第29話 不詳敵意
「一昨日から起こっている連続殺人未遂の重傷者数は二十人にまで上っております。犯人は不明、今後も注意が必要です」
テレビから漏れる声は、今話題の連続殺人未遂事件の内容だった。どの番組もこの話題で持ち切り、視聴者に危機管理を持たせるには丁度いい具合の事件。と、事件を楽観的に見ていては今日間に叱られる。
「で、また呼び出した理由は?」
「平夜、君の件だ。彼から聞いたが、平夜は誰かに狙われていると聞いて」
「その心配のためだけに態々あなたが呼び出しをするかしら」
「確かに憂慮とは無縁の性格だ。しかしまあ、従業員が危険ならこちらとしても対処しておくべきだろ? わかってはいると思うが、私は自身の利益のために動く。君に離れられると色々と困るからな。当の本人の姿を見ると、何故か無駄なことをしている気分になるが」
ソファーに寝そべりながら、あくびをする私に彩夏は苦笑した。
そも、私が死ぬということはないので、心配は無用だろう。彼女の本当の理由は、今後の私の仕事に支障が出ないか気にしているだけである。
現状を端的に説明すると、彩夏の発言にも合った通り、私は何者かに一昨日から狙われている。
一昨日。つい今し方テレビから聞こえた連続殺人未遂事件、それと同刻なのだ。
偶然にしてはやけにタイミングが良すぎる。
この犯人と私を狙う犯人が同一人物の可能性は極めて高い。
「平夜は狙われているけド、心当たりあるカ?」
「そんなもの、……あり過ぎて困るわ」
他者に喧嘩を売ることは好んでしないが、仕事の邪魔になるものは皆半殺しだ。決して恨まれていないと言えば嘘になる。
嘆息を着くと、彩音が肩を竦ませてやれやれと保護者のような振る舞いを見せた。
「事件との関連性、うーん何だろうね。犯人は結に対して殺意を持つ人物? でも事件の被害者と関わり合いがあるわけでもないし、偶然、なんだろうか」
今日間がコーヒーを二つ持ってきて、テーブルに置いた。その後腰を下ろす彼は頭を悩ませながら、彩夏からの返答待ちのように視線を向けていた。
「殺意とは限らないぞ。被害者は皆死んでいない。殺意は殺す意図や欲求を指す。だが過剰な敵意としたらどうだろうか。敵意は単に他者に対する敵対的な感情や行動であり、過剰なそれは殺意まではいかない。事件の被害者に何らかしらの関連性があり、過剰な敵意を持っているのかもしれない。まあ、どちらも相手に害をなす意思、理由を持たなければならないがな。不詳敵意とでも言っておこう。あるいは――、いや何でもない」
「敵意だったとして、やっぱり敵意を持つ理由がわからないですよね」
要約して、仮に彩夏の言う被害者が関連性を持ち、尚且つそれに敵意を抱いていたとして、全く身に覚えがないのでどうしようもない。
一先ずは様子を見て、治まらなければ私が対処する。
「で、召集した本来の理由は?」
「一応資料を見てもらって、身に覚えがあるか聞いてみたかっただけだ」
言って彩夏から資料を手渡される。被害者の情報などが羅列されている。けれど、ピンとくることは一切なかった。
ただ一つ、普通の人間の範疇ではない、裏に関わり合いがある人間の手口だ。
手の甲に風穴を開けられる普通の人間が、この世にいるだろうか。
そんな感じ、だから普通じゃない。
「これを見てもさっぱり」
「平夜、殺るのか?」
「……気も乱れてる。解決しないようなら、私が斬り捨てるまでよ」
陰の気が時たま乱れる。
多分、誰かを襲った際に何かの能力を使い、一瞬気が乱れるのだ。
これ以上の陰陽の乱れは、この都市の破滅に繋がり、やがて波紋は広がる。
だから、私がやるのだ。
私がきっぱり言うと今日間の顔が曇る。
けれど、対処の方法がそれしかないので、彼も黙って外野にいる他なかった。
再びソファーに横たわると、眠気に従い目を瞑る。
「……平夜。君は本当の殺意を、多分知らないんだろうな」
そんな吐息混じりに聞こえた何かも、今の私にはハッキリと認識できなかった。
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