第4話 魔法少女に目をつけられる
「…………」
「…………」
魔法少女に出会ってしまった。しかも、滅茶苦茶睨まれている。
折角時間をずらしたってのに、何でまだいるんだよ!
それとなんで俺睨まれてるの?何か悪いことしたっけ?
「君……」
「えっと、どちら様です?」
こうなっては仕方がない。ここは無知作戦だ!
俺は何も知らない一般人A。俺はブラック企業の残業三昧から解放された悲しき自由人。俺は社会の闇に三年揉まれたしがない社会人。
完璧な設定を頭の中で高速で作り上げ、一瞬でそれを演じる脳に切り替える。
「そっか、この姿じゃわからないのも無理ないか」
ボソッと何かをつぶやく魔法少女。さすがに距離があって聞き取りにくかった。
「用がないなら帰っていいですか?今日ようやく帰れるんです」
「え???」
意味が分からないといった様子で首をかしげる魔法少女。そうだろうそうだろう。それではお見せしよう。限界サラリーマンの苦悩の日々!!(悪役の妄想です)
「最近上司のパワハラのせいなのか周りの社員が休むことが多くなって、その分の仕事が僕に振られて普段の三倍くらいの仕事を帰る間もなく延々と処理し続けていて、もう頭がおかしくなる手前まで数字を見続けて、パソコンを睨み続けて、それで上司に確認を依頼してみれば意味の分からないことの愚痴を言われて、間違ってもいないのに文句を言われて、もう、辞めようかなって思ったけど今ある仕事を終わらせないと周りに迷惑が掛かるからって思うと辞められなくて……」
はっはっは。どうだ、この支離滅裂具合。ただ苦悩をありのままに吐き捨てただけ。これを聞いても、まだ何か聞きたいことがあるのか魔法少女よ!
「えっと……ご苦労さま。あ、いや違う違う」
「違うって何が?」
少し怒ったような口調で問い詰める俺。いいぞ、限界な人間ぽくて実にいい。これなら騙せるに決まっている。
「その、ごめんね?騙すつもりは特になかったんだけど……」
ん?何を言っているんだ、この魔法少女は。
「【解除】」
彼女がそう呟いた瞬間、彼女が光に包まる。その光が消え目の前に現れたのは、そう。クラスの人気者こと佐鳥綾香だった。
佐鳥綾香???
待て待て待て。待ってくれ。えっ?魔法少女!?佐鳥が?
頭の整理が追い付いていない俺を見て佐鳥が悪戯に成功した子供のように微笑む。
「ごめんね。正体を明かすつもりはなかったんだけど、君が嘘を言うのが上手くて、いい返しが思いつかなかったんだ」
「……そんな意趣返しみたいな理由で正体を明かしてもいいものなのか?」
「別に秘密にしなきゃいけないわけじゃないからね。あ、でも、皆には秘密でお願いね」
意外とその辺は甘いんだな。怪人なんか正体を明かした瞬間に魔法少女に通報されて、あの世行きだぞ。それは当たり前か。
「それで私、君に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ああ、少しで済むなら」
「よかった」
さっきの睨みが嘘のように花が咲いたような笑みを浮かべる佐鳥。
「君の体から出てるその魔力、いったい何?」
「…………」
あ、やっべ。ここで反応をしなかったら、それを知ってますって言っているようなものじゃないか。まずったな。いきなりすぎて、また脳の処理が追い付かなかった。
「やっぱり心当たりがあるんだね」
「いあ、なんのほとだか、わっからないなぁ」
「急に嘘をつくのが下手になったね!?」
噛んじゃった。いや、嚙んじゃったじゃない。これでは弁解どころか事態を悪化させているだけだ。
「いや、ほんとに知らない。そもそも魔力ってなんだ?」
「今更知らないは無理があると言いたいけど……。うーん、貴方にも事情があるみたいだし。うん、じゃあ今日は吞み込んでおくよ」
「えっ」
「でも、明日絶対に吐いてもらうから。いい?」
難を逃れたとは言えないが、明日であればまだ言い訳のしようがあるかもしれない。だから俺は素直にその提案に頷いた。
「よし!あ、あと私が魔法少女ってこと話さないでね」
「俺には話す相手がいないって知ってるだろ」
「あ、それもそっか。じゃあ心配ないかな」
「少しは否定してほしかったなぁ」
「事実だからしょうがないね。それじゃあ、また明日ね」
そう言って魔法少女は怪人の死体がある方に歩いて行った。
佐鳥の後ろを見ようとしていなかったというのもあるだろうが、今まで全く死体が見えなかった。
いや、佐鳥が俺からは死体が見えないような立ち位置にいたのか……。小さなことだが彼女のプロ意識の強さを感じ、俺は背中に冷や汗を流しながら帰路についた。
〈佐鳥綾香視点〉
やっぱり彼はおかしい。
彼に背を向けたとき、少しだけ怪人の死体が見えるように歩いたのにそれに一切動じず彼は去っていった。
気づかなかった?いや、かなり近い位置だ。目が悪いという話も聞かないし、こちらを見ていなかったわけでもない。でも、いくらでもしらばっくれることが出来るから、これは問い詰める材料にはならないかな。
「ふぅ……。やっぱり正体を明かしちゃったのはやりすぎだったかなぁ」
一息ついて考え直すと、どうしてもそう思えてしまう。正直あれだけの魔力を持っているということは、怪人でほぼ間違いない。それに、私に気づいた瞬間魔力が大分抑えられていたから、多分かなりの精度の魔力操作が出来る怪人だ。
でも、クラスメイトだし少しは話す仲だし、出来れば唯の私の勘繰り過ぎで特別な体質とかであってほしい。そんな気持ちもあってつい正体を明かしてしまった。
「これで本当に怪人だったら、私の正体がほかの怪人にもバレて学校が襲われることが増えるなんてことも……」
最悪な考えが浮かんできて、冷や汗が頬を伝って地面落ちた時。
「とーちゃくー」
気の抜けた声が耳に入ってきた。どうやら清掃班が来たようだ。私は一度考えることを置いて、現場の指示に集中するのだった。
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