2話「ホムンクルスの反撃」

 国防軍の連中から暴行という名の行為を余すことなくこの身一つで受けきると、


「おら、さっさと立て!」


 漸く満足したのか二人の手が止まると同時に男が怒鳴りながら命令を口にしていた。

 どうやら国防軍の軍人というのはストレスが溜まりやすい仕事らしく、子供程度の頭でも思いつく煽りの言葉を間に受けて暴行に及ぶ組織であるようだ。


「はっ、魔法が使えなければ幾ら最強の貴方でもただのサンドバッグね。まあこれからは精々その力を国の為に使うことよ」


 男の怒声が耳に響いたあとに透かさず横から女が何かを言い放つが、そんなことは俺からすればどうでもいいことであり、まるで何事も起きていないような雰囲気を敢えて見せつつ伏せていた体を起こして立ち上がる。


 事実俺の体は人造人間であるが故に超回復ナノマシンが投与されていて、少しの怪我ならば自動的に回復するのだ。仮に腕や足が吹き飛んだり切断されたりしても同様にな。

 まあ傷の具合によりけりだが深い傷ほど寿命を消費して治すことになる。


 それから体を起こして冷たい地面を踏みしめると先程まで暴行の行為に及んでいた男と女に交互に視線を向けるが、そのあと直ぐに周囲を見渡すように顔を動かすと街灯や護送車の数や国防軍の軍人が三十名ほど居るということが現状で把握できた。


 まあ当然ながら全員が最低限の武装を身に付けていて、暴走もしくは指示に従わない素振りを見せた途端に魔法攻撃を一斉に行うつもりなのだろう。例え物品愛護の精神を押し殺してでも。

 本当に殺意の意識だけは無駄に高い日本国防魔法軍所属の軍人達と言わざる他ないな。


「ふっ、この俺を輸送するのにこれだけの人員と設備だけとはな。随分と舐められたものじゃないか」


 そう独り言を漏らしながらも予てより計画していた作戦を実行に移すことを決意する。

 逆に今この場で何かしらのことを起こさなければ、このあと待ち受けているのは本当にただの操り人形としての一生のみだ。


 俺とて感情のない人造人間ではないが、国防の為だけにこの身を捧げる気は毛頭ない。

 そういうのは国防軍の連中だけで勝手にどうにかして欲しいところだ。


「ああ? 何か言ったか実験体?」


 すると耳が良いのか独り言に対して男が威圧的な態度で反応を示してくる。


「はぁ? 貴方を舐めているですって? ははっ、そんなわけないじゃない。この設備と人員を見ても理解できないのかしら?」


 男が反応を示したあとに女も便乗するように口を開くと、依然として妙な笑みを浮かべながら強気な態度と口調を見せてきた。しかしその肝心の設備と人員が駄目だということを指摘しているのだが……どうやら国防軍の連中は都合の良い言葉しか聞き取れないらしい。


 だが連中がこれほどまでにも強気な態度で出られるというのは、恐らく護送車から放出されている特殊な電波が俺の魔法を封じているからであろう。でなければ暴行を与えた時点で今頃奴らは国産のミンチ肉か細切れ肉へと姿を変えている。まあ無論のことだが俺の魔法攻撃でだ。


 けれど改めて考えれば所詮は魔法を封じられただけのことであり、元々の身体機能に依存する体術までもが封じられた訳ではないとして、まずは準備運動がてら盛大な歓迎をしてくれた目の前に立つ二人をやる事にする。


 それでも安心して欲しいのだが何も命までは刈り取らないでおいてやる。

 これは決して慈悲などではなく、単純に後々のことを考慮しての考えだ。

 主な理由としては連中の命を奪うと罪のない同胞達に迷惑を掛けてしまうことになるからだ。


「だからその設備と人員をしっかりと見た上で言ったんだよ。この間抜け共が」


 計画を実行に移す自身の合図として明確な暴言を二人へと向けて言い放つと、解放されて自由に動かせる足を使い地面を蹴り上げて一気に彼らの元へと接近して、最初の狙いを男の方へと定めると鳩尾に目掛けて渾身の蹴りを入れ込む。


「うぐあっ!?」


 そうすると鈍い声が発せられると共に男は少量の血を吐きながら後方へと吹き飛ばされて地面へと伏せていた。多分だが内蔵系が僅かに損傷して血を吐いたのだろうが、死ななければこちらとしては全くの無問題である。


「あがっ……あぐっあ……」


 地面と熱い抱擁を交わしている男は一向に反撃する素振りを見せず、一度だけ大きく体を跳ねさせると痛覚が許容値を超えたのかその後は気絶したように動くことはなかった。


「な、なんですって!? 魔力は封じている筈なのに……どうしてこんなことが……」


 男が気絶した所を目の当たりにしたことで女が明らかに動揺の声色を晒すと、次第に呼吸すらも乱れ始めていくと共に瞳の動きが短調なものへと変化していた。


「これは魔法ではないからな。ただ単純に体術を使用しての戦闘だ。故に魔法封じの電波は無意味に等しい」


 女が漏らした言葉に解答を与えるようにして返事をしていくと、次はこの者をやらなければならないとして視線を向ける。


 すると女は恐怖という感情に全身を呑み込まれたのか、後退りをするように二歩ほど足を後方へと進ませていたが、それでもやはり国防を担う者としての自覚はあるらしく、額を汗か雨で滲ませつつも右手を前へと突き出して向けてきた。


 それは見るからに魔法攻撃を仕掛けてきそうなほどの物騒な雰囲気を醸し出していた。

 しかしよく見れば女の右腕にはブレスレット型の魔法行使デバイス、通称【MAD】が装着されているのが確認できた。


 ちなみにMADとは何かを簡単に説明すると、魔法を発動させるのに必要なアイテムということだ。そして奴が身に付けているのは軍用に改造されたMADだということも理解できる。

 

 まあその他にもMADには多岐に渡る能力や種類があるのだが……今ここで長く語ることではないだろう。現状で自分が成すべきことは自由を得ることのみであるからだ。

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