第10話 「次こそは倒してやるからな!」

 魔法の国、マジルテ。

 常に陽気な雰囲気に包まれており、国民が魔法と言う不思議な力を行使し、あらゆる事柄をその魔法で解決している年がら年中お祭り騒ぎの国。


 と言うのは過去の話。今は"かげの王"と呼ばれる災厄の封印解放を目論む"ネガティブル"と名乗る組織の襲撃を受け、国は意気消沈していた。


 乗っ取られてしまった国王の城、その一室へ四天王の一人"ウルハント"が怒りを露わにしながら入って来た。


「あぁクソ!また負けた!あの男め!なぜいつも都合よく現れやがる!」


「帰ったか、ウル。最近は負け続きのようだな。」

 部屋の奥から野太い声が聞こえる。

「新たに現れた魔法少女はそれほどの強者とでも言うのか?」


「キジンか、強いというよりは…」


「……なんでこの部屋真っ暗なんだ?明かりつけろよ。」

「ウム、わしはまだ奴と対峙しておらんからな、姿がわからぬようにとキコヒモリのやつがの。」

「何に対する配慮だよ。」

「マヌケねキジン。文字媒体なんだからそんなことしても意味ないじゃない。」


「体を真っ黒にしてる奴が何言ってやがる。」


 少々豪華な椅子に全身真っ黒の人が座っていた。


「はーいはい、おふざけはやめますよ。んで、新しい魔法少女って何者?いくら適合者が強くてアンタは弱いと言っても気を全く奪えずただ逃げ帰るだけなんて相当よ?」

 真っ黒の人は妖艶な女の姿へ変わり、悪態をつきながらグラスに入った飲み物を口に含む。


「人間の男だ。あっちの世界のな。」


「ム、あちらの世界の…」

「男ぉ!?」

 飲み物を吹き出し大きな音を立てて女は立ち上がる。


「ちょっとぉ!魔法"少女"って言ってんでしょ!?男が少女名乗ってんのどういうこと!?」

「そもそも別世界の人間が適合者になった事があるとは聞いたことがないぞ。」

「知らねーよ、なったもんはなったんだ。それがこいつだ。」


 そう言ってウルハントは魔法少女との戦闘記録映像を映し出す。


「アラ?すごく筋肉質だとは思うけど、ちゃんと女の子じゃない?嘘はやめてよね。」

「ん?ああそうか、魔法少女は正体を知らん奴には別の姿に見えるようになっているらしい。」


「これが本来の姿だ。」

 ちょちょいと魔法を使って魔法少女にかかっているフィルターを取り除く。

 そこには"サイズ違いでパツパツに引き締まったピンクのフリルドレスを着た大柄な男"が立っていた。


「アハハハハ!なにこれ!?こんな可笑おかしな姿の魔法少女いるわけないじゃん!笑わせないでよね!」


 ウルハントは黙ってそっぽを向く。


「…………なんで黙ってるのよ?ちょっとした悪ふざけでしょ?」

「悪ふざけじゃない。正真正銘この姿だ。」


女の顔が引きつる。

「えぇ……なんでアンタくそ真面目に相手できるのよ…?」


「なぜ、なんだろうな。奴がくそ真面目に向かってくるから、か?」

「へーそう。」

「興味ないなら聞くな。」


「して、こやつは強いのだろう?」

 二人のやり取りを無視して映像を見ていた"キジン"と呼ばれる大男が口をはさむ。


「もっと気にするところあるでしょ。この戦闘狂!」


「戦いにおいて姿形などどうでもよかろう。」

「ウル、どうなのだ?要所に素人ではない動きがみられる。」

「強い。が、所詮は身体能力での力押しだ。まぁ、その力押しの出力がおかしいのだが。」

「おそらくまだ魔法少女の力に振り回されている状態だ。全員で叩けば倒せる。」


「嫌よ。」

「わしもお断りだ。奴が力を使いこなせるまで待った方が戦いがいがある。」


「なんでだよ!?そこの戦闘狂はまだしも、嫌ってなんだマジョリィ!」

「気分じゃないから。それに、まだ私のマジちゃんから気の抽出が終わってないから動きたくてもうごけないわよ~。」


