第18話 穏やかな朝

 十月十三日。


 カーテン越しの朝日が瞼の裏の瞳をツンと刺激する。

 まだ眠いというのに、時間というものは自分の都合を考えてはくれない。秋になり、朝日が昇るのは若干遅くなったが、それでもまだ早いイメージ。


 抵抗しても無駄なのは知っているので私はゆっくり瞼を開け、見慣れた洋間の天井にため息をついた。布団を丁寧に退け、目を擦りながら上体を起こす。

 寝室は二階にある洋間、ブラウン色が多い。

 あくびをしつつクローゼットの引き出しを開き、寝巻から着物に着替えた。


 季節とは相反する桜色の着物だ。昨日、紬がこの着物に魅入られている様子を見て、何故か着たくなった。我ながら単純な性質だ。

 リビングに行くとまずは炊飯器の前に立った。

 この炊飯器は最近買った物であり、高性能な機能が付いているらしいが、使ったこのある機能と言えば急速で炊いてくれる一般的な用途のみ。


「米、炊いていたかしら」


 昨日は帰ってから特にやることなく、怠惰に過ごしていた。そんな記憶しか残っていなかったので、白米を炊いていたか疑問を呟く。

 炊飯器を開くとふっくらと、そしてもちもちとした白米が三合ばかり炊いてあった。


 元々、面倒は嫌いな私であるため、数日分は一度に炊く。日が経った白米の美味しさは微妙だが、効率を重視する私にとってこのやり方が最善だった。

 白米を小さめの椀によそい、テーブルに置く。次に即席味噌汁を作る。電気ポッドでお湯を沸かし、椀に熱湯を注ぐ。これだけで朝食の完成だ。


 特別、他に食したい品もないし、私は満足している。

 椅子に座り、朝食を頂く。


「いただきます」


 白い米と茶の汁が白い吐息をついていて、私は数分待った。

 猫舌なので熱い品を口に入れると、すぐにやけどをする。

 不死者なのにそういった不便な一面があるのは、自身のことを些か不憫と感じた。

 米を一口、冷めたようなのでゆっくり食し始めた。

 朝食の量は恐らく同年代一般女性の半分ぐらいだろう。


 あまり食欲がないのか、動いていないからなのか、胃腸が小さいかもしれないからなのか、大量に食事を取ることはめったにない。あったとして、全て食べきれず残してしまうのでもったいない。


 そう言った理由から、たまに今日間から食事に誘われるが基本的に断っていた。


「ごちそうさま」


 食事を終え、キッチンに行くとすぐに食器を洗う。面倒くさがりだが、食器を溜めると収拾がつかなくなるため即座に洗うようにはしていた。

 ともあれやはり面倒な時、やる気の出ない時はある。だが、私には今日間というお節介がいるので、そう滅多に溜まることはなかった。

 食器洗いを終えると、洗面所に顔洗いと歯を磨きに行く。

 

 これで朝のやることは終わりだ。

 一通りの行動が終わると、タイミングよく電話が鳴った。

 ああ、間違えた。タイミングが悪く、だ。


 携帯を取り、電話の相手は彩夏らしい。

 嫌な予感がして、このまま電話を取りたくない衝動に駆られるが、一応務めている勤務先なので取らざるを得なかった。

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