第8話 魔法少女、バレる
腰まで伸びるピンクのツインテール
真っ白のグローブ
少しかかとの高いロングブーツ
筋肉でパツパツに広がった明らかにサイズ違いのフリルドレス
「いや思ってたのと違うよそれ!!」
「魔法少女って言ってるんだからさぁ!女の子になるとかせめてパッと見の変化とかそういうのあるじゃん!それこそテレビとかで映っていたあの姿とか!ノゾムの素体そのままピンクに包んだらただの変態じゃん!ヤベー格好したヤベー奴にしかならないよ!」
「それは俺の台詞だ!!!」
希が鬼の形相で言い返す。
「なみだがかわく。」
子ども達は呆気に取られており、泣き止んでいた。
「ごめんね、ノゾムの友人。後で見なかったことにしてあげるッチ。」
テッチが広の肩に手をのせる。
「えっなにこれ…?」
「これは失礼ッチ。」
突然現れた謎の生物に広は奇怪な表情を見せる。
「僕はテッチだッチ。そんなことより早くここを離れるッチ。」
「えっと…うん。」
「ひろし、行くよ。」「筋肉のお兄ちゃんのじゃまになる。」
冷静になった子ども達に連れられて移動を始める。
よし、これで存分に戦える。
希は目の前の敵に集中せんと、構える。が、ウルハントがいないことに気付く。
「おっと!逃がさないぜ?大事な養分だからな!」
ウルハントが広たちの目の前に瞬間移動をして、皆を連れ去ろうと手を伸ばす。
しかし、見えない何かに弾かれ触れることが出来なかった。
「防御魔法だッチ。残念だったッチね。こっちに来そうな気がしたから使って正解だったッチ。」
「チッ、小癪な!」
「ノゾムの友人たち、ごめんッチ。離れるって言ったけど防御魔法を使った以上、ここを動くことは出来なくなったッチ。絶対に守り切るから、怖いけど、ノゾムを信じてほしいッチ。」
皆深くうなずく。
広はようやっと状況に思考が追い付いてきた。
苦しそうな表情で二足歩行の犬の攻撃を防御する謎の生物。
化物の攻撃をさばき、受けつつもこちらを不安気に確認する希。
恐怖に表情が歪みながらも、不思議と覚悟が決まっている子ども。
次々と起こる不思議な出来事。妄想ではなく現実。逃げ場を失った一般人に出来ることはただ信じる事。
目の前のこれと、希を。伝える!無事を希に!
大きく深呼吸をして広は立ち上がる!鈍い音が響く!
見えない何かに頭を強打しうずくまってしまった!
「立ち上がらないでほしいッチ!あいつ、ウルハントは移動魔法でお前らを狙っているッチ!この防御魔法の内側に入りこめないように極限まで範囲を絞っているッチ!」
「ひろし、へいき?」
「うん…先に言ってほしかった…」
頭を押さえながらもサムズアップをする。
気を取り直して、大きく息を吸って広は大きな声で希を呼ぶ!
「ノゾム!俺達はテッチとか言うこの白い奴が守ってくれると約束してくれた!こっちは気にせず早いことそいつを倒してくれ!」
希はその言葉を聞いて無言で拳を振り上げる。
「俺だってこんな姿長く見てもらいたくねぇしな。さっさと倒して…あれ?」
目の前のマジムリーにコアがない。
先程投げ飛ばした時に頭が見えたがそこにもなかった。一体どこに?
と言うかコアがないマジムリーを倒して良いのか?魔法でコアを破壊しないと大変なことになるって言うが…
「ついてないけどなんかあっても嫌だしな。」
魔法を使うために腰元の魔法のステッキに手をかけるが、何かに気付きその手を止めた。
使うのか?魔法を?あいつらの見てる前で?
魔法の発動条件もとい、マジムリーを安全に倒すための必須行為。踊り。
そう、踊るのだ。"広たちが見守る中"で。
可愛らしい動きなのだ!これを
ピンク色のツインテールが生えた
しっかり鍛えた結構でかい体で
パツパツの女物の服を着た
そんな俺が!友人の前で行う!無理!
