第3話 魔法少女、舞う

 ピンクのツインテール

 真っ白のグローブ

 少しかかとの高いロングブーツ

 筋肉でパツパツになった明らかにサイズ違いのフリルドレス


 のぞむは変身した!魔法少女に!


「いやなんだよこれ!?」

 男である自分が魔法少女と言うからには、見た目から性別まで別物になるのでは懸念していたが、その結果は予想外なんてものではなかった。

 誰がどう見てもヤベーコスプレしたヤベー奴である。

 その証拠に白いの、テッチは俺のことをこの世のものとは思えない者を見ている様な顔をしている。

「思ってたんと違うッチ……」

 俺の台詞だ、それは。


「いやしかし!力がは漲る!恰好を気にしなければ戦える!かかってきやがれ!」

「マヂムリ…」

 バケモノがバケモノ見るような反応してやがる。

「なんだその格好は…冗談キツイぞ…」

 俺もそう思う。


「しかしだ!変身した程度で勝てる訳がない!行けマジムリー!俺様は姫さんを奪う!」

 狼の獣が指示を出し、それを聞いた希が臨戦態勢に入る。


「エッ、マジムリ……」

「えっじゃないだろ!せっかく二対一なんだぞ!役割は分けるべきだ!」

「マ、マジムリィ」

「見た目が無理?まぁ確かにあの格好が気持ち悪いのはそうなのだが…」

「所詮気持ち悪いのはあいつだけだ。倒してしまえばもう見ることもない。」

「マ…」

「そういうことだ。さぁ魔法少…変態!覚悟!」

 マジムリーと獣が希の方を向く。

「って姫さんがいないではないか!?」

「逃がしたが。」

 当然だ、こっち見てないし。


「ぐぐぐ、いつの間に。ならば貴様を消してからゆっくり探し出してやる!」

 今度こそ希に敵が襲い掛かる。

 マジムリーは四本の手を組み合わせ一つの大きな拳を作り、それを振り下ろす。獣は追撃の構えをとる。


 -相手の動きがはっきりと見える!隙だらけだ!


 希はグッと足に力を入れて地面を蹴り、マジムリーの懐へ-

 入るつもりだったが、漲る力が凄まじい勢いを生み出し止まれない。マジムリーの体へ顔面を強打した。

 強力なタックルとなったただの踏み込みは、マジムリーを宙へ持ち上げ仰向けに倒し、なおも勢いが止まらない希は後方に吹き飛んで行った。


「なんだ今のは…?」

 獣が希の居た場所を見る。その地面はやけにえぐれていた。

 程なくして吹き飛んだ先の茂みから文句を垂れながら希が現れた。


「いつも通りに踏み込んだだけなのになんだあの勢い!おかしいだろ!」

「僕も制御出来ていない人の話は初めて聞いたッチ。」

 そこに居ないテッチの声が聞こえる。


「その胸についてる変身パカットは僕と通信ができるッチ。お前は初めてのことだらけだろうから僕がサポートするッチ。」

「そしてその姿からさっさと戻ってもらうッチ。」

 同感である。この服、なぜかサイズが小さく苦しいので早く戻らせてほしい。


「ノゾム!来るッチよ!」


 その言葉と共に、体勢を立て直したマジムリーが平手で薙ぎ払う。

 先ほどよりも軽いステップを一つ、しかしはるか後方にすっ飛んでいく。マジムリーの顔が歪む。希の顔も歪む。

「隙を見せたな!?」

 希の背後に獣が瞬間移動のように現れ、爪を立てて腕を振り下ろす。


 防御が間に合わない希の肩に爪が刺さる……ことはなく、パキリと折れ、宙を舞う。



「そうはならんだろ。」

 爪の折れた自分の手と希を二度見して言う。

「なっとる…だろがぃ!」

 立ち尽くす獣の袖を素早く掴み、渾身の一本背負いを決める。

 その勢いは凄まじく、獣を綺麗にかたどり地面にめり込ませるほどだった。


 黙ってしばらく立ち尽くす。

「そうはならんだろ。」

「なっとるだろがぃ!!!!」

 コの字に埋まる獣が声を荒げる。


「ノゾム!動けないそいつは放っておくッチ!今はマジムリーを倒すッチ!皆を助けられるッチ!」

 テッチの言葉にハッとする。

「そうだ、どうすればいい?力いっぱいあいつをぶん殴るのか?」

「そんな野蛮なことはしないッチ。あいつの体にあるコアを魔法で砕くッチ。」


 コア?明らかに戦意を喪失してるマジムリーの方を見る。

 すると、足となっている木の幹と顔の間に、なかったはずのひし形の何かがついている。

「あれがコア、砕くことでマジムリーを浄化して、吸い取った陽の気を解放することが出来るッチ。」


「さぁノゾム!腰にあるその魔法のステッキで呪文を唱えるッチ!」

 希は魔法のステッキを手に取り前に構える。


「竹刀なんだが!!!?」

「その"魔法のステッキ竹刀"で呪文を唱えるッチ!」

「なるほど!!!!!!」

 使い方は分かる。なぜなら踊るように動きながら呪文を唱える自身の姿が使えと言わんばかりに頭の中で繰り返し再生されているからだ。


 そう、"踊るように動きながら呪文を唱える"のだ!


 可愛らしい動きなのだ!これを


 ピンク色のツインテールが生えた

 大柄な体系の

 はち切れんばかりの筋肉を携えた


 そんな男が行うのである!!


