第11話 大事な話がある

 "魔法少女ムッキマン"の存在が世間に認知され始めてから約二週間。


 ここは図軽ずけい市立図軽南ずけいみなみ高等学校、通称ケイナン。

 魔法少女とともに化物の存在も明るみなった事もあり、安全のため一時は授業数を減らし、部活動も無期限停止とし、生徒に早めの下校を促していた。

 しかし、魔法少女が問題の化物を早急に排除してくれていたこともあり、なんだかんだあってその方針はなかったことになっていた。


 そして現在は昼休み、立ち入り禁止であるはずの屋上にいくつかの人影があった。


「やっぱノゾムの魔法少女には足りないものがあると思うんだ。」

 そう言って話を切り出したのは木下広きのしたひろし、一般人。


「碌な話じゃねぇだろそれ。」

 しかめっ面で弁当のおかずを口に放り込む男は剛田希ごうだのぞむくだんの魔法少女本人。


「見た目が失敗していることだけは間違いないッチ。」

 悪態をつくテッチ、魔法生物"マジモン"。


「私もヒロシと同意見だ。おそらく似たような内容だ。」

 広に同意を示すのはベル、魔法の国"マジルテ"の姫。


「本当か?それなら同時に発表しようよ。」

「うむ。」


 二人が息を合わせ答える。

「「変身後の名乗りがない。」」


「いらねぇいらねぇ。」


 やる側になってわかったが、変身して、名乗って、バシッと決める。これはある程度まともな見た目からカッコイイを作ることが出来るから意味がある。

 ある程度をはるかに下回る変態寄りの格好をした俺が決めたところで、それはただの恥の上塗り。

 やりたくないが、なぜか変身後に体が勝手に台詞とポーズまで決めてしまうんだ。

 これ以上の羞恥はいらない。


 意見が合い仲良くハイタッチをしていた二人がのぞむに詰め寄る。

「ノゾム、お前はわかってない!」

「そうだ!確かに名乗りがなくても君は困らない。だが、相対するネガティブルはどうだ?」

「は?」

「私は知っている、ウルハントが君の呼び方に困っていたことを。」

「さらに!変身バンクは名乗り、決め台詞、そして決めポーズ!それが全部そろって完成となる!」

「今までは魔法少女の事を隠していたが、故あって公になってしまった以上、助けに来たことを知らせるために名乗りは大事なものだ。民のためにも、奴等ネガティブルの為にも最後のピースを埋める時が来たのだ。」


