない。
普通の人間なら最初の数秒で異変を知り電源を切るが、K主任には無理だ。
CPUクーラーの接続を忘れていたことに今更ながらに気いた。
それを配線しなおし、再びスイッチオン。
今度はCPUクラーが回るが、それ以上は何も起きない。
あの十秒で、冷却されなかったCPUが焼け死んだのだ。
そのお値段、10万円。
その二時間後、新しいパソコンは立ち上がった。
「あれ? 死んだCPUはどうしたんです?」
「お店に持って行って初期不良で交換して貰った」
これは100%K主任の失敗なのだが、そのツケを払わされたのはCPUメーカーだ。
お客様は儲けさせてくれるからこその神様。この場合は赤字を増やしてくれる悪魔だ。
一生懸命設計し、一生懸命製作し、市場に流し、挙句の果てはこういったタチの悪い客に壊されて返って来た上に、あそこのCPUは壊れたものを売っているという評判までつく。
真にもって罪深い。
昔高校で弓道部に在籍していた時、アーチェリー部の連中とみんなでダベっていた。
そのとき、アーチェリー部の部員の友達がやってきて、俺にもアーチェリー弓を引かせろと要求した。
部員でもないものにアーチェリー弓を持たせるのは違反だが、結局それを許した。
「引くのはいいが、絶対に弦を離すな。矢をつがえずに打つと弓は壊れるからな」
読んでいる人の想像通りに、その間抜けは弦を引くと止める間もなくそれを離した。心の中で弓を撃っているオレ様スゲーとでも思っていたのだろう。
世の中には人の言うことを絶対に聞かないバカがいるのである。
アーチェリー・ボウはその一瞬で見事に壊れた。弓の上と下の部分が完全に割れている。これは実は和弓でも同じことが起きる。引いている弦が切れたりすると弓が割れるのである。
その馬鹿者はその場に壊れたアーチェリー・ボウを置くと、さっさと帰ってしまった。
「では」
そう最後に残した一言が印象的だった。謝罪の言葉は聞けなかった。
後にアーチェリー部員にあれはどうなったのと訊いてみると、こう帰って来た。
「弓のお店に不良品として返した。保険で何とかするらしい」
悪魔であるお客さまはどこにでもいるようだ。
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