第5話 弱り目に祟り2
仕事が無いと男は鬱になる。
毎日が火炙りにあっているかのように苦しい。
姉から今更ながらに電話があった。
「200万円振り込んで!」
「ごめん、今それで生きている」
恥ずかしい。それに手をつける前に死ぬべきだった。元々姉が受け取れるべき金ではないが、それでも一度決めたことを破るのは苦しい。
飲みの知り合いから電話があった。
銀行に預けてあった仕入れ用の金が消えたと長々と話す。
(それは後で判るのだが、溜め込んだ税金を強制徴収されたのが真相だ)
「だから70万円貸してください」
断った。貸せばその場で自分の死が確定する。
没交渉だったイトコから電話があった。
消え入りそうな声だった。
「お願い。10万円貸して」
貸した。
残ったお金はわずかだが、なに、首を吊るのが2週間早まっただけだ。
この人はこちらに上京した直後に初めて出たボーナスを借りて行った人だ。色々本人にも事情があったので返さなくてよいとは言ったが、その後に親から億単位の遺産を相続したときはそのまま何もしなかった人だ。
思い返せばこの金持ちの親戚は貧乏な母子家庭のウチから色々と毟り取っていくばかりの人間であった。
だからこちらには貸す義理があるわけではない。
イトコの一家は親から財産を相続した後、我が家系に纏わるマンゾウの呪いが発動した。あれほど働き者だったイトコの兄は変貌した。それから十年、億の財産をその兄はすべて呑みつくして見せた。
そして今この有様である。
また二週間後、電話が掛かって来た。
「お願い。もう10万円貸して。今度年金が出たら返すから・・」
最後は声がフェードアウトした。
借金を繰り返している状態で乏しい年金が出たとしても返せないことは分かっている。そして本来は借金を申し込めるような話でもないことを。だから声がどんどん小さくなる。
貸した。
私に残されたお金はわずかだが、なに、首を吊るのがもう2週間早まっただけだ。
お金が残り少なくなったときにいきなり多方面からの借金の催促である。
試されていると感じた。
仏様にだ。
神仏は人間の生き死にをさほどの大事とは感じない。もともと肉体を持たない存在に取っては、人の生き死には寝て起きるのと同じ感覚なのだ。
死を恐れて慈悲の心を忘れるぐらいならば、大人しく死ね。
これが仏という存在の考え方である。
仏弟子を任じるならば行動で示せ。そういうことである。
信仰とはおすがりすれば何とかなるぐらいの感覚でやるものではない。
それでもまたイトコが借りに来たら今度は断ろう。そう決心する。さすがに限界だ。
それきりイトコとの連絡は途絶えた。
返せないけど御免ね。その一言だけ電話をしてくれればそれでいいのに。
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