第5話 魔法少女、注目を浴びる
変身してしまった。しっかりと決めポーズまでして。
胸の変身パカットから話し声が聞こえる。
「流石だぞノゾム!なんだかんだ言いつつ変身するとは!」
「お前、他人の危機に対して無意識に飛び出す人間なんだッチね。躊躇が全くなかったッチよ。」
「しかし、格好は想像よりも悪くないし少しカッコイイじゃないか。」
「姫様、それはちょっと趣味が悪いッチ……」
同感である。
「貴様!昨日の女装魔法少女!?」
「女装魔法少女…?」「あの人、ニュースに映ってた女の子だよな?って、女装…?」「すげぇ筋肉…」「スカート短くないか…?」
周りがざわつく。カメラを切る音もする。
「おいあんたら、注目しなくていいから早く逃げてくれ。」
希はシッシッと手を払う動作をする。
悲鳴を上げて逃げ出す者、お礼を言って立ち去る者、なおもカメラを構える者、何かを期待している者たち。三者三様である。
「いや三者三様じゃねぇよ。全員どっか行けって言ってんの。」
「貴様、昨日の今日でまた邪魔しに来るか。」
「ああそうだ。ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろ。」諦めた様な口調で応える。
竹刀型の魔法のステッキを取り出しヤケクソ気味に踊り、呪文を唱える。
「パラリラ・ピリリカ・プルル・ペ・ポウ!悪しき者を浄化せよ!」
「「えっ」」
向かい合う獣、ウルハントとテッチは希の行動に目が点になる。
ステッキが淡い光に包まれたことを確認し、サッカーゴール型のマジムリーへ全力で駆ける。
「行くぜ!先手必勝一撃必殺さっさと終わらす!」
「ちょちょ待つッチ!あのマジムリーのこともわからないのに気が早すぎるッチ!」
コアはゴールネットの繋ぎ目、一か所だけ輝いているのが見える。
一直線に貫けばいいだけ。タネが解ればあっという間よ!
しかし、突然ゴールからシャッターがガラガラと音を立てて下りてきて、マジムリーの体はシャッターに包まれてしまった。
「なんじゃありゃあ!?」
ゴールネットを突き破るつもりで突っ込んだせいで止まることが出来ない希は、閉まったシャッターに顔を強打した。
「また顔面ぶつけるのかよ…」
シャッターに沿ってずるりと滑り落ち、地面にへたり込む。
「残念だったなぁ!こいつは魔法少女の魔法に反応して自動で身を守るのだ!名付けて"ゲートマジムリー"!」
「壊せない限り、勝ち目はないぜ?」
「壊せないわけねぇだろ。大木をぶっ飛ばしたパワーがあんだぞ!」
ゆっくりと立ち上がり魔法を纏ったステッキで切り刻んだり突きを繰り出すが、壊れる気配がない。
「ノゾム!危ない!」ベルが叫ぶ。
手の止まらない希へマジムリーが倒れこんでくる。
希はつぶされまいと素早く後ろへ飛びのく。
「み…見え…ッ!」
たなびくスカートにいちいち沸く一部生徒たち。
「あんたら!俺のパンチラに期待しなくていいからさっさとどっか行ってくれ!!」
「!!…俺っ娘!?アリなのか!?」
「アリだな。しかもパンチラに全く羞恥心がないのも王道だな。」
「いいよな。けど強気な口調の少女がちょっと気にするのも…いやまて、さっき"女装魔法少女"って…」
「そういえば。と、言うことは!?」
「「「「「男 の 娘 !?」」」」」
歓声が起きる。
「別の姿に見えているとはいえ、いい趣味してるッチね、あの人たち。」
「………白いの、記憶、消してくれるんだよな?」
「任せるッチ。けど全く逃げようとしないの凄いッチね。」
「たぶん
「君たちの世界の民はずいぶんのんきなのだな。」
「まったくだ。」
呆れながらも守る姿勢は見せる。正直視線が気になって嫌だが仕方ない。
マジムリーは魔法を使ってコアを破壊すれば倒せるが、あいつは魔法を検知すると防御シャッターが下りてしまう。
防御が間に合わないタイミングで魔法を発動できればいいが、踊りながら近づくには隙が大きいし狙いが明白。しかし完全に倒すには踊りが必須。どうしたもんか。
「クハハハ!打つ手なしか?ならばそのままこいつにやられてしまえ!」
シャッターに無数の穴が開き、そこから大砲の砲身が現れる。
「くらいやがれぇー!」
号令と共に弾が乱雑に発射される。よく見るとサッカーボールである。
「ゴールのマジムリーだから弾もサッカーボールなのか。威力は大したことなさそうだな。」
希は自分に向かって飛んできたボールを軽くはじく。
が、痛い。あまりにも固い。
「これ鉄球じゃねぇか!」
外れたボールが地面をえぐり、学校の壁を破壊する。規格外の威力に観戦していた生徒たちの顔が青ざめ、逃げ出そうとする。
「俺の後ろにいるんだ!下手に動くと危ねぇ!俺が守っててやるから安心しろ!」
希は男子生徒達の前に立ちはだかり、声をかける。
「ま、魔法少女さん……」
艶っぽい声が返ってくる。マズイ、寒気がする。
しばらくして敵の攻撃が収まる。
「よし!今のうちだ!早く逃げろ!」
ここしかないと避難を促すが、先ほどよりも人数が少なくなっている。すでに逃げたのか?あの弾丸の雨の中を?
