第3話 悪役は会う

 「てめぇ死なねぇからって、気がデカくなってんのか?俺たちに向かって、随分な物言いじゃねぇか?」


 俺の余計な一言に怒りを抑えられないのか、どんどんと魔力が膨れ上がって行く『豪鬼』。そしてそれは隣の『蛇姫』も同様だった。


 「棗良いわよね?あなたの許可はもういらないでしょ、本人が死にたがっているんだから」

 「うん、彼が言うなら私に止める権利はない」


 棗が許可を出した瞬間、『豪鬼』の魔力がさらに膨れ上がり置かれていたテーブルが粉微塵になる。

 そして、『豪鬼』と俺の間の障害物がなくなると、『豪鬼』が立ち上がり拳握る。 


 「行くぜ雑魚。自分の発言を後悔しながら逝け」

 「……」


 そして『豪鬼』が大きく一歩踏み込んで、その魔力が全て込められた拳を俺に振りかざした。


 ドゴンッ゙ッ゙


 耳の壊れそうな爆音と、今までに感じたことない衝撃を受ける。が……。


 「チッ。やっぱ死なねぇのか」


 俺は無傷であった。


 「豪鬼の攻撃で死なないなら、誰が攻撃しても無駄」

 「ほんっと気味の悪い体。もう良いわ、なんだか冷めちゃったし」


 そう吐き捨てて『蛇姫』が去っていく。『豪鬼』もその後を追うように出て行こうとして、こちらを振り向いた。


 「今度何かあったら、てめぇは俺らのサンドバッグだからな」

 

 親指を下に向け捨て台詞にしては物騒すぎる言葉を残し、闇の中へと消えていった。


 「……大丈夫?」

 「心配しているなら、もっと早くに助けてほしかったですね」


 今日は集まらなかった他の怪人幹部も俺に対しては当たりが強いからなぁ。それを鑑みると棗は優しい怪人だ。しかし、その優しとは裏腹に……。


 「やっぱり、解剖させてくれない?」

 

 大分考えが物騒なのである。

 解剖って……少なくとも生きている人に向けて言っていい言葉ではないだろう。


 「君のその体の仕組みを知れたら、もっと強力な怪人を生み出せると思う」

 「考え方がマッドサイエンティストのそれ」

 「魔法少女に勝つために手段は選べない」


 ヤバい。目が段々とマジの目になってきている。

 早く帰りたいし、このままだと本当に解剖されかねない、ここは逃げることにしよう。


 「そ、それじゃあ用事もあるので失礼します!」

 「あっ、ちょっと……」


 俺は棗から逃げるために、全速力でアジトから逃げた。



 ・・・・・・


 

 「さて、帰ったら新作の続きをやろう」


 今日は部屋に帰ったら、一歩も外に出たくない気分だ。それに、空はもう暗くなっているから何処かに出歩くような時間じゃない。


 星空の下憂鬱な気分で歩いていると、少し遠くに光の柱が見えた。

 どうやら、魔法少女が戦っているらしい。こんな夜にご苦労な事だなと思いながらも、他人事なので助けに行ったりはしない。


 俺は早く家に帰りたいんだ……?

 今の光の柱、俺の家の方じゃなかったか?

 いや、きっと気の所為だ。方角が同じってだけだろう。


 念のため歩く速度を遅める。

 なんならコンビニにでも寄ってから帰ろう。時間さえ空ければ万一もないだろうしな。


 ちょうど少し歩いたところにコンビニがあり、俺はそこに入っていった。


 「らっしゃっせー」という店員の気のない挨拶を受けてコンビニに入り、外の蒸し暑さから解放される。

 まだ六月だというのに気温が高くて辛い。これで本格的に夏になったら、俺はきっと溶けてしまう。


 飲み物と明日のご飯を手に店を出る。もちろん会計済みだ。悪役であっても俺は元人間なのだ。人間社会のルールは染みついている。


 さて、少しは時間が経ったしもう帰っても大丈夫だろう。



 〈佐鳥綾香視点〉



 「やっと倒せたぁ……」


 夜遅くの怪人出現なんて滅多になかったのに、ここ最近その件数が増えてきている。それにどの個体も以前の奴らとは比べ物にならないくらい強い。


 私が学校から帰り今日のやるべきことを全て終わらせてのんびりしていた時に、突然怪人が現れたと連絡があったのだ。

 他の魔法少女はその地点から遠いということで私が出てきたんだけど、あまりの怪人の強さに苦戦を強いられていた。


 なにより手強かったのはその硬さである。私が技をいくら打ち込んでも全くと言っていい程ダメージが見えなかったのだ。さすがに心が折れかけたけど、奥義を使ってどうにか倒すことが出来た。


 あれで倒せていなかったら私は今頃……。

 いや、もしものことを考えるのはやめよう。


 「帰ったらお風呂入らないと……」


 せっかく一度入ったのに、今の戦闘で砂と怪人の体液が付いてしまった。それに私の体に数か所切り傷がある。血が流れ落ちているから服も一緒に洗う必要がある。


 そのことを少し面倒に思いながら本部に連絡を入れる。さすがに今の状態の自分だけで後始末をするのは時間が掛かりすぎるからだ。


 「はい。お願いします。はい……。失礼します」


 清掃班を寄越してくれると言っていたので、彼らが来るまでは休憩だ。少しでも休んでおかないと、明日の学校に影響しかねない。

 

 そう思って一息つこうとしたら、とんでもない気配が近づいてくるのを感じた。私は座ろうとしていた腰をほとんど反射で持ち上げて、相手の姿も見えていないのに構えを取る。


 何、このとてつもない魔力……。

 こんなのに今来られたら私、絶対に負ける。


 絶望が胸を支配していく中、どうにか気合だけで立ち続ける。気配のするほうから決して目を離さないようにして。


 そして、その魔力の濃度が一段と濃くなって……。


 「え……?」

 「…………えっ?」


 絶望の気配がする方から現れたのは、今朝話したクラスメイトの男子だった。





・次話来週投稿予定

 


 


 


 


 


 


 


 



 



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