第17話 疑念の芽生え

翌朝、直人は警察の再調査に協力するために早めに家を出た。彼の表情にはまだ昨日の衝撃が残っていた。私は子供たちを起こして朝食を用意しながら、内心の動揺を隠そうと必死だった。


「ママ、今日はパパ遅くなるの?」健太が食卓でパンをかじりながら尋ねた。


「そうね、パパは今日はお仕事で忙しいのよ。」私は笑顔を作り、優しく答えた。


翔太も私の方を見てにっこり笑った。「ママ、今日もブロックで遊ぼう!」


「もちろんよ、翔太。」私は彼の頭を撫でながら答えた。


子供たちが学校と幼稚園に出かけた後、私は一人静かに考える時間を持った。結衣を毒殺した事実が明るみに出るのは時間の問題だ。警察の捜査が進む中で、直人が私の行動に疑念を抱くことを恐れていた。


午後、私はキッチンで夕食の準備をしていた。ドアが開き、直人が帰宅した。彼は無言でコートを脱ぎ、リビングに向かった。


「直人、お帰りなさい。今日はどうだった?」私は何気なく尋ねた。


「警察の捜査が進んでいる。新しい証拠が出てきたらしい。」直人は疲れた様子で答えた。


「そうなのね…何か進展があったの?」私は内心の緊張を隠しながら尋ねた。


「まだ詳細は分からない。でも、彼らは結衣が何者かに毒を盛られた可能性が高いと言っている。」直人はソファに腰を下ろし、頭を抱えた。


私は彼の隣に座り、手を握りしめた。「直人、私たちは一緒に乗り越えましょう。真実が明らかになるまで、私たちが支え合うしかないわ。」


「ありがとう、美香。君がいてくれるおかげで、僕は頑張れる。」直人は深いため息をつきながら私に微笑んだ。


その夜、私は子供たちを寝かしつけた後、リビングで直人と二人きりになった。直人は再び警察の報告書を見つめていた。


「直人、何か気になることがあるの?」私は慎重に尋ねた。


「実は、美香…警察が君のことを調べているんだ。」直人は目をそらさずに言った。


私の心臓が一瞬止まったように感じた。「私のことを?どうして?」


「結衣の死に関して、君の行動に不審な点があると言っている。君がその日にどこにいたか、誰と会っていたかを詳しく調べているんだ。」直人の声には困惑と疑念が混じっていた。


「直人、私は何もしていないわ。ただ、あなたを支えたかっただけよ。」私は必死に冷静を装いながら答えた。


直人は私の言葉をじっと聞いていたが、その目には疑念の色が消えなかった。「美香、僕は君を信じたい。でも、警察の話を聞いていると、どうしても納得できない部分があるんだ。」


私は深く息を吸い込み、直人に向き直った。「直人、私はあなたを愛している。結衣の死についても、真実を知りたいだけよ。何があっても、私たちは一緒にこの困難を乗り越えましょう。」


直人の疑念が深まる中、私は自分の秘密を守り続けることができるのか。再調査が進む中で、家庭内の緊張が高まっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る