第8話 弱り目に祟り5
次の日、朝日の中で自分の手の甲に赤い点々がついていることに気づく。
毛穴から出血している。溶血性病原菌のせいだと理解した。
もし全身の血管がこうなっているとしたら、確かに物凄くヤバイ状況だと理解できる。
そこに担当の医者が顔を見せて言った。
「病原型大腸菌O17が検出されました」
O157じゃないの!?
こんな所でも流行を外すのか。私は。
後でこの病原菌がどこから来たのかを考えた。
当時は食欲が無くてコンビニのおにぎりばかりを食べていた。
コンビニのおにぎりは安く作るために韓国海苔を使っている所が多い。韓国という国はし尿処理がいい加減で海には韓国人の大便がそのまま流れこんでいる。そして韓国海苔にはトイレットペーパーが混ざっていることがある。
そのため韓国海苔からはときどき規定以上の大腸菌が検出されるのだ。
つまり私は韓国人の大便を食わせられて病気になったと結論できるのだ。
うげえええええええええ。
いい加減に仕事しろよ、日本政府。いくら韓国が好きだからと言って、彼らの排泄物まで入れさせるな。自国の食の安全ぐらい守りやがれ。
次の日、姉が病院を訪れた。
看護婦には呼ばないでと頼んだが無視されたようだ。
広島から新幹線で五時間もかけてわざわざ来てくれたんだね。やっぱり持つべきは姉だ。
「大丈夫そうね。じゃあ帰るわ」
一言残して五分ほどで姉は帰った。
おそらくは東京見物だ。せっかく弟の見舞いを口実にウザイ旦那から離れることができたのだから羽を伸ばさないと損だということだろう。
持っても意味がないのが姉という存在だ。
二週間ほど三種抗生物質カクテルを連続で点滴される。二週間が尽きる寸前に細菌が検出されなくなり、次の点滴サイクルは免れることができた。
長髪を三つ編みにしたまま長い間放置していたため、髪が解けなくなり、仕方なく絡んだ部分を切り落とした。このとき以来、三つ編みは止めている。
シャックリが二日ほど止まらずに、大部屋から個室に移される。儲けたような損したような奇妙な気分である。シャックリしながらでも人間は寝ることができるものだなあと感心する。
水が飲みたいと言っても看護婦さんに完全に無視される。う~、水、水をくれ。
病院で死ぬときの問題点は末期の水を飲ませてくれないことだなと一人で納得する。もしこれで生まれ変わったら大海の水をすべて飲み干してやる。
二週間が過ぎて点滴が外れると風呂に入ることも許された。
裸になった自分の体を見てぞっとした。まさに骸骨だ。全身の脂肪を使い尽くしている。サポートの人が水を浴びせて洗ってくれる。
実に事務的だ。
お釈迦様の語られた通りに、人間の体はただの腐りゆく肉の塊だと改めて思い知らされる。
一度だけ家に帰ることを許して貰い、色々片付ける。
家に帰る前に甘い物は食べるな。病気が一気にぶり返す恐れがあるからと念を押される。心に思い描いていたプルーツパフェは夢の泡と消えた。うう、悔しい。
仕事依頼のメールが来ている。きっとまた偽の依頼だ。食中毒で入院中だと伝えておく。
「食中毒だけではないと考えます」
そう返事が返って来たが意味がわからない。この人、何か不思議な力を持っていたっけ?
メールを打っていると猫が出て来て、細くなった膝に乗ってきて顔を摺りつける。
滅多に膝に乗らないこの子にしては珍しい。
この子にとってもこの期間は試練だったようだ。
猫のトイレはひどい有様になっていた。猫の世話を頼んだ人が動物を飼ったことがないのに初めて気が付いた。全部片づけて、次からはトイレも世話しておくれと頼んでおく。
次の二週間は糖尿病の治療が始まった。要はインシュリンの自己投与の練習である。
血糖値の測定も自分で注射するのも別に難しくはない。チクリチクリと痛いだけだ。もっともここで分量を間違えると今度は低血糖で死ぬので注意が必要だ。
M元社長がお見舞いに来て一万円を置いていってくれた。本当に涙が出るほど有難かった。
手足はうまく動かない。高熱で体中の神経が焼けてしまったようだ。
深夜に一人で目を覚まし、病院の高層階の窓から夜の街を眺める。
健康になって退院したら、首を括るのだなと思う。
健康な首吊り死体の出来上がりだ。
何と皮肉なこと。
今でもたまに思うことがある。
自分はまだあの自宅のベッドの上で敗血症の高熱に苦しんでいるのではないかと。
そして自分が助かった先の未来を夢見ているのではないかと。
何かの拍子に周囲の光景が溶けて、暗闇の中で私を覗き込んでいる黒い人影と対面するのではないか。
たまにだ。
たまにそう思うだけだ。
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