第13話 ふしぎな夢
放課後。
約束通り、わたしは自分の席で紀月くんを待っていた。
本人はというと先生に呼び出されたようで、ここにはいない。
どうせなら、宿題でもやって待っていようかな。
「あれ、夢生ちゃん。帰らないの~?」
手に本を二冊抱えた依悠くんが教室に入ってきて、隣の席に座った。
「うん。紀月くんを待ってるんだ」
「へえそうなんだ」
今は教室に誰もいなくて、わたしと依悠くんの二人きりだ。
ランドセルを開けて、ファイルと筆箱を取り出す。
「ねえ、夢生ちゃん」
「どうしたの?」
わたしは手を止めて、依悠くんのほうを見る。
「夢生ちゃんって、紀月とただの友達じゃないんでしょ」
「えっ、ええっ!?」
衝撃的なことを言い出したので、わたしは思わず叫んでしまった。
た、ただの友達じゃないって……もしかして、わたしが天根家で働いてるとか、そういうこと……!?
い、いやいや、ありえないか。というかバレても何の問題もないわけだし……。
すると、依悠くんはにこっと笑った。
「実は、紀月となにかのパートナーだったりしない?」
「ぱ、ぱぱぱパートナーっ!?」
そ、そっち!?
にしても、あまりにも具体的過ぎない!?
「そんな驚いた顔しなくても。なんとなくそーかなって思っただけだから」
にひっといたずらそうに笑う。
もしかして依悠くんは、紀月くんがドリームチェンジャーだってこと、知ってるのかな?
友達なら、言っていてもおかしくないけど……。
「夢生!」
そのとき、がらりといきおいよく扉が開いた。
「紀月くん」
わたしは立ち上がる。
すごい焦ってる様子だ。
カギを閉めながらランドセルを背負う。
「またね、依悠くん!」
「また明日、依悠」
「うん。 ふたりともまたね~」
あいさつをしてから、急ぐ紀月くんのあとを追って教室を出た。
いったい、なにがあったんだろう。
階段を下りて下駄箱でくつを履き替え、校舎を出る。
やってきたのは、校舎裏の森。
「はあっ、紀月くん……っ!」
肩で息をしながらわたしは立ち止まる。
なんだか最近、走ってばっかりな気がする……。
「今から、夢の中に入る」
「えっ、夢の中っ!?」
まったく息の切れていない紀月くんがそんなことを言い出すので、わたしは驚く。
やっぱり急いでたのって、影のことだったんだ。
「でも夢の中って……影、ないよね?」
膝に手をつきながら周りをきょろきょろするけど、そんなものは見当たらない。
やっぱり、朝と同じ空だ。
「ああ、まだない。影になる前に、夢を改変しに行くんだ」
「えっ、ええっ? どういうこと!?」
まだ影になる前なのに、なんでわかるんだろう。もしかして、紀月くんって未来が見える、とか!?
「とりあえず、夢の中に入るぞ」
「う、うん! わかった!」
とまどいながらもわたしはうなずく。
森の中へ入り、しょっていたランドセルを置いた。
二人の視線が合う。
二回目……まだまだ慣れたってわけじゃないけど、きっと大丈夫だよね。
わたしたちは右手の魔法陣をなぞる。
「レーヴ・リベレ!」
呪文を唱えて足元の魔法陣へ手をかざすと、ぶあっと風が巻き起こり意識がぷつりと切れた。
「う、う~ん」
ゆっくりと目を開けて、身体を起き上がらせる。
するとそこは、真っ暗闇だった。
前みたいに、学校とかじゃない。景色なんてなにもなくて、ただずっと真っ暗な世界が永遠と続いていて何も見えない。
光すらない、そんな場所。
「そうだっ、紀月くん」
きっとどこか近くにいるはず。
四つん這いになりながら一生懸命手探りしていると、なにかを掴んだ。
でも、人の手じゃない……なんだろう。
引き寄せてぺたぺた触ってみる。
「あ……これ、ランドセルだ!」
あれ、でも、わたしは置いてきたよね?
そういえば、紀月くんは置いてきていなかったかも。紀月くんのかな?
「夢生、いるか?」
暗闇から、紀月くんの声がした。
「うんっ、いるよ!」
そう返事をすると、ぱっと目の前に小さな明かりがともる。
眩しくて少し目を細めながら見ると、そこにはたしかに紀月くんがいた。
手には、ライトのついたスマホがある。
「よかった! 会えて」
「ああ」
わたしは立ち上がって、ぱんっと片手でスカートのすそを払う。
「そういえば紀月くん。ランドセルって持ってる?」
「俺のか? 夢の中に入る前に置いてきたが」
……ん?
じゃ、じゃあ、わたしが今手に持ってるのは……!
おそるおそる視線をおとすと、ランドセルはふしぎな黒い塊に変わっていた!
「うわあっ!」
びっくりしてそれを手放すと、塊はまるで生き物みたいにシャシャシャッっと動いて暗闇に消えていった。
「な、なにあれっ……!?」
「たぶん、影の一部だ。あの大きさだと、影として現実世界に姿を現すのも時間の問題だ」
か、影の一部! とんでもないものだ。
「そうだ! ここは、誰の夢の中なの? これだけ何もないと、ヒントがなさ過ぎてわからな……」
「おいっ!」
わたしがたずねようとすると、急にさえぎられる。
「夢生、うしろ!」
「え?」
言われた通り振り向くと、そこには。
「な、なにこれっ!」
ライトで映し出された足元は、なんと深い深い谷!
ええええあぶないっ!!
「あ、ありがとう……」
夢の中とはいえ、落ちたりなんかしたら絶対まずい。
よ、よかった……。
わたしはそっとその場から離れる。
「ここは“誰か”の夢の中というわけじゃない。今回は、何人もの毎日積み重ねられた小さな悪夢が影になって現れるケースだ」
「何人、もの……」
「今日、かなりの人数の人が休んでいただろ」
「あ、そういえば」
8人休みなんて、多いなって思ってたけど……。
でもそれと悪夢が、どう関係があるんだろう。
「だからもしかしてと思ったんだ。悪夢が集まると、全部の夢が合わさった悪夢に変化する。それがここだ。そしてこの悪夢は、人を苦しめるんだ。8人全員とは限らないが、少なくとも2、3人は悪夢を見たことで欠席をしている可能性が高い」
な、なるほど……?
つまり、みんなの悪い夢が一つになって悪夢になっちゃったってことかな。
「でも、そしたら夢を改変することは難しいよね。どうするの?」
「俺も、それはよくわからないんだ。一つ一つ、地道にやるしかないかもしれない」
紀月くんはあごに軽く手を当て、うつむく。
一つ一つ夢を改変していったら時間も無くなっちゃうし、そのあいだ芭由ちゃんのときみたいに影がすごく大きくなる可能性があるよね。
「……う~ん、分からないけど、とりあえず進もう!」
わたしは景気づけるようにそう言った。
考えていても、仕方ない気がする。
紀月くんが顔を上げた。
「歩いていたら、なにか見つかるかもしれないし!」
紀月くんは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに眉をキリッとあげた。
「ああ、そうだな。わかった」
「よし、じゃあまずはこの谷を渡る方法を……」
「それなら、あそこにつり橋があるな」
紀月くんがライトを当てた先には、たしかにつり橋みたいなものがかかっている。
二人で顔を見合わせ、うなずく。
街を壊したりなんてさせない。絶対守って、悪夢からみんなを救い出したい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます