第12話 生徒会と前兆
その日、わたしは仕事にうまく集中できなかった。
あのとき、過去を思い出したことに混乱していたんだ。
ときどき浮かぶ、記憶。
それは、わたしにとってなにもかもを変えた出来事。
たぶん思い出したのは、紀月くんに手を握られたから。
思い出すときと思い出さないときがあって、タイミングなんてわたしにもわからない。
だけど、フラッシュバックするあの記憶がわたしにとっていいものではないことは、たしかなんだ。
次の日の朝。教室に着くと中には誰もいなかった。
そういえば昨日依悠くんと通った道はもちろん正式な道じゃなくて、正門は別のところにあったんだ。
今日は、ちゃんとその門を通ってきたよ!
ところどころ席にはランドセルが置いてあるから、みんなが登校してないってわけじゃなさそう。
黒板に「朝は全校集会 体育館」と書いてある。もしかしてもう、学校に来た人から行っちゃったのかも。
体育館の場所……どこだろう。
と思っていると、ドアががらりと開いた。
「夢生ちゃん! おっはよ~」
手を振ってやってきたのは、依悠くんだ。
「おはよう、依悠くん!」
あいさつをすると、後ろに紀月くんもいることに気が付く。
昨日のわたし、変だったよね……紀月くんもなにか、思ってるのかな。
だけど聞かれても、うまく説明できる自信がない。
「全校集会……って、あ、夢生ちゃん、体育館の場所分かんないよね? 一緒に行こうよ」
「えっ、いいの?」
「もちろん! 紀月も一緒に行こー」
依悠くんは後ろを向いて紀月くんに声をかける。
「よし、じゃあランドセル置いて、行こ~!」
「うん!」
わたしは返事をして、元気な依悠くんといつものようにだるそうな紀月くんと教室を出た。
わたし、依悠くん、紀月くんの順番で三人並んで、ろうかを歩く。
「そういえば、夢生ちゃんに紀月のこと紹介したっけ?」
依悠くんがふと思い出したように言った。
わたしはあっ、となる。
そういえば依悠くんに紀月くんのこと、紹介はされてない。
つまり今、依悠くんの中でわたしは紀月くんのことは知らないってことになってる。
「でも、二人なんか初対面って感じじゃなかったよね。知り合いだったの?」
「えっ」
続けてそんなことを言い出し、わたしは思わず声を出す。
い、依悠くん、けっこうするどい……。
「まあ、そんなところだろ。夢生」
どう答えようかと迷っていると、紀月くんがそう言ってわたしのほうをちらっと見た。
「う、うんっ! そうだよ!」
わたしは慌ててうなずいた。
「へえ、そうなんだ! あ、おれは紀月と親友なんだ~」
「親友って、おおげさな」
隣で笑いあう二人を見て、本当に仲がいいんだなって思う。
紀月くんにとってわたしは……ただの知り合い、なのかな?
もちろんそれと同時にドリーマーバディでもあるんだけど、友達かと言われたら……ちょっと違うような。
わたしと紀月くんとの関係って、いったいなんていうんだろう?
体育館について、5年C組の列へと並ぶ。
とりあえずわたしは一番後ろへ並んでおいた。
それにしても、すごい人だ。体育館もとっても広いし。
そういえば、香凌学園は小中高一貫校なんだよね。だからなのかな。
しばらくして、全校集会が始まった。
内容は、南小に通ってた頃の全校集会と同じ感じだ。
校長先生の長いお話と、業務連絡と……。
そしたら、なんだか“生徒会からの連絡”みたいなのが始まった。
「今日は欠席の生徒会長に代わり、副会長から連絡があります」
司会の人がそう言うと、袖からマイクを持った男子生徒が出てきた。
あ、あの人……。
わたしはその姿に見覚えがあった。
前に、天根家の正門で見た“響星様”だ……!
あのときと同じ制服を着ているし、たぶん間違いじゃない。
「みなさん、おはようございます。生徒会副会長の天根響星です。今日は会長に代わって僕が、連絡をしていきたいと思います。それではまずは、校則改定の件について―――」
響星様が話し始めると、周りからこそこそと話し声が聞こえてきた。
「ねえ、天根副会長やっぱかっこいいねー」
「だよねだよね~おとなっぽいっていうか」
たしかに、大人っぽい雰囲気ではあるかも。
……って、天根!?
ということは、本当に紀月くんの親戚だったんだ。
それに、同じ学校。わたしたちとは違う制服だから、中学生か高校生かな?
生徒会は、小中高一緒ってこと?
う、う〜ん、よくわからない。
考えているといつのまにか全校集会が終わっていた。
教室、ちゃんと戻れるかな。校舎結構広いみたいだから迷わないといいけど……。
同じ制服を着た子たちに着いていけば大丈夫かな!
そう思って歩いていると、なんだか入り口付近に人が固まってるみたいだった。
わたしと同じくらいの学年の女の子たちっぽいけど……なにかあったのかな?
「紀月くん今日もかっこい~!」
「依悠くん、かわいいよーっ!」
人ごみの中から、そんな声が飛び交う。
……え、もしかして。
いや、もしかしなくても、紀月くんと依悠くんのことだよね!?
あの二人そんなに人気なのっ!?
南小ではこんな光景見たことなかったから、女の子たちが男の子を囲うなんてことあるんだ……とびっくり。
そのあとなんとか無事に教室に帰ることができ、朝の会が始まった。
「えーと今日のお休みは……うん、8人ですね。かなりの人が休んでいるので、みなさん風邪には気を付けて、しっかり体調管理してくださいね」
は、8人……!?それってけっこう多い。
変な風邪でも流行ってるのかな。
わたしも気をつけないと。
朝の会が終わって、わたしは一時間目の準備を始める。
それにしても、香凌学園ってやたら教科書の量が多いなあ。これを毎日持ち帰るの大変だよ~。
「おい、夢生」
「えっ、紀月くん!?」
とつぜん、わたしの席まで紀月くんがやってきた。
驚いて大きな声を出してしまう。
そしたら、急に紀月くんが真剣な顔をした。
「……まずいことが起きてる、かもしれない」
「まずいこと?」
わたしは首をかしげる。
影が発生したのかと窓を見てみるけど、特にそんなものは見当たらない。
「まあいい。とりあえず、放課後教室に集合だ」
「えっ、わたしの仕事は?」
「俺から休みの連絡を入れておく。じゃあな」
そして、さっさと自分の席へと戻っていってしまった。
な、なんだったんだろう……。“まずいこと”、って?
放課後になったら、分かるのかな?
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