白いの、テッチは広たちの記憶は消してくれると言った。
しかし、こと記憶消去に関しては過去二回とも失敗しているから、全くもって信用できん。
今回も失敗してしまったら俺はあいつらにどんな目で見らるかわからん。
でも倒すためには必要な行為、どうする。
対峙するマジムリーを見る。
「コアないから魔法なしでいいか。よし、ぶっ倒す!」
シーソー型のマジムリーはその細長い棒状の体を希に向かって振り下ろす。
希はどっしりと構え、正拳突きを繰り出す。
体と拳がかち合い地面が轟音を立てて割れる。
「ぐっ、硬ぇ…」
押し返せない、それどころかまともに力が入らねぇ。えらく疲労感がある。さっきまでは何ともなかったのにちょっと力を込めただけで…
「ノゾム、まずいッチよ。お前はまだこの前の変身の後遺症が治っていないから、変身後の出力が物凄く下がってしまってるッチ。維持する力もほとんど残ってないからもうすぐ変身も解けてしまうッチ!」
「マジかよ…コアもねぇのにどうやって倒せってんだ…」
「コアがないマジムリーなんていないッチ!絶対にどこかにあるッチ!」
「どこかって、先から先まで見ても何もなかったのにどこに…」
いや待て。そう言えばこいつ最初見た時は二体いたような。
そう思ったが矢先、わき腹に強烈な衝撃が起こり、
かろうじて立ち上がり、並ぶ二体のマジムリーを見据える。
コアが、ある。
俺をぶっ飛ばしたもう一体の正面に。二体で一体って訳か。
時間がねぇ、
魔法のステッキに手をかける。
「やらせるな!マジムリー!」
目下テッチの防御を破ろうと攻撃を続けるウルハントの号令で、二体のマジムリーは希に猛攻撃を仕掛ける。
拳に足に、雨の様に希に襲い掛かる。
かわすのは容易だが、詠唱の暇なく魔法を使えない。
一体が横なぎを繰り出す。それをジャンプしてかわす。いや、飛ばされた。
二体目が縦振りを繰り出す。空中ではかわすことが出来ない!腕を前に構え、防御の姿勢をとる。
マジムリーの体ごと地面に叩きつけられる。叩きつけたマジムリーをもう一体が抱え上げ、槍の様に何度も何度も、何度も突く。
しかし希は倒れない。倒れてはいけない。ただただ耐えている。
「ねぇ、筋肉の兄ちゃんはあいつたおせないの?」
涙ぐむ子どもの一人がテッチに問う。
「倒すさ。けど、それには、魔法が必要だッチ。けど、発動には詠唱と、浄化の踊りがないと、いけない。あれじゃあやってる暇も、ないッチ」
魔法、詠唱、踊り。広は考える。
「ねぇ、その魔法と詠唱と踊り、俺に教えてくれないか?今大変なのはわかるが、何とかしてみる。」
「なんとかって…でも、誰かの手も借りたい程の絶体絶命…ノゾムの友人、僕の体に触れるッチ。お前の脳内に映像を直接送り込むッチ。」
広はテッチの頭に手をのせる。すると頭の中に映像が再生される。
「なるほど、これをあの見た目でやるのか…かなり、きついな…」
「言ってる場合じゃないッチ、ノゾムと会話するなら僕の傍で話したい相手を念じるッチ。」
うまくいくかはわからない。けど、希とはそこそこ長い付き合いだ。あいつの身体能力ならやってくれるはず。
マジムリーの猛攻を耐える希へ声をかける。
「ノゾム、俺だ、ヒロシだ。協力してあいつを倒そう。」
「ヒロシ!?すまんが今はまだ倒す準備ができてねぇ。あんたは知らんだろうが…」
「魔法だな?観たよ、なんかその、ごめん。」
「観たのか…まぁそうなんだ、あれを踊らなきゃならん…」
「正直見たくはないが、任せてくれ。」
「まず敵についてだがおそらく簡単な命令で動いてると思う。魔法って言ったって万能じゃない、物に意思を宿して自己判断で行動させるなんて高等技術もいいところだ、たぶんな。あの犬が新たな命令をしない限りずっと同じ行動をするんじゃないかと思ってるんだ。」
「つまり!?」
「動きがパターン化されているからそれに合わせて無理矢理魔法を使う!」
「どうすればいい!?」
「まずは今受けてるその攻撃を抜け出してくれ!」
「よしきた!」
勝機が見えてきた。一体がもう一体を抱え上げ突きを繰り返しているが、再度突く為に一度退く動作がある。その隙をつく!
一撃を受け止め、体からマジムリーから離れる。今だ!
横っ飛びで突きを回避。だが、攻撃を受けすぎた。体はボロボロ、肩で息をしてる。おそらく変身も限界がきている。
「一度で決める。ノゾムから向かって左、こいつを"A"、隣、さっきノゾムを横なぎでぶっ飛ばした方を"B"と呼ぶ。」
「まずはAが右拳を振る。見てからAの左懐へ、その後すぐ詠唱開始だ。行くぞ!」
魔法のステッキを構える。二体のマジムリーが希に襲い掛かる!
"A!右手!"、"B!左手!"、"A!右足!後ろへ!"、"A!左手!"、"B!右足!さらに後ろ!"
