File3 destruction
シャングリラでの生活を始めてから一年ほどたったとある日。カプセルの中で眠っていると、大きな衝撃に突然体が跳ね上がり、三回転くらいごろごろと転がった。
なんだ? 地震か?
シャングリラでも時たま地震はある。俺たちは日本人なので一々驚いたりはしないが。
というか、地震にしては揺れの時間が短かった。落石か何かかもしれない。
寝ぼけ眼をこすりながらとりあえず実験場や物資がある本機の方へ向かう。
砂埃が舞っていて視界が悪い。やはり落石か。七星くんは先に着いていたようだった。その背中に声をかける。
「おーい七星くん! 無事でよかった。……七星くん? どうした?」
こちらが呼ぶ声にも気づかない。奇妙に思って近づいてみると、
「……え」
隕石のようなものが本機の上に落ちていた。そして、砕け散った物資倉庫。……その中には、生活物資と、食料と、酸素ボンベが入っていた。
「さ……酸素ボンベが、すべて割れてしまっています。今カプセルに積んでいる分は無事だから……あと約一か月くらいなら生きられますが……」
……余命一か月、ってことか。
ああ、死にたくないな、と思った。
この星に来た時点で、地球での生活を捨てているんだ。死んだも同然だと思っていた。
でも俺たちは、俺たちなりに幸せに生きていたんだ。
なあ神様。……あんまりだろう。
たとえこんな星でも、もう少しくらい生きていたかったよ。
「最後の日までに……やりたいこととか、あるか」
七星くんの頬を、つうっと一筋の涙が流れた。そして唇を震わせながら口を開く。
「……地球にっ……帰りたいです……」
がつんと心臓が殴りつけられたような気がした。
「家族に、友達に、会いたいっ……あったかい白ご飯が食べたい……家の望遠鏡から星を見たい……きれいじゃなくてもいいから、透き通った青い海を見たい……ただそれだけのことが、もうできないって言うんですか……!」
ああ……あまりにも遅すぎる。
シャングリラに来るというのは、つまりそういうことだ。いくら理想郷と呼ばれていたって、本当に何もない星なのだから。
残酷な話だ。ここに来て命を落とした人々も、地球に大事なものがあったはずだ。理想郷という美しい言葉につられて、宇宙の浪漫にあてられて、地球に嫌気がさして、ここに来てしまったんだろう。
『そもそも後悔してもどうにもならないじゃないですか。せいぜい人生楽しもうって思うんです』
そう言って身軽に笑っていた少年の頬を、今は涙が濡らしている。
それからの一か月間、俺たちは妙に明るく振る舞っていた。
まるでこれからも、変わらぬ日常が続いていくかのように。
目の前に迫りくる死と現実から、懸命に目をそらし続けた。
そして、最後の日が訪れた。
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