第2話 でも、平和も日常も失うときは一瞬で、すぐに崩壊してゆく。
「どっか遊びに行かない?」
入学式を終え、午前で解散となったあと、こはるがそう言ってきた。
「別にいいけど、どこ行くんだ?」
「駅前のアルトス」
「あー、あの最近できたショッピングモールか」
「そう!まだ行ってないんだー」
「じゃあ行くか」
「うん!」
そう言って二人で教室を出ようとすると、後ろから声をかけられた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
そう言われて振り返る。
「場名、どうかしたか?」
声をかけてきたのはついさっき友達という事になった場名恭史だった。
「あ、いや、特に用がある訳じゃなくて、、、」
「じゃあなんだ?」
「これからよろしくね。2人とも」
「ああ。よろしく」
「まあ、話くらいは聞いてあげる」
「じゃあ、また明日」
俺はそう言って、こはると教室を出た。
正直、今日、出会って一日だけで、場名には聞きたいことがたくさんできたけど、まあそれは明日にでも聞けばいい。
必ず明日は来る。それがどれだけ退屈なものでも。
~~~
「いやー、いい買い物だったよ~」
「それはよかった」
アルトスでの買い物を終え、俺とこはるは駅前のペデストリアンデッキを歩いていた。
「翔君、明日からまた一緒に登校していい?」
「いいけど、どっちの家集合?」
「私が翔君を起こしに行ってあげるよ」
こはるはそう言って俺に向かってはにかんだ。
「じゃあ、明日は起こしてくれるまでずっと寝とくからよろしく」
俺が冗談半分で言うと、こはるは薄目になって、「いや、自分で起きる努力してよ」と言ってきた。
その返事に、俺がクスっと笑うと、こはるも同じように笑った。
その時だった。
「おい、あれなんだ、、、」
どこからかそんな声が聞こえて周りを見渡すと、歩行者が立ち止まり、みんな一様にスマートフォンを上空に向けていることに気づいた。
「翔君!!あれ、、、」
そう言われ、こはるが指をさす方を見ると、上空に巨大な亀裂が入っていた。
「なんだ、、あれ、、、」
空にある巨大な亀裂は、次第に広がっていき、やがて駅前を覆うほどの大きさとなった。
すると、その亀裂から強風が吹きこみ、地面を揺らした。
「きゃあっ!」
「こはる!」
俺は咄嗟に飛ばされそうになったこはるの腕をつかんだ。
亀裂から吹き込む強風は次第に強くなり、亀裂の中心から、ノンステップバスのような形状のものが現れた。
「翔君!あれ、空飛んでない?!」
こはるが言うように、それは空を飛んでいるように見えた。さながら空飛ぶ車だ。
それが駅前広場のモニュメントの付近に着地すると、風は収まり、上空の亀裂はすぐに閉じた。
多くの歩行者がそれにスマートフォンを向ける中、その中からぞろぞろと人が出てきた。人数は10人程で、全員が近未来的な黒いスーツを身にまとっている。
「人?」
「何者だあいつ、、、」
周囲からはそんな声が聞こえた。パニックになる人は居なかった。人間、本当に自分の理解が追いつかない物事は、かえって冷静なれるのかもしれない。それとも、正常性バイアスという名の平和ボケか。
多くの歩行者の注目を集める中、彼らは何もない空間から拳銃のようなものを取り出し、無差別に歩行者を撃ち始めた。
撃たれた人はまるでゲームのように、青白く光るエフェクトとともに消えていった。
「な、、、こはる!逃げるぞ!」
その光景を見て、震えるこはるの手を取り、俺はこはるを連れ、全速力で逃げ出した。
今までの人生、平和な日常で、毎日何もなくて、ただただ退屈だった。もっと非日常的な出来事に遭遇したいと何度も思った。
でも、、、
パニックになって逃げ惑う人々。
撃たれて消えていった人達。
こうして実際に非日常を目の前にして、平和な日常が、どれほど貴重なものだったのか思い知らされた。
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