第10話 悪役の実力証明

 〈魔法少女視点〉


 「はっ。悪いな、俺は怪人だ!」


 怪人。


 ただの男子高校生にしか見えない。魔力だって見えない。でも魔法少女でもないのに、怪人を蹴とばせる足腰は間違いなく人のものではない。


 普通怪人を生身の人間が蹴ったりしたら、その部位の骨はほぼ砕ける覚悟をもったほうがいい。なのに見た感じ両足とも支障なさそうに立っている。


 それに……。

 魔力のない怪人ってどういうこと?


 怪人にしろ魔法少女にしろ、如何に擬態が上手かろうとその魔力は隠しきれないのだ。だから私たちも素早く怪人を見つけられる。  

 でも、この怪人を名乗る男子高校生には、魔力が一切ない。それは一般人と全く同じだということ。


 チグハグな存在を前に呆気に取られていると。


 「あ~、この子預かっててくれる?」

 「え、ええ。それはいいけど……」

 「助かるよ、さすがに女の子抱えて戦闘はな。万が一ケガさせるとまずいからさ」


 そんな困ったような顔で言われても、こっちだって困る。これまでの前提を全て覆すような怪人の登場に理解が追い付いていないのだ。

  

 それより、あの制服って確か綾香の通ってる柳橋学園のだよね。


 あ、そう……、そうだ。


 今の私に出来ること、それは女の子を守りつつ、出来る限りこの男子高校生怪人の情報を集めること。どんな戦闘スタイルなのか、どれだけ強いのか、その特徴など。見れることは全部見る。


 「ケケ、カイジン。チカラガナイクセニ。カイジンニ、ヨワイヤツ。イラナイ」

 「ああ、何度も言われてるよ。弱いってさ」


 何度も弱いって言われている?

 他にも人語を話せる怪人がいるっていうこと?


 「ジガイジガイ」

 「やたら好きだよなぁ、その言葉。流行ってるのか?ま。でも、ここで負けるのはお前だよ」

 「ケケケケ、ウソ。ヨクナイ。オマエ。ウシロ、ノ、ヤツヨリ。ヨワイ」


 怪人がそう言った瞬間の出来事だった。


 ゾワッと全身に鳥肌が立つような感覚を覚えた。いや、実際に鳥肌が立っていただろう。そして、ガタガタと私は震えていただろう。異様なまでに黒く濃度の高い魔力。それが、男子高校生から一瞬で膨れ上がっていった。


 魔力というのは通常どれだけ隠そうとしても、少しは漏れ出るものである。それは体の仕組み上仕方のないことで、魔力を持つ者にとって魔力というのは差異はあれど基本的に酸素と同じなのである。呼吸をすれば魔力というのは、大なり小なり多少は出ていくのだ。しかし、この男子高校生にはそれがなかった。それはつまり怪人でも必要不可欠とされる呼吸が必要ない個体ということ。


 「オマエ、ナンダソレ! ナンダソレハ!!!」


 気味の悪い怪人が体の震えを止めるためなのか、今までになかった大声を出す。

 

 「今日はちょっとだけ気分がいいんだ。魅せてやるよ、格の違いってやつを」


 ズウッと魔力の塊が蠢く。私たちのように操作しているという感じじゃない。まるで魔力そのものが意思を持って動いているかのように見える。


 そしてその怪人高校生が呟く。


 「呑み込め――――」


 「ゲェエォケェエ!」


 気味の悪い怪人が怪人高校生の魔力に呑み込まれていった。

 

 ……無茶苦茶だ。


 こんな存在、私たちが全員で戦っても叶わないかもしれない。こんな怪人が他にもいるのだろうか。もし、いるのだとすれば、今の私たちにこの町を守り切ることは不可能だ。


 「ふぅ。終わったな。先輩と勝負した後だし、ちょっと長引きそうだけど問題ない範囲かな」


 気が抜けていた私は、その独り言を聞き取れなかった。けれど、彼がこちらに向いた瞬間、その魔力に反射的に警戒を強めてしまった。


 「あ、悪い。癖でつい」


 彼がそう言うと、その異様な魔力がスッと消えてしまった。


 「……貴方、何者?」

 「あ……。ああ!」

 「ちょっ。いきなり大声出して何?」

 「ああああああああああああああああああああああああ」


 突然何かに絶望したかのように膝を付く怪人高校生。そして項垂れながら「終わりだぁ」と呪文のように何度も呟いている。


 「あぁ、いや。君を殺せば目撃者はゼロなのでは?」


 私にギラッと目を向けてそんな物騒なことを言う怪人高校生。ハイハイで目をギラつかせながら近づいてくる様は、そこら辺のホラー映画よりもよっぽど怖かった。


 「あの、せめてこの子だけでも……」

 「ん?あぁ。冗談だよ冗談。俺は人に危害を加えるつもりはないからさ」

 「えっ?」

 「でも、周りには黙っててくれると嬉しい……。あぁ、やっっべ!もうこんな時間だ。また怒られる~」


 何やら時計を見た瞬間声を荒げ大急ぎで何処かへ去っていった。

 

 どうやら難は去ったみたいだ。私は座っているのにガクガクと笑っている膝を見て、彼が敵対していないことに心底安堵した。



 

 

 


 

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