第7話 疑いが晴れたようです
次の日の朝。俺は昨日とは打って変わって、とてもいい目覚めを体験した。それもそのはずで、昨日の一件で俺の疑いは完全に晴れたといっても過言では無く、その不安が取り除かれた俺は今までにないくらいの熟睡ができたのだ。
時計を確認すれば、まだ朝の五時である。妹はすでに起きて色々と準備をしている頃だろうが、俺がこんな時間に起きたのは小学生以来であった。
折角早起きしたということで、リビングに行き妹の手伝いをする。
そして朝一番に妹から言われた言葉は……。
「お兄、熱でもあるの?」
なんともまぁ失礼な妹である。人が早起きしてきたら病気認定とは、兄の扱いが雑すぎやしないだろうか。
因みにだが、後で起きてきた母親にも同じことを言われ妹と母親は朝から俺の悪いところを言いまくっていた。俺は大変傷ついて、朝食を食べた後しばらく部屋に籠っていた。(いつものこと)
・・・・・・
「おはよ」
「ああ、あはよう。昨日は大丈夫だったか?」
「うん、あの後すぐに帰ったよ」
はっ?
おいおい、ちょっと待ってくれ。あの怪人はそこそこ強いはずだぞ。そりゃあ最終的には倒されていただろうけど、すぐ?そんな馬鹿な。そんなバナn。
もしも、本当にすぐに倒したんだとしたら佐鳥の魔法少女としての力を、何処かでしっかりと見る必要がある。
「昨日はほんとにごめんね。約束もすっぽかしちゃったしさ」
「それはいいよ、また今度誘ってくれ」
「うん!あ、呼ばれたから行くね」
「ああ、またな」
廊下から友達に呼ばれた佐鳥は、その友達の方へ歩いて行った。佐鳥が教室から離れていくのを見て俺は視線を下げる。
朝出会わなかったからって、教室で話しかけるのはやめてほしい。通学中であれば、まだ言い訳が出来るが教室だとそうはいかない。
「たく、羨ましいなぁ。佐鳥の方から話しかけてもらえてさ」
「嫌味なら受け付けないぞ」
「いいや、聞いてもらう。第一、何時そんなに仲良くなったんだよ?」
「仲良くなってない。登校時間が被ってて、たまたま挨拶を交わしたくらいだ」
全て事実である。今日は俺が時間をずらしたから、教室で挨拶してきたんだろうけど。明日からは、それも避けるために予鈴ぎりぎりに来ることにしよう。
「はぁ、じゃあ俺も登校時間被せるから、佐鳥の登校時間教えてくれ」
「そんな真剣な目で見つめられてもな……」
「頼む。俺も女の子と話したいんだ!」
「頼みごとが切実だな」
だからと言って、教えられるものじゃない。それに一歩間違えばストーカー行為になるのではないかと思ってしまう。さすがに、クラスメイトからストーカーを生み出すわけにはいかない。
「ダメだ。本人に聞けよ、クラスにいるんだから」
「そのハードルの高さをお前は知らないのか?佐鳥はな、高嶺の花なんだよ!わかるか?佐鳥に話しかけていいのはイケメンだけなんだ。俺らのような虫けらが話しかけていい御方じゃない」
「お、おう。で、でも、それは自分を悲観しすぎだ。もっと自信をもって行動して行け。大事なのは失敗を恐れず、挑戦を繰り返すことだぞ」
「ぉぉ……。おお!そうか。そうだな。そうに違いない。よし、そうと決まれば今から佐鳥に告白してくるぜ!」
「あ、それは放課後にしとけ」
朝っぱらから名前も知らない後ろの席の男子生徒を励ますという、慈善活動を行い少しだけ気分が良くなっていたのに、彼の最後の一言で俺は無駄なことをした気分になったのだった。
さて、そんな単細胞な馬鹿のことはとりあえず忘れて教壇のほうに目を向ける。
この学園には少し独特な行事がある。それは各学期の期末試験でのみ行われるテスト対決というものだ。これは各教科総合点が一番高いクラス、個人の点数が髙い者、そして中間から最も点数が上がった者が表彰されるというもの。
そしてなんと景品まである。以外にも使えるものが景品になるそうで、前回は某ネットショッピングのギフトカードが景品にあったとか。
そして、今からのホームルームでテスト対決に勝つための作戦会議を行うらしい。もちろん主導するのは佐鳥だ。みんなから信頼があり、かつ成績もトップクラスとなれば異論を唱える者はいないだろう。
「今回がこのクラスで初めての対決だから、いい結果が出せないかもしれない。でも、次回以降に繋げていけるように、この短い時間を少しでも有意義なものにしようね!」
佐鳥がそう口火を切って、クラスメイトが自分の出来そうな勉強時間のラインを言っていき、いつ勉強会を開くのか大まかに決める。今日決めきる必要はない。期末は七月の上旬だ。まだ一月ほど時間がある。とはいえ、悠長には出来ない。だから佐鳥も今日で大まかに決め明日・明後日には決めきって、勉強に入りたいと考えているだろう。
まだテスト範囲も確定していないのに、よくやるものだ。佐鳥からすれば、たとえ範囲から外れても次回の予習だと思っていてマイナスではないんだろうけど。俺はその考え方は出来ないから、範囲が決まるまで頑張るつもりはない。
「あ、そうそう。今回半数以上が勉強会に参加したいってことだったから、私一人じゃ手が回らないと思う。だから、五人くらい講師側についてくれないかな」
「「「「やります」」」」
成績上位者が全員一斉に手を挙げた。佐鳥の上目遣いの破壊力はどうやら同性にもクリティカルヒットするらしい。
「あ、ありがとう。あはは……」
珍しいことに佐鳥が若干引いてる。凄いな、クラスの団結力。半数以上と佐鳥が言ったように殆どの生徒が勉強会に参加するらしい。しかし、中には俺のように参加しない生徒もいる。それには各々理由があるのだろう。それがわかっているから佐鳥もクラスメイトも参加の強要はしない。
「じゃあ今日の会議はおしまい!授業までは自由時間で」
佐鳥が教壇から降りると、女子数人が佐鳥に歩み寄ってそこで輪ができる。こうやって授業までの空き時間は、仲の良い者同士で集まり時間を潰す。そのため俺のようなボッチは孤立し嫌な目立ち方をしてしまう。
それが苦痛かと言えば別にそうではないので何も問題はないのだが、どうやら佐鳥はそうではないらしい。
なぜか周りの女子に断りをいれて、俺の席の方に歩いてくる。俺は佐鳥と目を合わせないようにして、話しかけられないように机に伏せる。
「ね、不貞寝してないで話そうよ」
「生憎睡眠中です。用事があれば放課後にどうぞ」
「今でいいよ。放課後は君の後ろにいる田中君に呼ばれてるし」
後ろの席の奴田中って言うのか。初めて知った。悪い田中、かれこれ二月くらい同じ席なのに。けど田中って、授業中ずっと寝てるから先生に一回も名前を呼ばれないんだもんぁ。知らない俺は悪くない、知っている佐鳥が凄いということにしておこう。
そんな佐鳥はチャイムが鳴る寸前に、俺の目を見て周りに聞こえないように囁くような声で、いきなりとんでもないことを告げた。
「私を……。助けてほしい」
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