第15話 不可解な風音
――一撃で終わらせる。
そう意気込んで息を止め、構えに入った。
こちらの間合いに入り、相手を斬ろうと。
その瞬間、腹部に電撃でも浴びせられたような強烈な痛みが生じた。
眼前には血、多分自分の赤だ。
腹部は痛むが大剣の一振りを食らうわけにはいかない。刀を両手で持ち、身体を守るように構えたが、大きな圧が私を飲み込む。大剣の威圧は凄まじく、苛立ち唇を噛んだ。
ジンとした痛みに手足の力が入らず、全力で握っていた刀は軽々と弾き飛ばされる。足の踏ん張りは効かずに、衝撃に耐えかねた私の身体は背後の木々に吹き飛ばされた。
衝突した木々は、軋む音と共に倒壊していく。
全身がゾクリと痛むが、体を真っ二つにされないだけマシであった。
状況確認。腹部の痛みはもう一人の殺気の持ち主、式神を操る主の風を操作する能力で間違いないであろう。傷口を見た感じ、厚さ数ミリの鋭い風撃を食らったようだ。
その傷口は即時に再生する。しかし、あまり良い状況ではない。
殺気の居場所と風撃の方向が一致しないことから、相手は本当に風を自由に操作できるらしい。更に隙が大きいが一撃の重い式神。ここから無傷で乗り越えるのは容易ではない。
平夜結は不死だ。不死の呪縛はエネルギーの吸収から成り立っている。ではその不死に必要なエネルギーが消費されればどうなるか。
答えは殺意の過激化だ。
自分の蓄積しているエネルギー、それが失われていくほど殺意は濃くなる。これ以上負傷すれば、私の自我は一時的に崩壊してしまうかもしれない。
そうなれば、必然的に近くにいる今日間を斬るだろう。
やはり、きっぱりと今日間に言っておくべきだった。ただ一言、帰ってと。
私は怒りに任せて怒声を放ったが、それが多分彼の心の糸に触れてしまった。もっと平気な顔で、普段のようにしていれば、大人しく帰ってくれたかもしれない。
「それは無理、か」
考えてみて、自分で否定した。
今日間は人の内情を見抜く才がある。だから、私の強がりなんてすぐにバレる。
結局、明月今日間には敵わないな。
最後に内心でそうポツリと呟き、この思考に蓋をする。
今はただ眼前の敵を斬り捨てることだけを考えなければならない。
こちらから仕掛けるのは得策ではなかった。宙へ攻撃すると、風撃が飛んでくる。空中で回避するのは不可能であった。
しかし、だからと言って攻撃を誘っていても相手の思い通り。
どうしたものか、風撃は音を頼りに回避するしかない。
その音も小雨に若干掻き消されているので、正確にはわからない。
私は左手からナイフを取り出し、煽るように式神へ投擲。雨水を蹴って、森の中へ走る。
森の中では視界が悪くなる。こちらにも視界の悪さは適応されるが、木々を削る風撃の位置の特定ができるため結果メリットとなる。更に、式神と一対一に持ち込めるため、一番勝算があった。
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