sweet 4 5人のアイドル!?

 いーち、にーい、さーん、よーん、ごー……うん、やっぱり何度数えても五人。間違いない。


 も、もしかしなくても、バイト先の家主たちって……。

 お、おばあちゃんじゃなーいっ!



「ねえっ」


 するととつぜん、一人が玄関前の階段を降りてきた。

 暗めの猫っ毛ブロンドの髪を揺らし、バッと私の顔を覗き込む。

 あ、この前ぶつかった……。



「キミが、壱世いっせいくんの言ってたなんちゃらサービスの人?」


 きらきらっとしたまんまるの大きな目に見つめられながら、そう訊かれる。


「は、はい! そうですよっ!」


 ここで押されちゃだめだ!

 はっきりと意思を示していかないと!

 私は心の中でひそかにそう誓った。


「成耶、距離が近いよ。サービスの人困ってるからね」

「はーいっ」


 ごめんねっ☆と、バチンと音でもしそうなくらいの完璧なウインクをして、私から離れる。


「すみません、うちのが。ご無礼をおかけしました」


 三番目に家から出てきた、しっかりした雰囲気の黒髪の男性が私の前まで来て頭を下げてきた。

 い、いや、そこまでしなくても……と少し怖気づく。



 ……ん? ていうか、う、???

 ただの友達に普通、“うちの”なんて使うかな?

 ま、まあありえないことはない……?

 多少の違和感を覚えながらも、なんとか自分を納得させる。


「清水さん、でしたよね。どうぞ」

「あ、ありがとうございますっ」


 私はお礼を言って、そろりと敷地内へと足を踏み入れた。

 その瞬間、5人のうちの一人がささっと家の中へ入ってしまった。


 すると、ぶつかった人……ええと、成耶さんって呼ばれてたっけ。

 その成耶さんが、ちょっと困ったみたいに笑った。


「あ〜気にしないで。ちょっと人見知りなんだよね、あいつ」

「そうなんですねっ」


 まあそういうのは人それぞれだし、一人くらい人見知りな人がいても変じゃない。

 それからなんだかんだと家に入れてもらった私。



 ————家の中も、まあすごかった!


 5人いても広々とした玄関は、大きな植物が置かれていてもなぜかすっきりしている無駄のない空間。


 その近くのドアの奥まで案内してもらうと、私は思わず目を見開いてしまった。

 二階まで吹き抜ける白で統一されたLDK。



 大きな窓からは太陽の光が差し込み、素敵なお庭が見える。

 まるでモデルルームじゃん、ここ……!!


 本当にあったのかとまぼろしと疑うような目できょろきょろと眺めていると、さっきの人を除いた4人が私の前に並んだ。


 一番右にいた成耶さんが、ニコッと笑って言う。



「ねえ、先に自己紹介させてよっ!」


 あ、そうだった。向こうは私のことを知っていても、私は知らないわけだし……。


「は、はい! どうぞどうぞっ!」


 私は床に荷物を置いて、ビシッと姿勢を正す。

 これから一緒に暮らすんだ。

 物覚えの悪い私だけど、名前はちゃんと忘れないようにしないとっ!



「じゃあ、いい?」


 最初に口を開いたのは、まるでさっきの礼儀正しい人だった。



「俺は、若月壱世わかつきいっせい。頼りないかもしれないけど、なんでも聞いてね」

「は、はい!」



 お兄ちゃんみたいな優しい雰囲気で微笑まれて、じーんと心が温かくなっちゃった。



「おれの名前は大里成耶おおさとなるや! 誕生日は11月19日で“いい一句”! これからよろしくねっ!」



 続いてあいさつしてくれたのは、成耶さん。

 元気な感じだし、すぐに仲良くなれそう!


 もし時間があるなら、一緒に料理とかできたらいいな〜。

 家事代行の意味、なくなっちゃうけど。



「オレは宮畑蒼都みやはたあおと。よろしくね」


 次に名前を言った宮畑さんは、私に向かって優雅に笑う。

 うっ、自発光してるんじゃないかと思うくらいの王子様スマイルだ。

 この人も優しそうだし、仲良くなれそうかも?



 ———そして最後に、左端に立っていた人が口を開いた。



「……一条叶芽いちじょうかなめ



 ———そ、それだけ?


 一条叶芽、と自己紹介した人は微笑むことも笑うこともなくそっぽを向いた。



「え〜それだけっ? もっと他にないの~?」

「うるせえな。別にいいだろ」


 口を尖らせてそういう成耶さんに、一条さんが反論する。

 ……ま、まあ、ね? ひとーりくらいこういう人がいても……おかしくはないよ、ね?



「ごめんね、こんなんで。そうだ、あともう一人は本田類ほんだるいね。部屋からあんまり出てこないけど、よろしく」

「あっ、よろしくお願いします!」


 若月さんがお名前を言ってくれたので、本人はいないけど思わず頭を下げてしまう。

 と、そのとき、なにか違和感を覚えた。


 ……自己紹介が、なんだか妙に慣れてるような……と。

 特に成耶さん。あんなあいさつ、普通は出てこないよね。


 そこで、この前のことを思い出した。

 成耶さんとぶつかったときの事。


 あのときたしか、同じ学校のはずなのに成耶さんのことを初めて見て———。

 ま、まさか!



「あ、あ、あの!」

「どうしたの? 清水さん」


 きょとんとした顔の若月さんと目が合う。


「も、もしかして……」


 衝撃的でちょっと信じられない。


「皆さんって———芸能人、だったりしますか?」


 一か八か思い切ってたずねると、4人が顔を見合わせた。

 あれ、違うっぽい?


 だ、だよね〜、そんなこと、あるわけない……。



「俺たちは、まあ芸能人かな。———アイドルグループ“sweetball”のメンバーだよ」


 なんてことないかのように、若月さんはそうさらりと口にした。



 って———あ、あ、アイドルグループっ!?!?



『アイドルなんかに興味はありませんか? 特に、男性アイドルグループとか』


 一週間ほど前の面接官の言葉が、私の脳裏をよぎる。

 あれはもしかして、そういうこと!?



 私は並んだ四人のことを、一人ずつ見る。


 ルームシェアするのって……この、5人って。



 アイドルなの!?

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