第6話 魔法少女による尋問

 いよいよ、その時が来てしまった。


 今日の授業がすべて終わり、掃除、ホームルームまで終わった今俺は佐鳥の指示通り教室でボーッと携帯を見ながら座っていた。


 澄ました顔して座っているが、心臓はうるさいくらいに速く鳴っているし、背中は冷や汗でびっしょりである。どうにか顔だけは変えないように気を張っているのだ。


 「あ、いたいた。ちゃんと待っててくれたんだね」


 佐鳥は一度教室から出て何処かに行っていた。ひょこっと扉から顔を出して俺がいることを確認した後、俺の机に寄ってきた。

 

 「約束したからな」


 俺はぶっきらぼうにそう答える。というよりも、それが精いっぱいであった。正直佐鳥が教室を出て行ったときに少し安堵したのだ。もしかした今日ないのかも、と。しかし希望という花は儚いもので、ついさっきそれは散っていった。


 平静をどうにか装って佐鳥のほうに視線を向ける。佐鳥は相変わらず人当たりの良い笑みで微笑んでいる。その笑みが悪魔の微笑みのように見えるのは、きっと俺の思い違いだろう。


 「じゃあ、付いて来てくれるかな?」

 「ああ、空き教室か?」

 「ううん。私の行きつけのカフェがあるの。この時間ならお客さんも少ないだろうから、そこで話そうと思って」

 「わかった、付いていく」

 「じゃ、行こっか」


 付いて行きたくねぇぇええ!!


 絶対他の魔法少女もいるじゃん。俺囲まれて逃げられなくなるやつじゃん。何?神様は俺のこと嫌いなの?嫌いか、そりゃそうだ。なんて言ったって人じゃないしな。

 神様がダメなら魔神様はどうだ。いやダメか、結局神であることに変わりないな。


 あ~、終わった。

 俺のスローライフが終わった。

 妹と過ごす人間社会生活が終わった。


 バレてるだろうなぁ……。確信を持っているから連れて行くんだろう。そして穏便に首ちょんぱされるんだろう。


 俺がいくら死なない体といっても、魔法少女の攻撃は対怪人に特化しているものだと聞く。全力攻撃一つくらいならどうにかなるかもしれないけど、魔法少女全員から攻撃されたらさすがに耐えられない。


 こんなことなら今朝、遺書でも書いておくんだった。


 「もうすぐ着くよ……って、どうしたの。そんな青い顔して」

 「いや、気にしないでくれ」

 「気にするよ!ちょ、ちょっと休も。ね?」


 そう言って俺の肩を持って日陰まで連れて行ってくれる佐鳥。他人に気を遣える、とてもいい子だ。

 

 そんないい子の心を騙すようで悪いが、このチャンスを逃すわけにはいかない!!


 「すまん。なんだか気分が悪くて……」

 「いいから、ゆっくり休んで。飲み物買ってくるから少し待っててね」

 

 そう言って離れていく佐鳥。


 あぁ、本当に優しい子だ。だけど……。今はそれが仇になる。


 俺は普段なら絶対に使わない怪人を呼び出す穴を作り出し、程よい強さの怪人を連れ出す。優しい彼女はコイツを絶対に見逃せない。そして俺は一般人を装いコイツに襲われるだけでいい。それだけで俺の疑惑は晴れるのだから。


 「ギギギギギギ」

 

 連れ出したのは鳥頭、上半身がカマキリ、下半身が馬のキメラ怪人。コイツは目が良く、攻撃力が高く、素早く、そして持久戦が得意なのが特徴だ。


 知能はほとんどないため、目論見通り俺を襲ってくれた。


 「ギギギ」


 馬の四足でスピードを出して近づいてきて、カマを振り下ろす怪人。それを転がりながら、どうにか躱す。もちろん休む暇なく追撃が来る。俺は滅茶苦茶に体を動かして、兎に角コイツの攻撃を躱すことに専念する。


 「ギギギ……。ガッァァァ!?」


 そして攻撃の嵐が一度止んだところで、佐鳥が飛んできて怪人を蹴り飛ばした。


 「ごめん、遅くなって」

 「いいよ、奇跡的に無傷だ」

 「よかった。ここにいたら危険だから、君はもう帰って。それと……疑ってごめん」

 「何のことかは知らないけど、別にいいさ。疑うのは悪いことじゃない」

 「……ありがと、そう言ってもらえると気持ちが楽になるよ」

 

 「ガガガ」


 立ち上がる怪人。やはり今までの怪人に比べてタフになっている。きっと棗が頑張っているんだろう。俺はその成果の一部を見た後、自宅の方へ走った。



 〈佐鳥綾香視点〉



 後ろで彼が走り去っていくのを気配で感じた。彼が聞き分けの良い人でよかった。それと怪人の疑惑も晴れた。少しだけ襲われているところが見えたけど、身体能力も人のものだったし、怪人に一部変異するなんてとこも見られなかった。そして決定的だったのは、彼は怪人に襲われていた。


 怪人は怪人を襲わない。これは今までの戦闘で分かっていたことだ。何体同時に現れても、怪人間での戦闘は見られなかった。


 もう確定だ。彼は怪人ではない。

 

 そのことに安堵して、私は視線を目の前の怪人に向ける。この怪人のおかげで、彼の疑惑を晴らせたからお礼を言いたいくらいだけど、残念ながら怪人を逃すことは許されていない。だから、誠意を持って全力で相手をすることにする!


 「あなたには感謝してる。でも、見逃すわけにはいかないんだ。だからせめて、あなたが苦しまないように全力で戦うよ」


 聞こえていても理解できるはずがないだろうが、私は怪人に向けてそう呟いた。そして、今まで一度もしたことがない魔力の全開放をした。


 ゴオォォ、と風が切る音が聞こえ、私が立っている周りのアスファルトが円形に凹む。そして、私は本来必要な技の詠唱を全省略して、怪人の背後三十センチの距離に一瞬で近づき、一歩踏み込んで拳を放つ。


 「はあぁぁ!」

 「ギャッ」


 怪人の一瞬の断末魔の後、怪人は消え去り拳の直線状にあった雲が割れた。本当はここまでする必要はなかったけど、これだったからあの怪人が苦しんだのは一瞬で済んだだろう。


 今までで一番早く終わった戦闘。

 その戦場は、アスファルトが凹んでいる以外に戦闘の後が一切なかった。


 


 



 

 

 

 


 


 


 


 


 


 

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