第14話 迫りくる脅威
殺気は常に私たちを見ているけれど、一向に姿を現さない。
やはり待ち構えていては、相手は警戒されていると考えるのが自然。
隙を見せなければ襲ってこないのだろうか。
行先がなくてはこの辺をふらふらするしかなかった。
シンと背筋が冷えた。
一つだった殺気が二つに。これは非常に厄介である。
戦闘が不得意な今日間を守りつつ、かなりの手練れと交戦しなくてはならない。
彼も決して戦えないわけではないので、戦力外通告とまで行かないが相手の力量による。
思考を斬るように風が粗暴に吹き上がった。
あまりの強勢な風に体が浮きそうになり、必死に地を掴む。
目を開けてられず、呼吸すらままならない。
並々ならぬ風はやがて穏やかになり、その静けさが不気味な空気を際立たせる。
瞼を上げる。
私は一瞬の違和感を取りこぼさず、正面の歪曲した小さな空間に内心で舌を鳴らす。
今日間は未だ目を瞑って、自分の身を守るような構えを取っていた。
身を低くさせ、同時に今日間を蹴り飛ばして地に這う形を取らせる。
轟轟とした音が聞こえ、私は彼の腕を引っ張り走り出した。
音は木々が倒壊するもの。
「結、状況聞いてもいい?」
「何者かの襲撃。それだけよ」
「さっき僕たちは何されたんだ。木が倒壊するほどの何を……」
私は顎を人差し指の第二関節部分で擦る。
歪曲していた空間、あれは恐らく風によって生じた現象の可能性が大きい。
強風は光の屈折に繋がり、空間が歪んで見えることがある。風の勢いが強いほど、この効果は顕著になる。つまり、先程見た強烈な歪曲具合からして、凄まじい強風らしい。立派に育っていた木々が倒壊している面から見ても、そうだとしか言えない。
「風。強烈な鋭い風が来たと思うわ」
「風、以前も言っていた君が見た空間の違和感。つまり光の屈折だったわけだ。てことは相手は風を操作できる術師、もしくは能力者だね。でも僕の知る限りでは、そんな術師は知らないけど」
「世界は広いの。それに、術師ではなく、一般人の能力者の可能性も否めない」
足元が悪い。雨のせいで歩きにくく、また葉のせいで転げそうになる。
必死に全身を使って走り、私たちは立ち止まった。
前方に見えるのは不気味にも大量にいる白い衣を着た、恐らくは人外。指の数だけでは足りないほどの量、ざっと見て二十はいた。
更に背後からわらわらと、ゾンビのように群がってくる同じ人外がいつの間にかいた。
「これは式神だ。数が多いけど逃げ場がない。結、どうする?」
「あちらから来るなら、斬るまでよ」
「でも、それじゃあ結の殺意が。君は耐えられるかい?」
私の殺意は満たされない。だから、一度斬ると満たされない欲求が爆発して、更に殺人欲求が増加する。普段から大量に斬ることはなかったし、大量にいたとしても逃げていたので問題はなかった。仮に大量に斬ったとしても、時間が経てば戻る。
けれど、今回は隣に今日間がいた。恐らく欲求が強くなれば彼を斬ってしまう。
私の懸念の重点はそこにあったけれど、彼は違うらしい。
今日間は私の殺意が強くなって、平夜結が苦しむことを懸念していた。清々しいほどに他人の事しか心配せず、私は少し強めに言う。
「冗談。これくらい平気。心配は今日間、あなた自身のことをしていたほうがいいわ」
「わかった。君の後ろは何とか時間稼ぎをする」
今日間とて陰陽御三家の人間、術の心得はあった。
お節介は無用か。
そう考え、私は前方の式神に襲い掛かった。
自分でも惚れ惚れするほど華麗に舞い、次々と白い衣を赤に染めていく。
悲鳴が聞こえる。斬られ、悶絶する式神の嘆き。それを楽しむ趣味はない。今日間の言うとおり、私はこの行為に愉悦を求めていないからだ。
二十を片付けるのは楽であった。
「殺気の一つはあなたね」
背後からの奇襲が殺気でわかり、ちらり振り返り銀の刃先で綺麗に奇襲を止めた。
金属音が耳に響く。
白い衣を纏う、浮遊している式神。風の能力を使っていたのはこれか。
殺気は二つあったので、結論付けるのは聊か早計ではある。
相手が空から攻撃態勢に入る。しかし、相手の隙が大きすぎて、罠でもあるのかと疑ってしまうほどだ。考えても仕方ないので、迎撃態勢に入る。
相手は両手で大剣を持つ式神。態勢から見て右からの薙ぎ払い、素早く左側から斬り捨てれば問題はない。直進してくる速度からして、こちらの身軽さには到底追いつけないであろう。
――一撃で終わらせる。
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