第3話・張りぼての子供の家 前編

 八月十六日の夢。


 私には、十サイも年上のお姉さんがいます。

 でも、お姉さんは本当のお姉さんじゃないです。

 私の血のツナがった家ゾクは、お父さんとお母さんです。

 でも、私とよくアソんでくれるお姉さんも、私は血がツナがっていなくても家ゾクだと思います。


 お姉さんは、私がこんなアソびをしよう、と言ったら、イヤそうな顔ひとつせずアソんでくれます。

 ボールでアソんだり、泥団子を作って泥だらけになって、お父さんとお母さんにおこられたりもしました。

 たまに二人にイタズラをして、お姉さんと一ショに色んな所にかくれたりもしました。

 ブランコをこぐ時に、ひざの上にのせてくれたりもしました。

 そのおかげで、私はずっとエガオになれます。

 私の大好きなお姉さん。可ワくてやさしいお姉さん。

 ずっとずっ〜と、一ショにいたいです。


 お姉さんは朝からお家に来てくれて、ネグセのひどい私のカミを結んでくれます。お姉さんは、早起きですね。

 お姉さんのカミは、キレイな長ハツです。キレイに手入れされたカミです。ウラヤましいですね。

 私も大きくなったら、こんな風に長いカミをしているのでしょか?

 その時は、お姉さんと一緒に何コかに遊びに行きたいですね。


 それにお姉さんは、お母さんと一緒にキッチンで朝食を作ってくれるの。

 お母さんは料理が上手じゃないけど、お姉さんが作った料理は、とても美味しいの。

 本当に、ほっぺが落ちそうになるの。ウソじゃないよ。

 スイーツを作ったら、何回もおかわりをしたいくらいに甘くて美味しいの。

 お姉さんのショウ来のユメは、おカシ屋さんだと思います。始めてのお客さんは、私とお父さんとお母さんが良いです。これはユズれません。

 私がそう言うと、お姉さんは笑いました。ヤサしく笑いました。

 そして、こういいました。


「マってるね」


 まさかの言葉にキョトン、としました。でも、よく考えてみたら、すぐに意味は分かりました。お姉さんは、私にとってウレしいことを言ってくれたのです。

 スゴくスゴくウレしいことを言ってくれたのです。


「ありがとう。お姉ちゃん! ……あ!」


 ついお姉さんではなく、お姉ちゃんと言っちゃった。

 年上の人には、さんを付けなさい、とお母さんに言われていました。

 でも、今、私は言いました。お姉さんをお姉ちゃん、と言いました。

 やってしまいました。お姉さんにオコられます。


「ふふっ」


 あれ? あれれ? あれれれれ??

 おかしいですね。

 お姉さんがワラいました。

 なぜでしょうか? 私、変なカオでもしてたのかな?

 お姉さんがなぜワラうか、分かりません。

 一体、何がそこまでお姉さんをワラわせるのでしょうか。もしかしたらお姉さんは昔の出来事を思い出して、ワラっているのでしょうか? お父さんとお母さんの口からタマに聞く、思い出しワラいというものでしょうか。

 理由が気になります。

 ナゼ、そこまでお姉さんがワラうのか。

 今まで以上に気になります。私の好奇心がウズいてます。

 そう思っていると、お姉さんはこう言いました。


「でも、その時は■■ちゃん一人で来てホしいな」


 ん〜? なぜでしょう。なぜ、私一人でお店に来てホしいのでしょう。

 お姉さんがワラった理由と一緒に考えてみます。

 ぜんぜん分かりません。お姉さんがワラった理由も一人でお店に来てホしい理由もまったく分かりません。

 う〜〜ん。こういう時には、一体どうすればいいのでしょう。

 お姉さんに聞く? いやいや、本人に聞いて、どうするんですか。

 でも、聞かないと分からないかもしれませんし……。

 結キョク、私は一バン中カンガえました。



 八月十七日の夢。


 現在、私は草むらにカクれてます。

 草を頭に被り、土にヒザをつけ、視線をキョロキョロと、左右に動かす。

 なぜカクれているのかを説明すると。

 ビ行です。絵本の中にいるケイサツ官、つまりお巡りさんの真ネです。

 ベッドに転がって、カンガえて、思いついたのがこのビ行です。

 私としてもワルくないカンガえだと思います。

 それにカクれるのはトク意です。なぜなら、私は、丘でお姉さんとかくれんぼを遊んできたからです。

 でも、お姉さんはかくれんぼがとても強いです。私がカクれた場所を知っていても数分間もサガさないで、いろんな所をうろちょろしてます。

 そして私が気をユルめた時に後ろからバッー、とオドろかして、私をツカまえます。

 口から絵本に出てくるユウレイみたいなモノが、出てきたことがあるそうです。怖いですね。

 まさかあの時、私の口からそんなモノが出てきたとは……。今でも信じられないことです。

 そんな昔話は置いといて、まずは目の前のビ行に集中しましょう。


 そんなことを考えていると、お姉さんが来ました。

 麦わらボウ子をカブって、ウスチャ色のワンピースに同じくらいの色のブーツをハイいています。

 家のトビラが開いて、お母さんが出てきます。

 お姉さんは、お母さんに私が何コにいるの? と、聞きました。

 お母さんは、指で丘を差しました。

 でも、私は丘にはいません。

 私は、家と丘の間にある道の草むらにいます。

 つまり、私はお母さんにウソをつきました。

 初めて、ウソをつきました。

 ほんの小さな好奇心によって、大好きなお母さんにウソをつきました。

 お姉さんは、丘に向って歩き出しました。

 カクれている草むらの前を通っていく。

 ドクンドクン、と身体の中に音がヒビきます。

 お姉さんが丘に向かって歩いていくのを草むらにカクれながら、バレないように追っていく。

 ト中、落ちている枝をフまないようにサけたりしました。


 一分後、お姉さんは丘に着きました。

 私も丘の一番近くの草むらに着きました。

 これからが本番です。

 今日の内にあの時、ワラった理由と私一人で来てホしい理由をツき止めないと。

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