 気の抜けた返答にウルハントの息が荒くなっていく。

「アラ、短気はよくないわよ?」

「貴様!」

 三人が囲っているテーブルに両手を叩きつけ、支柱をへし折り破壊する。


「こらウルハント、怒るのは構わないが、物を破壊するのはいただけないな。」


「あぁ?キコヒモリか、今まで何してやがった。」

「陽の気の抽出状況の確認と空いてる装置のメンテナンスだよ。思いの外時間がかかってしまってね。」


「へぇ、進捗どうですかぁ?」

 マジョリィと呼ばれた女が揶揄からかうように聞いた。


「悪くない。マジョリィ、お前のマジムリーからはもうすぐ抽出が終わりそうだ。」

「あと、これは個人的に調べたのだが、僕の予想通りマジルテとあの世界とでは陽の気の性質が少し違う。直接体に取り込むのは危険だったよ。マジムリーを生み出す魔法を開発しておいて正解だった。」


「ふーん、よくわかんないけどマジちゃんは必要だったのね。」

「ケッ、抽出待ちのマジムリーなんて置いて行ってさっさと次の狩りに出ればいいものを…」

 破壊したテーブルを蹴飛ばし、ウルハントはどかりと席に着く。


「ウルハント、お前の無機物をマジムリーにする"傀儡魔法"は行動命令を設定できる分おとなしい。対してマジョリィの生物を変質させる"洗脳魔法"はどういう訳か彼女以外の命令は聞いてくれない。いなくなると途端に暴れだすかもしれない。これは汎用ではない特殊な魔法ゆえの欠陥だ。」

「だから終わるまでは迂闊にこいつをだせないってか?」

「そういうことだ。」


「ただお前は最近外に出すぎだ。碌に休まず魔法を使い続ければ生み出すマジムリーも弱くなる。ウルハント、魔法は体が資本だ。魔法少女は敵がいなきゃ変身しない、むやみやたらと相手取ると向こうも力の使い方を覚えてしまう。しばらく休みたまえ。」

「ぐぐぐ…」


「アッハハー!怒られてやんの!」

 マジョリィがウルハントを指さし、ケラケラと笑う。

 それをキコヒモリがにらみを利かせさえぎる。

「元はマジョリィ、お前が目的通りに動いていればウルハントが一人で出ることもないんだ。少しは反省したまえ。」


「わかったわようるさいわね。じゃあ出ればいいんでしょ?抽出が終わるのはあとどれくらいよ?」

「十日ほどだ。」


「はーい。まったく、王の野郎が封印扉の前に"大量の陽の気でしか開かない封印門"なんか作らなきゃ陽の気を集めるなんて面倒なことしなくてもよかったのにさー。」


 そう言ってマジョリィが目を向けた先にはかげの王が封印されている禍々しい雰囲気が漂う扉、そしてそれに触れられまいと一面に薄紅色の壁が張られている。


「わしらに勝ち目がないとわかってからの行動が早かった。一国を守る王なだけある。」

「まぁ封印は守れたけど国の奴等守れてないのは笑えるけどねー。」

「あの王なら実は守ってた、なんてことはやりそうだがな。」


「なんにせよ、姫様の封印の力が溜まるまでまだ時間がかかる。それまでに王の封印門を破ればいい。各々役目を忘れず、陽の気を集めてくれ。破るための方法は僕が準備しておく。」


「すべては陰の王のため。」


 拳を素早く胸に当て、キコヒモリは部屋を出て行った。


「……あれやってんのあいつだけなのよね。何?」

「おそらくだが、わしらの団結を促すものかと思われるぞ。」

「するか?あれで?」


 こそこそ話をする三人、審議の結果は"しない"が三票だった。


「まぁいいわ。今日は疲れちゃった、もう解散ね。また今度ー。」

 そう言ってマジョリィは姿を消した。


「はぁ、文句を言われた手前、俺様は休まざるを得ないな。じゃあな、キジン。」

「うむ。」


 部屋が静寂に包まれる。

 封印の扉の隙間から不気味な音がこだまする・・・・・

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