 敵を気遣うなら俺の気持ちも考えてほしいな。

 希はそう思いつつ、掴んだ唐揚げを口に含む。



 さてここは魔法の国マジルテ、王の城の一室。四天王の三人が揃っていた。

「で、アンタはあいつの事なんて呼んでいるの?」

「魔法少女とか、貴様とかだな。」

「なにそれ味気なさ過ぎてつまんないわね。」

「仕方ないだろ!奴め名乗りやしない!」

 ウルハントとマジョリィの言い合いを横で見ていたキジンがぽつりと一言。


「難儀、だな。」

 そう呟いた。



 場所は戻り学校の屋上。ひろしとベルの話はまだ続いていた。


「そんな訳で、魔法少女の名前を決めるべきかと。」

「決まりだな。」


「そんな訳もどんな訳もねぇんだが。」


「そうは言うが、ノゾムが名乗らなかったから"魔法少女ムッキマン"って呼ばれることになってんだよ?」

「ヒロシの言う通りだ。だが、まだ言われ始めてから日が浅い。君自身がしっかり名乗ることで、嫌だと言っているその呼び名を変えることが出来る可能性があるのだぞ。」


 希に電流走る。

「そ、そうか。そうすれば、俺が決めた名前を呼ばせることが!出来るのか!」


 広がにやりと笑みを見せる。

「そう言うことだ。」


「なんとでも!?」


 ベルが大きくうなずく。

「なんとでもだ。」


「じ、じゃあ"爆裂魔法少女-"」

「却下。」

「却下だな。」


「まだ途中までしか言ってねぇだろ!」


 どうにもおさまりが悪い名前だろうと予感している二人は、顔を合わせてじゃあどうぞと発案を促す。


「"爆裂魔法少女ハカイシン"。」

「ほら見ろ却下だ。」

「却下だな。」


「なんでだよ!」


「ノゾム、僕も反対派だけど理由があるッチ。」

 納得がいかず歯を食いしばっている希に、先程まで幸せそうにパンを頬張っていたテッチが肩を叩く。

「仮にマジルテを救ったとして、英雄の名前が破壊神は印象が良くないッチ。」

「そう、あまり気持ちのいい捉え方はされないだろう。私は見た目と名前があってないって理由だけどな。」


 俺は別に破壊神でもいいと思うが、確かにどちらかと言えば悪人寄りの名前かもしれないな。

 見た目イメージと名前…ちょっと悶々とする。


 広がパン、と手を叩く。

「じゃあノゾムも納得したことだし、魔法少女の名前を決めようじゃないか。」


「俺の案が却下されるならいらねぇんだが。」


 すぐさまベルが手をあげる。

「"ムッキマン"って、どうだろう?」

「おい。」

「んーいい名前だ、採用!」


「ちょっと待てぇ!あんたら初めからムッキマン以外にする気なかっただろ!聞こえのいいことばかり言いやがって!」


 広とベルが素早く希と肩を組む。

「まぁ考えてみろノゾム、今更名前を決めてもどうせ皆ムッキマンって呼ぶよ。」

「さっきと言ってることちげぇじゃん。」

「それにだ、記憶消去魔法を使うんだ。たとえ君がどれだけ新しい名を叫ぼうが皆忘れてしまう。そうなればすでに浸透している通り名であるムッキマンとしか言わないだろうさ。」


「だとしたら今までのやり取りは一体何だったんだよ。」


「よし、決まりだ!今日からノゾムは"魔法少女ムッキマン"だ!」

「聞けよ。」


「よろしく、ムッキマン。」

「よろしくねぇよ。」

 握手を求めるベルの手を押し戻す。


「お前、姫様の握手を拒否するなんていい度胸してるッチね。」

 そんなことに割って入ってくんな。


「受け入れるんだノゾム、楽になるよ?」

「魔法少女本人の俺が妥協する側になるのおかしいだろ。」

 未だ肩を組んでいた広をひっぺがす。


 終わらない談義、頑として名前も名乗ることも認めない希、意地でも納得させようとする広とベル。


 突如テッチが何かを感じ取り、三人を制止する。


「皆!ウルハントの魔法を感じるッチ!あいつめ、現れたッチよ!」

「なんだって!?どこなんだ、テッチ!」

「えっと…真下?」


 そう言った矢先、校庭から悲鳴が聞こえた。


「あの野郎!またしても人が多い時間帯を狙ってやってきやがって!」

「物凄く近いのが救いだね。行くんだよね!ノゾム!」

「……ああ!助けに!」


 鞄から変身パカットを取り出す。そして開けた先の真ん中のボタンのような物に触れようとした瞬間、手が止まる。


「うわぁー!助けてくれ!ムッキマン!」

「あいつはムッキマンが倒してくれる!早くこっちへ逃げるんだ!」

「ムッキマンー!!!!はやくきてくれーっ!!!!」

「なにマンだかなんだか知らんが来てみろ!魔法少女!俺は今、虫の居所が悪いんだ!」


 生徒たちは皆、魔法少女の到着を待ち望んでいる。


「あの、さ。今あの場に変身して現れたら、俺がムッキマンって名前だと認めるようなもんだよな?」


「それがどうした!ノゾム!君はムッキマンだ!"魔法少女ムッキマン"なんだ!!」


 その名前が嫌だって言ってんだ。


「弱きを助け悪をくじく!困っている人は見過ごさない!それが魔法少女ムッキマンなんだよ!」


 安っぽい売り文句やめろ。


「さぁノゾム!ンフッ魔法少女…ムッキマンに変身してあいつを倒すッチ!」


 半笑いで鼓舞すんな。


 今出たくないとはいえ、戦える俺が行かないと陽の気が吸い取られ放題だ。

 ……そうだ、あの場で別の名前を名乗ればいい。ムッキマンではないと否定するんだ。記憶消去魔法を使われようともあの犬ウルハントに届けばいい。あいつは記憶消去の対象外だ。それしかない!


 覚悟は決まった!戦え!


 俺が!皆を守る!


「キラメキ!メイクアーップ!」


 希の全身が光に包まれる。


 髪色がピンクに染まる

 生えるツインテール

 肘までのびる真っ白なグローブ

 少しかかとの高いロングブーツ

 ピンクをベースカラーとした白のフリフリドレス

 を、筋肉がミチミチと引き伸ばす

 その胸には変身パカットがパッと咲く


 -両足を揃え、華麗に着地。


 ウルハントとマジムリーを真っ直ぐ見据える。


「来たな!魔法少女!」

 ウルハントが希を睨む。


「ま、魔法少女だ…!」「ムッキマンがきたぞ…!!」「あれが、ムッキマン…!初めて生で見た…。」「ムッキマンきた!これで勝つる!」

 生徒たちは口々にムッキマンを呼ぶ。それはいつしか歓声となっていた。


 そして今、俺はそれを真っ向から否定する!


 名乗り!決め台詞!決めポーズ!すべてをそろえて!!






「魔法少女!ムッキマン!!」

「人様に迷惑をかける悪党め!ミンチにしてくれる!!!」



 ………こうして、正式に"魔法少女ムッキマン"が誕生してしまった・・・・・








 ちなみに、名前を聞いたウルハントはどこか嬉しそうな表情をしていたらしい。

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魔法少女ムッキマン ひらすけ @hirasuke

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