第14話 メダパニ男
画像処理を行うパソコンには安物は使えない。大量のメモリを食うし、高速なCPUが必要だからだ。
仕事に使うパソコンは通常会社持ちだ。
だがM社長は相当なケチなので、私のパソコンは自分で買わされた。そこそこの性能のものでないと駄目だと言われたので、乏しい貯金からさらに絞りだすようにして捻出する。
これで最初の二カ月の利益はこのパソコンの購入費用で消える計算になる。
とても辛い。
注文したパソコンが届くまでノートパソコンを持ち込んで使っていたが、しつこくK主任のチェックが入った。
「それが用意したパソコン?」
「いえ、頼んだのが届くまでのツナギです」
この質問は日を置いて何度も繰り返された。
ここで気づくべきだった。
このK主任。記憶能力が皆無なのだ。前の日に聞いたことを次の日には忘れている。
糖尿病の治療のために2週間に一回はインシュリンセットを受け取りに病院にいかねばならない。これには大量の検査もくっついてくるので時間もかかる。
丘の上の病院までバスで行き、午後からはそのまま別の駅へ行ってそこから出勤するのだ。
前日にK主任に明日の午前は病院に行くので午後出社になりますと伝えてある。
当日病院の待合室にいるとK主任から携帯電話が掛かって来た。
「今日は来ていないけどどうして来ないの?」
お前が悪い首にするあおとの詰問の口調が混ざっている。
「今定期健診で病院です。昨日伝えたじゃありませんか。午後から出社すると」
「今日は来ていないけどどうして来ないの?」
サボるんじゃないと責める口調だ。同じ質問をまた繰り返す。
「昨日今日の午前は病院だと言ったでしょう。午後から出ます」
まだ何か言いたそうにしている相手を放置して、そのまま電話を切る。
二週間後、また同じことが繰り返される。この人全然学ばない。
彼の長期記憶は深く欠損しているものと思われる。
K主任は週の半ばを他の会社の手伝いに出ていた。
こんな人を送り込まれる相手側の会社もさぞや難儀しているだろうなと思った。
代わりに土日に出て来て、私とのコミュニケーション時間を作るようにとのM社長の命令が下った。
アズ・ユア・ウィッシュ。ご主人さま。私は貴方の奴隷です。
K主任は何を聞いても的外れのことしか言わず、話をしていると今まで分かっていたことまで分からなくなるので、数か月の間ただの一度もこの人には質問しなかった。
それぐらいならソースコードを解析した方がうんとマシだ。
人間メダパニ。それがK主任だ。
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