「これをしないと使えんのか!?魔法ってのは!?」

「………そうだッチよ……………。」

 苦悩の声が聞こえる。

「呪文だけで、よくねぇか?」

「あの踊りは、悪しき力を浄化し、鎮める力を得るための、舞だッチ。」

 なんか涙声になっている気がする。

「コアのおかげで、あいつにも理性はあるけど、浄化できずに砕いてしまえば、見境なく暴れる、危険な存在になるッチ。」

「だから、見たくもない事もやらなきゃ!いけないんだッヂ!!」

「……頼むよノゾム、今は、早く終わらせてほしいッチ…ぐすっ…。」


 泣いた。


 踊らなくていいならそれに越したことはないが、しなければいけないのならば仕方がない。やるしかない。

 大きく息を吸い、無心になり、目を瞑り淡々と踊りだし呪文を唱える。


「パラリラ・ピリリカ・プルル・ペ・ポウ!悪しき者を浄化せよ!」


 すると、ステッキが淡い光に包まれた。


 …

 ……

 ………これだけ?


「発動、したのか?」テッチに聞く。

「思ってたんとチガウ…。」

 想定通りのものがまるでないじゃねぇか。


「クハハハ!異界の適合者など眉唾物だったようだな!浄化も出来ない様であれば貴様等に勝ち目はない!」

 体を起こし、必死に地面から這い出ようとしている獣が高らかに笑う。


「いや、待つッチ。魔法は発動しているッチ!」

「なにぃ?」「えっ、そうなのか?」

「ノゾム!そのステッキは今魔法エネルギーに包まれているッチ!直接コアを砕くッチ!!」


 無言で頷き構える。けどこのステッキ竹刀、小太刀よりもさらに短くて打ち込むには体ごとぶつけるしかないんだよなぁ。

 もう少し長くならないだろうか。そう考えていると、ステッキを包む淡い光が丁度良い長さまで伸びだした。

 余りにも都合がよいが関係ない。これなら-


「止めろマジムリー!奴を潰せ!!」

「させるか!!!」


 一歩でマジムリーの懐へ潜り込む。

 勢いを殺す必要はない!

 そのまま振り抜く!!


「どぅあぁぁー!!!!」


 胴打ちが決まる。気を緩めず振り向き構えをとる。

 時間が止まったかのような、ほんの数秒の間。

 コアが砕ける音が聞こえ、マジムリーが断末魔を上げる。

 大きな爆発音とともに、空に向かって光の柱が伸びる。

 あの柱の正体はこいつらを倒した時のものだったか、あの女の子に感謝しなきゃな。


「ば、馬鹿な。さっき変身したばかりの人間に、俺様の魔獣が…?」

「くっ、覚えていろ!次はこうはいかんぞ!」

 狼の獣が捨て台詞を吐きどこかへ消えた。


 希の変身が解ける。


「……はぁ、よかった、本当に。」


「あの姿から戻れて。」


「まったくだッチ。でもこれでマジムリーに吸われた気は解放できたッチ。倒れている人達もすぐに目を覚ますッチ。」

「そうか。」希は安堵する。


 と、同時に体の力が抜けたかのように膝から崩れ落ち、そのまま地べたに倒れてしまった。

「か、体が、動かん。ずっしりと重い……。」

「そうなるのも無理ないッチ。魔法力のない人間が身の丈に合わない力を使ったんだッチ、しばらくはそのままッチよ。」

 女の子を担ぎながらテッチが寄ってくる。


「しかし困ったッチね。お前がそんなんだと姫様を安静にできる場所へ案内してもらえないッチ。」

 厚かましい発言してるなとは思うが、怪我をしている女の子を放っておくのも気が引ける。俺も動けないし誰かどうにかしてくれないだろうか。


 ふと、遠くから聞き覚えのあるサイレンの音が近づいてきた。


「おーい、ノゾムー!無事かー?」

 ひろしだ、救急車を呼んでくれたのか。

「怪我人は!」

 幸い怪我人と言えば隣で寝てる女の子ぐらい。ずいぶん派手に動いていたがよく倒れている一般人を巻き込まなかったもんだ。

 疲れなのか安心しきったからなのか、途端に瞼が重くなり、周りの声が徐々に遠のいていく。



 *



 ハッと目が覚め、飛び起きる。

 辺りを見回す、ここは病室だろうか。


「よう、おはよう。」

 広が安堵したような表情で希に声をかける。

「急に気絶したりするからびっくりしたよ。体調は?」

 体の重さが消えており、本調子ではないが問題もなさそうだ。

 外はまだ明るく、どれだけ寝ていたかもわからないが、それほど時間も経っていないだろう。

 聞けばあの広場にいた皆はこの病院へ運ばれており、命に別状はないとの事。

「で、何があったんだ?」

「…って言っても光の柱が出てたし、やっぱり何も覚えていないのか?」


 ハッキリと覚えている。

 木のバケモノ、喋る獣、姫と呼ばれてた女の子、そしてあの格好。

 しかし、開けっ広げに話すのはよくない気がするので黙っていることにした。


 その後仕事を放りだしてきた両親とも少し話をし、体調も戻ってきたので夕方には退院することが出来た。

 面会時間も過ぎていたため、広と軽い挨拶をかわし、両親は先に夕飯の準備をと張り切って帰って行った。


 *


 街灯に照らされた道を歩く。今日はおかしなことがありすぎた。

 出来事を反芻しながらも、今後は関わりたくないものだとため息をつく。

 明日は土曜日、学校は休みだ。

 テスト期間も終わりさっそく部活動も再開だが、病み上がりと言うこともあり、休む旨を連絡しておいた。


「ただいまー。」


 家に帰ると白いの、テッチと傷だらけで同じ病院へ運ばれていたはずの女の子が母と談笑していた・・・・・・







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