第4話 『昨日のニュースです。』

 俺、剛田希ごうだのぞむが魔法少女に変身し敵を撃退した次の日の朝、学校の屋上へ来ていた。

 休日ではあるが部活動が盛んな学校のため、朝から校内からは活気のある声が響く。

 俺はと言えば本調子ではないため、部活は予定通り休むことにしていた。ではなぜここにいるのか、それは目の前にいる一人と一匹のためだ。


「私はベル・マジルテ・ポジティブハート。魔法の国"マジルテ"の姫だ。昨日は助けていただき感謝する。」

「僕は"マジモン"のテッチだッチ。本当にありがとうだッチ。」


「俺は剛田希。では、えーっと、姫…様?」

「ベルで構わない、かしこまる必要もない。」

「そうか、じゃあベル。あんた昨日病院で安静にしてたよな?なんで傷の一つもなくなっているんだ?」


「私達マジルテの民は傷の治りが早い。あれぐらいの傷ならすぐに完治する。」

「急に居なくなると騒ぎになりそうだから、あそこの建物の人達の記憶は消しておいたから安心するッチ。」


 サラッととんでもないこと言いやがる。

「まぁいいや、聞きたいことがある。これを見てくれ。」

 そう言ってスマホの画面を二人に向ける。


『この映像は昨日、光の柱の発生源と思われる場所で目撃者が撮影したものです。』

 画面に映っているのは昨日のバケモノとの戦いの一部だった。

『わかりますでしょうか、大きな木のバケモノ、そしてやたらと筋肉質の女の子が立ち向かっています。』

『この女の子は光の柱が-』


 映像を一時停止し、スマホに興味津々の二人に希が問いかける。

「ここに映っている女、俺だよな?昨日と全然見た目が違うんだが?」

「へぇ~周りからはこんな姿に見えるんだッチね。」


 的を得ない回答に困惑する希にベルが続く。

「魔法少女の正体は知られてはいけないんだ。だから知らない者には別の姿に見えるようにされているのさ。」

「変に騒がれても困るから、その周辺に居た人達の記憶などはテッチに逐一消去魔法を使ってもらっていたんだ。」


 なるほど、それなら"光の柱が発生した"以上の情報が得られなかった事にも納得がいく。

 ひろしの妄想が妄想ではなかったとは。希は苦笑いで相槌を打つ。


「ん?ならなんで今回はこんなにはっきりとした映像が残ってんだ?」

「それは…ちょっとあの、とんでもないモノを見てしまったショックと言うか…あっ!姫様のことがあって、忘れてしまったッチ!」

 前半の言い訳いらねぇだろ。


「ちなみに、正体がバレた場合はどうなるんだ?」

 二人ともしばらく黙った後、テッチが答える。


「死ぬッチ。」

「死」

「確定事項ではないが。」

 ベルが訂正する。


「君の手元にある"変身パカット"は国の秘宝として保管されているのだが、大事になると自然と適合者の元へたどり着くようになっているんだ。原理はわからんがな。」

「適合者は一人で戦況をひっくり返すことが出来る力を持つが、変身前は非力な人間。その時を狙われてしまえばひとたまりもない。」

「よって敵に正体が知られるイコール死と言うわけだ。」


「へぇ~じゃあ俺、一番バレちゃいけねぇ奴に見られてないか?」

 またしても二人が黙る。


「まぁここは奴の知らない世界、君を見つけるのも容易くはないだろう。たぶん…」

 冷汗たらたらのベルが答える。寝首をかかれないといいなぁ…


「あ、そういや奴と言えば、昨日のあいつらは俺達に何をしていたんだ?なぜあんたを連れ去ろうとしていたんだ?」

 "マジムリー"と呼ばれていた木のバケモノ。俺を含め捕らえた人から何かを吸い取っていた。

 そしてベルを連れて行けば野望の達成に大きく近づく。そう言っていた。


「そうだな、まずは私達の国の話からしようか。」


 *


 魔法の国マジルテ。

 全国民が魔法を使用可能で、あらゆる物事を魔法で解決している。


 そしてこの国は王族のみが知る使命がある。

 その昔、国を滅亡の危機に陥れた災厄の化身、影の王を封印し続けるという使命。

 封印の巫女と呼ばれる者の二十年目の生誕日に蓄えた力で再封印を行う。


