第21話 他の想いは知れずに
最寄りの駅まで向かう道中。
固いコンクリートを踏みつけ、秋の香りを味わいながら歩く。
好きでも嫌いでもない、仄かに甘い味がした。
「結っていつも手ぶらだよね」
「今更、急にどうかしたのかしら。荷物は少ない方がらくなだけよ?」
「いや、財布とか持ってないと、色々不便じゃない?」
今日間の言っていることは正しい。財布がなくては買い物ができず、店に入ることすら拒まれる。それどころか、移動手段すら限られるのだが。
私が昼間に移動するときは大抵、今日間が一緒にいる。だから、金銭の心配も何も考えることはなかった。
まあ一応一人で外出するときは、携帯のキャッシュレス決済という最強手段はあるが。
「お金の心配はないわ。あなたが払ってくれるから」
「タカリ屋の考え方だね。それじゃあダメだよ」
「これでも普通、にはなってきたと思うのだけれど」
私の活動時間は夜が多く、昔からそうだった。だから、まず人に視認されることが少なく、法的罰を受けそうなことを平気でやっていた。
たとえば、自販機を壊すとか、防犯カメラを壊して食品の確保をしたり。
思えば自分でも成長したな、と実感する。
大体は今日間に影響されてなっただけだった。
「そうだね。三年前、君と出会った時に比べたら結は真面目になったと思う。変わらないこともいっぱいあるけどね」
「それは皮肉かしら」
「ううん。喜び、かな」
私は内心で首捻った。
今日間は満足そうな顔で、歩みを続ける。
彼の言動の意を、私は汲み取れない。
今、彼がどのようなことを考えているのかは彼にしかわからない。当たり前だ。
他者の思考を読み取れる者は、この世にいるはずがない。
それでも知りたかった。
明月今日間がいつも私に構う理由を。
「そろそろ着くね」
「……そうね」
気づけば最寄り駅についていた。
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