第9話 広、屋上に来てくれ
時計の針が12時半を指す放課後、
学校の三階、立ち入り禁止の柵をくぐり、さらに階段を上った先には屋上の入り口がある。立ち入り禁止なのだから当然だけど、ここは常に閉め切られている。
その屋上の入り口ドアの前に俺は来ている。
ドアにゆっくりと手を添え、深呼吸の後、謎の合言葉を唱える。
「ジョッピンカウ」
すると、体がドアをすり抜け屋上に放り出されてしまった。
バランスを崩し転びそうになるも、なんとか踏ん張り顔をあげる。
目の前に映るは見知った友人。それと見覚えのある一人と、一匹?
「逃げずによく来たな、ヒロシ。待っていたぞ。」
「なんで決戦前の敵役みたいなこと言ってんの?」
彼は腕を組んで仁王立ちをしていた。物凄く悪い顔もしていた。
*
「えー…と、言う訳で俺が魔法少女なんだが頼むからこの事は黙っていてくれ。」
そう言って友人の俺に向かって土下座する彼は
俺、
つい一か月ぐらい前から市内で空に向かってのびる"光の柱"が立て続けに発生していて、俺も色々調べていたんだ。
けど、発生源の近くにいた人達は何も知らないって言うなんとも不思議な現象だった。
しかし昨日、その真相に触れることになる。
発生源には化物がいて、そいつを倒した際に光の柱が発生するというものだった。化物は"魔法少女ムッキマン"が倒してくれたが、その魔法少女が希だった訳だ。
魔法少女の正体や戦いの跡などは秘匿の物らしく、記憶消去の魔法を使ってごまかしていたが、俺には一切効かなかったみたいで説得のようなものをされていた。
「言いふらす気はないから土下座はやめてよ。」
「本当か?助かるぜ。」
希は安心した様子で座りなおす。
「あ、紹介が遅れたがこいつらが魔法の国?の姫と謎の生物だ。」
希の後ろで説明をしていた二人が前に歩み出る。
「私はベル・マジルテ・ポジティブハート。魔法の国"マジルテ"の姫だ。ベルと呼んでくれて構わない。ノゾムの友人、いや、ヒロシ。この度は助けていただき感謝する。」
「僕はマジモンのテッチだッチ。謎の生物じゃないッチ。」
「よろしく、お願いします。」
深く礼をする二人に広はぎこちなく礼を返す。
「しかし、
「封印の仕組みの都合だッチ。陰陽両方の気を均等に維持することで封印が成立している。どちらか片方に大きく偏ると綻びができてしまうッチ。」
「私達の国マジルテは陽の気で満ち溢れている。君達の住むこの世界から集めた気とマジルテにある気を合わせればバランスを崩すことが出来てしまう、と言う事だそうだ。」
「要は収集が手軽な方を手段として取り入れていて、今は足りない分を確保しているって事だ。」
ベルとテッチが頷く。
「でもさ、マジルテは襲われて、なんとか二人だけここに逃げ着いたって話だったよね?」
「そうだな、ネガティブルの奇襲にあってしまったからな。」
「悪者に支配されちゃった時って周りが陰気になってプラスのエネルギーが出来ないって漫画とかでたまにみるけど、マジルテはそうじゃないの?」
もし陽の気が出来ないなら集団名が"ネガティブ"である以上、陰の気で偏らせた方が楽なのでは、と思っての発言。
「たしかに本来悲しい気持ちに包まれていると陽の気は発生しないはずなのだが、私達もマジルテに帰る方法がないから現状がわからないんだ…」
「ただ、陽の気を求めているってことは、おそらくヒロシが話している状態ではなく、相変わらず陽の気に溢れていると思う。」
「なんにせよ姫様が
姫を守る方がついでかよ。
…まぁ姫様本人が気にしてないからいい、のかな…
「戦いは俺に任せろ!けど、ちょいと聞きたいことがある。」
今まで話にいまいちついていけてなかった希が口を開く。
「魔法少女って俺以外いねぇのか?」
希以外、それすなわち追加戦士ってことかな。
「お前みたいな見た目の奴が何人もいるのはちょっと勘弁してほしいッチ。」
「俺も嫌だよ。」
「嫌だけど、俺一人じゃ多勢に無勢だ。ヒロシも変身して戦えたらなって思って。」
「え?」
「嫌ッチ。変態を増やそうとしないでほしいッチ。ノゾムよりはマシだけどヒロシも大概だッチ。」
「こぉ~のテメェ見た目キュートなら何言ってもいい訳じゃねぇぞ?」
「事実だッチ。」
希とテッチがバチバチににらみ合う。
「待て待て、そもそも変身パカットは私が持っていた一つしかなかったし、あったとしてもヒロシが適合者とも限らないんだぞ。」
「つまり、諦めてってさ。ノゾム。」
「ぐぬぬ…俺だけ醜態を晒すのが嫌だから巻き添えにしてぇのに…」
テッチの顔を鷲掴みにしている希が悲壮感溢れる表情を見せる。
「
小さな手足をバタバタと震わせる無力感漂うテッチが妙に滑稽だった。
*
時計の針が13時を回る。退校を促す放送が流れる。
「もう昼のいい時間だし、どこかで何か食べながら今後のことを考えよう。」
「そうだな、腹も減ったしな。」
「もしかしてこの建物までの道にあった飲食店に行くのか?なんだかいいにおいがしていたから気になっていたんだ!」
「まぁ金もねぇし行くのはその辺のファーストフード店だから、あんたの口に合うかわかんねぇけどな。」
「…ふぁーすとふーど?」
屋上のドアをすり抜け、話をしながら玄関へ向けて校内を歩く。
のだが、放課後で少ないながらもすれ違う生徒の視線が気になる。
「なんか見られてねぇか?」
「うん、しかも俺達じゃなくて…」
広と希は横へ顔を向ける。
「私達がどうした?」
キョトンとした顔のベルとテッチに尋ねる。
「認識阻害魔法、使ってる?」
…
……
………
「「あ。」」
「「オイ。」」
「記憶消去魔法だッチ!!」
学校内が一瞬まばゆい光に包まれる。
周りの生徒が次々と意識を失い倒れていった。
「ふぅ、危なかったッチ。これでこの建物で僕たちを見た者はいなくなったッチ。」
「しばらくしたら疑問もなく起き上がるから安心してくれ。」
「えぇ…ソウダネ…」
広は思った。こいつら本当に隠す気があるのだろうか、と。
希が肩を組んで呆れ気味に言う。
「あいつら、あれで大丈夫だと思ってんだ。怖えーよな。」
そして、この惨状に慣れてはいけない。そう心に誓った・・・・・
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