 ベルが手の甲を見せる。五枚の花びらの紋様がその証である。


 この儀式は近々行われる予定だった。

 しかしその前に"ネガティブル"と名乗る者たちがマジルテを襲撃してきた。

 適合者が現れず、負け戦を覚悟した王は、転送魔法を使いベルと護衛のテッチを異世界へと逃がした。


 影の王の封印を解く鍵は二つ。大量の陽の気。そして封印の巫女であるベルの命。

 最悪、ベルの命はなくともそれに値する陽の気を差し出せば、弱まっている封印ならば解けてしまう。らしい。

 変身は王族であれば適合者でなくとも出来る。ベルは陽の気を集めさせないために、正体を隠してネガティブルと戦っていた。


「国民がどれだけ生き残っているかわからないが、私は奴等の計画を阻止して影の王を封印しなければならないんだ。」

 そう言うベルの表情は少々悲しみを帯びていた。




「んで、生誕日っていつなんだ?」

「え?」

「漫画とかのお約束だが、どうせそいつが復活したらここにも影響が出るんだろ?あの姿にはなりたくないが、戦えるのは俺だけらしいしな。」

 希は真剣な眼差しで二人を見る。


「……思えば君がやたら私達の前に現れていたのも適合者だったからなのだろうな。」

 ベルの表情が緩む。

「私の生誕日は火の月、18日だ。まだしばらく先だがよろしく頼む。」


 …………いつだかさっぱりわからん。


 差し出された握手にとりあえず応じる。


 テッチが希によって来る。

「ノゾム、お前は力の制御がさっぱりだッチ。練習の暇がないから実戦で少しづつ制御の感覚を-」

 話の途中、校庭に轟音が鳴り響いた。

 三人は屋上の端に寄り、下を確認する。


「クハハハ!陽の気が集まる建物が他にもあったとはなぁ!大量だぜ!」

 校庭にはサッカーゴールに目と手足が生えた物と、狼の獣が隣に居た。


「あいつ!昨日の!」

「ウルハントだッチ!"ネガティブル四天王"の一人だッチ!」

「昨日の今日でよくも!ノゾム!昨日の戦いで疲れが残ってる中申し訳ないがあいつを頼む!」


 希が待ってくれと言わんばかりにうつむき、手の平を前に突き出す。


「変身の覚悟はまだ出来てねぇ。ちょっと急すぎる!!」

「な、何を言っている!変身しなければ戦えるわけも…!」

 うろたえるベルの肩をテッチが叩く。

「姫様、僕もまたあの姿を見る覚悟が出来ていないッチ。」


 関係ねぇ奴がダメージ受けてやがる。


「し、しかしっ!」

「ベル、俺があんたのしていた格好を丸々真似るんだ。どう思う?」


 -ピンクのツインテール。


 ベルの顔が引きつる。

「…でもっ!」

「サイズ、小さすぎて合わねぇんだ。」


 -ピチピチのフリフリドレス。


 ベルが言葉を失う。

「俺も見捨てたくはない、周りからも俺とわからないようになっているらしい。が!俺の目はごまかしてくれない!すぐに慣れるのは無理だ!キッツイ!!!」

 心からの叫びだった。


 しばしの沈黙。


 そしてベルが口を開く。

「ならば私がやるしかない。パカットを返してくれないか。」

「君たちの態度からすると、おそらく見えるに堪えないものなのだろう。君の覚悟が決まるまでいままで通り私が戦う!」


 ベルが膝をつきうつむく希に手を差し出す。

 見上げるベルの目は迫る恐怖に勇気を振り絞ったように潤んでいる。

 変身パカットを彼女の手へ渡す。


 これでいいのか?俺の覚悟はいつか決まるのか?

 校庭で悲鳴が聞こえる。マジムリーに生徒が捕まってしまったのだ。


 ベルが変身パカットを開ける。


「キラメキ!メイクアーップ!」





 そう叫んだのは希だった。

 変身パカットをベルから奪い取り屋上から飛び降りた。


 校庭に両足で華麗に着地する。

「魔法少女、参上。」

「人様に迷惑をかける悪党め、ミンチにしてくれる!」


 魔法少女に変身した希がマジムリー達と相対する・・・・・・


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