Aの左懐へダイブ、左ステップ、右ステップ、回りながら後ろへ、膝をたたみ後方へジャンプ-
「横なぎだ!避けずに続ける!」
「パラリラ・ピリリカ・プルル・ペ・ポウ!」
魔法のステッキをビシッと天へ掲げる。
そしてマジムリーBの横なぎが飛んでくる。
しかし、その攻撃は希の真後ろにあるジャングルジムに阻まれた。
「AはBの横なぎを避けるためにジャンプする!そして一緒に飛んだ相手を縦振りで叩く!これが一連の動作!横なぎを止めてもらうためにジャングルジムの傍まで移動したのさ!ノゾム!!」
「悪しき者を!浄化せよ!!!」
竹刀の形をした魔法のステッキに淡い光が宿る。
「あとは頼んだ!!」
「サンキュー!ヒロシィ!!」
マジムリーの縦振りが空を切る。狙いは横なぎを失敗したB!!!
「突きー!!!!」
コアごとマジムリーの体を貫く。断末魔とともに光の柱が立ち上る。
「んな、バカな…」
ウルハントは希を睨む。
が、希からは凄まじい気迫を感じる。
良くない経験がフラッシュバックし、捨て台詞を吐いて消え去って行った。
と、同時に希の変身が解け、その場に倒れこんだ。
取り込まれたベルも、マジムリーを倒したことで解放されていた。
広が溶けるように地面へへたり込む。
「はぁ…よかったぁ…」
「お前凄いッチね、傀儡魔法にそんな弱点があるなんて知らなかったッチ。」
「防げない強行動擦っていればいいだけなのに、わざわざ不必要な行動してからそっちに繋げていたから、もしかしたらそうかなって。遊具で攻撃を防げるかは賭けだったけどね。」
「ちょっと何言ってるかわからんッチ。」
「そうかい。ひとまずノゾムを病院に連れて行かなきゃね。」
膝をついてゆっくり立ち上がる。
「ノゾムは僕たちが何とかしておくッチ。お前たちは今日のことをきれいさっぱり忘れてほしいッチ。」
「えっ?」
*
「起きたか、ノゾム。」
目を開け起き上がると、ベルが横に座っていた。
「よかった、助け出せてたのか。」
「うむ、ありがとう。体は治療魔法で治しておいたぞ。」
「ああ、なんか心なしか体が軽いな。ありがとう。」
ベルはにっこり微笑む。
「ベルちゃん、ノゾムは起きた?」
部屋の扉が開き、希の母が入ってくる。
「あら、ちゃんと起きたね?もう朝よ、学校行くんだから早くしたくしなさいな。」
「はーい。ずいぶん長いこと眠ってたんだな。」
立ち上がり、登校の準備を始める。
「今日ぐらいはいいんじゃないか?結構な死闘だったと聞いているが?」
「元気になったからいいんだよ。休みすぎてもよくないからな。」
「ふーん?」
*
通学路、昨日と同じくベルとテッチはついて来ていた。
「そういや白いの、ヒロシ達の記憶消去は上手くいったんだよな?」
「当然だッチ!あの一帯は何が起きていたか皆認識できてないッチよ。」
どうにも信用ならん。が、今朝のニュースは"光の柱が発生した"程度の情報で、魔法少女の話は憶測でしか話してなかったからたぶん上手くいっているんだろうな。
「あっ、ノゾム。おはよう。」
覚えのある声に体が強張る。
「よう、ヒロシ。」
記憶消去が出来てるとて、こいつは噂話に余念がないため、当事者の俺はいまいち気が休まらなくなってしまった。
「昨日のお二人さんもおはよう。無事でよかったね。」
ん?昨日の?無事で、よかった?
希はベルとテッチに振り向く。二人は何度もうなずく。認識阻害魔法は使ってるらしい。
「あれ、ノゾムの知り合いだよね?昨日の化物に飲み込まれた人と白いの、テッチって言ってたっけ?」
「…あのさヒロシ、昨日何があったか知ってる?」
「もちろん!ノゾム、あの格好は正直どうかと思うぞ。」
「どぉうして覚えてるんだよおぉおぉ!!!」
ぐしゃぐしゃの顔で横に飛びのき背中から壁に激突する。
「どうしても何もあんなの忘れる方がおかしいというかなんというか。」
「おそらくだがノゾムの友人という事と、忘れるには余りにも惜しい突拍子もない出来事だったために記憶消去魔法の効力が弱まってしまったのだろうな。」
「そんなことあるんかよ!?」
「魔法は万能じゃないッチ。時には魔法の力を超えられてしまうこともあるッチ。」
「くそぉ!一番覚えててほしくない奴だったのによぉ!!」
「まぁ、黙っとくからさ、元気出せよ。」
広が希の肩に手を置き、立ち上がらせようと手を貸そうとする。
「誰のせいでこうなってると思ってんだよおぉぉ…」
こうして、俺は一番知られたくなかった奴に魔法少女の正体がバレてしまった。
希の悲壮感溢れる声が朝の通学路を通り抜ける・・・・・
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