1話「国防軍の暴行」

 国防軍所属の二人組から護送車から降りるように言われると、俺としては大人しく指示に従う意思を見せるのだが、どうやら向こうは何故か苛立ちを抱えているようで、到底穏やかな雰囲気には見えない。


 しかも国防軍の二人はしっかりと自分たち用の雨具を用意しているにも関わらず、当然の如く俺の雨具は用意されてなく降りしきる雨の中に体を晒せと言わんばかりである。


 一応これでも国防の為に態々遠いところから輸送されて来たというのに、これでは些か待遇というか扱いが奴隷のようではないだろうか。


 恐らく連中は一人の人間として俺を扱うつもりは毛頭ないのだろう。

 なんせ魔法強化人間で人造人間という存在だ。

 意図的に作られた生命体に意味はないということなのだろうな。

 

「おい、命令を無視しているのか? 反抗的な態度は処罰の対象となるぞ、ナンバーズ0001」


 しかしそんなことを思案していると男が腰に手を添えて何かを取り出そうとしていたが、それは多分だが近接専用に特化した軍用の特殊警棒だろう。大方それを使用して痛めつけてから言うことを聞かせようとでもしているのだろうな。


 けれど一番手早い手段としては魔法を行使して俺に痛みを与えることであり、特殊警棒如きの打撃では蚊に血を吸われた程度と同じ感覚で意味はない。


 だがこんな所で魔法という大きな攻撃を発動すれば普通に被害が出るからな。

 国に属する人間は物品愛護の精神が強いことから、国から支給された物に傷などはつけたくないのだろう。


「なんども言うな。一度言えば理解している。お前らとは頭の作りが違うのでな」


 少しだけ国防軍の二人を煽るような言葉を使うと、そのまま解放された足で護送車から降りるべく歩みを進める。


 それから護送車から降りて大粒の雨が降り注ぐ夜の外へと立つと、今の時間は直感的に深夜2時頃であろう。ここで更に言うなれば日付は3月1日ということもだ。


 まあ研究施設がある離島からここまでヘリ輸送や護送車を利用して運ばれてきた訳だが、扱い方はまるでそこらへんの荷物と同じだったな。

 ……いや、もしかしたらそれ以下の扱いかも知れないが。


 ――――そして車から降りて動かずにその場で待機していると、急に背後から重たい衝撃を受けて気がつくと体は前方へと突き飛ばされていた。


「……っ」


 そのまま全身を水溜りへと浸すと腹部と背部から雨水が浸透して、瞬く間に体の温度を奪われて冷えていく感覚を鮮明に受ける。


「人間様に作られた非人間が偉そうなことを言ってんじゃねえ」


 すると背後からは男の野太くも苛立ちが込められた声が聞こえてくると、どうやら奴こそが蹴りを入れて水溜りへと突き飛ばした犯人のようである。


「無様ね。貴方たち人造人間はそうして地面を這いずる方のがお似合いなのよ。はははっ!」


 更に背後からは女性が笑いながらそんな言葉を浴びせてくると、現状で考えられることとしては先程の俺の発言に対して二人は明確に苛立ちの感情を抱いたということだろう。


「まったく、これでは風邪をひいてしまうではないか」


 いつまでも水溜りに身を伏せている訳にもいかないとして、拘束された手を巧みに使いながら立ち上がろうとすると――――


「……ぐっ」


 再び背中に何者かの足を乗せられて冷たい雨水が流れる地面に伏せることとなった。

 よほど連中は俺と地面を仲良くさせたいように見えるが、そういうのは余計なお節介だということを知らないのだろうか。


「なに勝手に起きてんだぁ? お前は暫く、そこの水溜りと仲良くしてな」


 またもや男の野太い声が再び聞こえてくるのだが、どうやら先程の俺の推測は僅かに的を外れていたらしい。


 予想としては地面と仲良くさせたいのかと考えていたのだが、その考えはどうにも間違いらしく仲良くさせたいのは水溜りのようである。


 いやはや、これは流石に予想外の回答だと言わざる他ない。

 しかしこれらの言葉や態度を聞いたり見たりすれば、俺たち人造人間が魔術師からどんな扱いを日々受けているか理解してもらうのは容易いことだろう。


 だけどもこれだけ憎悪や嫌悪をあからさまに向けられるのは世界広しと言えど俺ぐらいであろうな。これは決して自慢なのではないのだが俺自身、数ある人造人間の中でもかなり特別な個体なのだ。だからこうして魔術師たちからは忌み嫌われる存在という訳だ。


 だがそれでも俺の情報を完全に有している連中には限りがあるのだ。

 それは日本国が俺や同胞達のことを国家級の秘匿事項としているからである。


 無論だが外部に漏れると色々と面倒ということも勿論あるのだが、下手をすれば他国との関係性を崩壊させかねない存在だからというのが大きな要因であろう。

 

 ――けれど今はそんなことを思案していても仕方がない。それに今度の足は男性のものではないということだけは簡単に分かるのだ。なんせ大きさや重さが先程のと全然違うからである。


「これはこれは……生憎と俺にそんな特殊な趣味はないんだが?」

 

 変な趣味を持つとして認識されているのならばそれはそれで普通に心外であり、僅かに体を上げて振り返ると後ろでは女性が相変わらず醜い笑みを浮かべて、ハイヒールのような鋭利な靴を背中へと押し当てながら踏みつけていた。


 しかも姑息なことにただ踏むだけではなく、それに加えて適度に捻りを行うことで背中の皮膚に更なる痛みを少しだけ与えてくるのだ。


「あははっ! これからがお楽しみよ。たーーっぷりと付き合ってもらうわよ」


 そんなことを言いながら女性は背中を踏み続けていた足を退かすのだが、このあとの出来事は想像に難くないであろうと同時に言うまでもないだろう。概ね予想通りの展開で逆につまらないまであるのだ。


 だが幾ら予想通りと言えども暫くの間は国防軍所属の男女から横腹を蹴られたり、特殊警棒などを使用して背中周りを強打する勢いで力の限り殴られたりと、ありとあらゆる暴行を受けて彼らのストレス発散に付き合わされることとなったのだ。

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