第6話 今日が日曜日でよかった

 動けない。全く。体は痛くはないが力が入らない。

 マジムリーとの二度目の戦闘を行った次の日、のぞむは自室のベッドで寝込んでいた。


「動けなくなったのが今でよかったな!」

 ベルが腕を組み言う。


 しかめっ面の希が文句を一つ。

「これ、どうにかならねぇのか?変身する度にこれじゃあ敵に気付かれた時に敵わなくなるぞ。」


 テッチが語気を強くして返す。

「どうもこうもお前が力の制御を出来ればこうはならないッチよ。」

「出力が体の限界を超えているから反動でそうなってるだけだッチ。」

「昨日だって制御する気もなく力いっぱいぶんぶんと……」


 小言がうるさい。毎回これを聞くことにはなりたくないな。


「じゃあ、どうやって制御するんだ?コツを教えてくれ。」

「えっ?うーん………………」

 悩みに悩み、パッと思いついた表情で応える。

「考えるな、感じろ?」

「役立たずかよ。」

「なんだッチ!こっちが一生懸命考えたのに!!」

「感覚の話をしてんじゃねぇよ!わかるように言え!」


 喧嘩のようで動けない希の顔をテッチが一方的に叩いている。


「だが、感覚頼りと言うのは全くの間違いではないぞ。」

 ベルが二人を制止する。

「魔法、あるいはそれに準ずる力と言うのは私達にとっては日常だ。使うにあたって慣れがある。」

「しかし、君にとっては未知の代物。扱う経験が全くない以上、私たちのアドバイスが的確かもわからないのだ。」

「まずは"魔法を使う"と言う感覚を身に着けるんだ。」


「そうなると、とにかく経験を積むしかないってか。」

「昨日みたいに何も考えずに使えばいいって訳じゃないッチよ?」

「意識しろ、ってことだろ?」


 煽ったつもりが予想外の返事にテッチは言葉が詰まる。


「ベル、参考までに聞くが、あんたは変身した時どうしてるんだ?」

「私か?うーんそうだなぁ、"纏う"ようにしているな。」


 ちょっと何言ってるかわからねぇな。


 魔法の練習はしたいが、その度にあの姿に変身しなければと思うと今はまだ気持ち的に無理。辛い。

 ましてや誰かに見られたら色んな意味で終わる。迂闊なことはできない以上、やはり実戦でどうにかするしかない。

 敵が本腰いれて襲ってこない事を祈るか。



 -部屋のドアががちゃりと開く。

「ノゾムー、いつまで寝てんの?朝練あるんじゃないの?」


「って、あら、ベルちゃん、テッちゃん、おはよう。」

「おはようございます、母上殿。すまないがノゾムは昨日の戦いの後遺症でしばらく起き上がることが出来ないのです。」


 ベルは希の母に頭を下げ、状況を説明する。


「またなの?だらしないわねぇ。私が若い頃はそんなことにはならなかったわよ?」

「筋肉痛と一緒にしないでくれ…」

 母さんはため息をつきつつも心配するそぶりは見せてくれている。

 俺達に朝飯が出来ていることだけ伝え、部屋から出て行った。


 と、ここで疑問。

 昨日からすでに違和感はあったのだが…


「あんたらなんでうちに馴染んでるんだ?」


 誰も不思議がらなかったのである。

 "正義の味方、今日から一緒に住むことになった"。これだけだ。

 ファンタジーに疎い父さんがよろしくとしか言わなかった。

 弟のまもるはウキウキだった、そういうお年頃だしな。


「君のご家族はとても優しい方たちでな、事情を説明したら快く受け入れてくれたのだ。」

「事情?」

「ああ、君が魔法少女に選ばれた事、私達がそれをサポートす-…

「言ったのか!?俺が、魔法少女だって事!!」

「えっ、まぁ…」


 急に体に力が入り、勢いよく起き上がる。

 知ってるのか、魔法少女だってこと。

 どう説明したかわからないが、父さんの視線がなんとなく冷たい気がしたのはこのせいか。ひでぇよ。

 ベッドに転がり、うなだれる。


 くそ、こいつらが俺ん家まで来なければ魔法少女になってしまったと家族にバレることもなかったのに…









 まず俺ん家来れてるの、なんでだ?


 初変身後はそのまま病院に運ばれて一度も帰宅していない。

 のに、俺よりも先に居た。

 その間二人には会ってもいない。ついて来たにしては母さんと馴染みすぎていた。


 ベルとテッチが顔を合わせる。

「ここにはお前が変身した時に溢れた魔法の残り香を辿って来たッチ。」

「テッチは相手の魔法の痕跡を辿ることが出来るんだ。」


 卑怯じゃん。

「卑怯ってなんだッチ?」


「それ使ってよ、敵の拠点見つけられねぇの?」

「あいつらはうまく痕跡を消してるッチ。現れた時に感知するぐらいしか出来ないんだッチ。」

「なにか相手の魔法の質が解るような物が手に入れば見つけられそうなんだけど。」


 "魔法の質"と言うのがなんの事かわからんが、現状は敵が現れたら倒していくしかなさそうだ。

 そういえば朝飯ができているんだったな。朝練もあるし準備を済ませよう。


 リビングのテレビには朝の情報番組が映っていた。


図軽ずけい市新円南高校にて、またもバケモノが現れました。前回に続き人の多い場所へ現れるため、市内では不安の声が上がっています。』

『そんな中颯爽と現れ、バケモノを退治して去っていくこちらの少女、誰が言ったか"魔法少女ムッキマン"とSNSなどで話題になっています。』

『女の子なのに"man"なんですか!?』


 そこには魔法少女姿の俺に変な名前が付けられ、フリップにでかでかと紹介されていた。


 俺は膝から崩れ落ちた。

 ちなみに部活はマジムリーのせいでしばらく活動停止になった・・・・・・

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