「お探しの者はこいつらか?」
声をする方を向くと、生徒を鷲掴みにしているウルハントがいた。
「なにィ!いつの間に!?」
あいつは昨日の戦いでも瞬間移動のように目の前に現れたりした。俺がガードに徹している間に連れ去ったのか!
希がウルハントに駆け寄る間もなく生徒はゴール内に放り込まれ、シャッターを閉められてしまった。
「こいつはこの枠の中に人を入れるだけで陽の気を吸い取ることが出来る。そして用が済めばこのように排出が出来る。便利だろ?」
横からげっそりした生徒が転がり出てくる。
「あの男!民をゴミのように…!」
高笑いするウルハントをよそに、希が静かに問う。
「なぁベル、魔法ってこの杖以外にも纏わせることができるのか?」
「え?あぁ、おそらくは。本来は纏うのではなく射出するものなのだがな。」
「サンキュー。倒し方が見えてきたぜ。」
「クハハハ!この防御をどうくずすのか知らんがやれるものならやってみろ!」
再び弾幕が希に降り注ぐ。
弾はしっかりと見える。
希は大きく息を吸い、魔法のステッキを握りしめ、ステップを踏む。
「バカな!当たらない!?」
浄化の舞を踊りながら向かってくる鉄球を避け、詠唱を行う。
「悪しき者を浄化せよ!!」
対象は、"向かってくる鉄球"。
淡い光に包まれた鉄球をキャッチし一回転。遠心力を利用し、渾身の力で投げ返す。
魔法を纏った鉄球は敵の打ち出した弾をなぎ払い、一直線にマジムリーへと飛んで行き、鈍い音を立て閉じたシャッターへ直撃した。
が、貫けない。大きく凹みはしたが、シャッターを破壊するには至らなかった。
それを見たウルハントが安堵の声をあげる。
「ク、ハハハ!流石はゲートマジムリー!貴様の自慢のパワーでも貫けなかっ……」
「い、いない!?どこへ!?」
四方どこを見渡しても希の姿はない。
ウルハントの耳がピクリと動く。
「何かが聞こえる…空か!?」
「パラリラ・ピリリカ・プルル・ペ・ポウ!」
見上げた先で希が舞いながら詠唱をしていた。
「悪しき者を!浄化せよ!!!」
そして空中に放り出していた鉄球に魔法を込める。
俺が確認したかったことは二つ。
"杖以外にも魔法を纏わせることが出来るか"。
そしてもう一つは"力押しであのシャッターを破壊できる余地があるか"。
鉄球は魔法を纏った、シャッターは凹んだ。
それならば-
「よく見てろ…重力による勢い!俺が縦に回転することで起きる遠心力で強化される叩きつけるパワー!これは!サッカーにおける大逆転必殺シュート!!!」
「ダンクシュートだぁぁあああああ!!」
さらなる力押しで真っ向からぶちぬく!!!
響く轟音、できあがる巨大な穴。
「力こそ正義、ってな!」
希はあけた穴に入り込み、まだ纏った魔法が残っている鉄球でコアを破壊する。
「バ、バカな…この頑丈なゲートが破壊されるなんて…」
マジムリーの断末魔と共に光の柱が立ち上る。
その光の柱から希が現れる。
「ぐ、くそっ!覚えてろ!」
「まぁ待てよ。」
退散しようとするウルハントの腕を希が掴む。
「昨日も今日も、気を吸い取った人達を食い散らかすようにポイポイ捨てやがってぇ、俺たちはあんたらの飯じゃねぇっての!」
「オアー!」
手に持った鉄球でウルハントの顔をぶん殴る。
「ふぅ、スッキリしたぜ。」
吹っ飛んだウルハントを見て、爽やかな笑顔で希は額をぬぐう。
「ぅおのれ!本当に覚えてろよ!」そう言ってウルハントは消えて行った。
「ノゾム、そろそろ変身が解けてしまうッチ。早く誰もいないところに行くッチ。」
正体がバレるのは色んな意味で危険だ。が、気を吸い取られてしまった生徒を放ってはおけない。
僅かな時間を利用し、希は避難していた生徒の場所まで運んで行き、保護をお願いした後素早く立ち去って行った。
***
-その夜
『今日のニュースです。』
『
『目撃者の証言では前回と同じ格好の女の子と化物との激しい戦闘が行われていたにも関わらず、あったはずの建物等の損壊が消えていたそうです。』
「どういうことだよ、これは。」
希はベルとテッチにSNSの画面を見せる。
【速報】魔法少女、男の娘だった?
『貴様!昨日の女装魔法少女!?』
その投稿にはウルハントが希に言い放った台詞の動画が張り付けられていた。
「えっと…壊れた建物とかあの庭を直すために魔法を使い切ってしまったッチ。記憶消去魔法を使う力は残ってなかったッチ。」
「そんな…」
ベルが希の肩に手をのせる。
「まぁノゾム、逆に考えるんだ。見られちゃってもいいさ、って。」
「いい訳ないだろうがよぉ~!」
希の悲痛な叫びが夜の空にこだまする・・・・・
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