第9話 欲求

 殺意、殺人衝動、殺人欲求。


 例えるなら空腹で何かを食べたい衝動に駆られた時。一番はこれに似ている。眠気で睡眠を取りたい時なども例に入る。性欲はあまり強くないのでわからないが、そんな三大欲求を超える欲が殺人欲求だ。


 だが明白に違いを与えるとすれば、三大欲求は満たすことも可能なうえ、満たされる満足感を簡単に得られる。一方で殺人欲求は満たすことは殺しという法にも人道にも反する行為だ。加えて、私は殺しができない呪いが課せられているため満たされることはない。


 生れた頃からそんな呪いを背負っていた。


 カレンダーを目で追い、何かと殺意に従う日々。


 青空を眺め、茜色の空を薄目に、夜空を堪能する毎日は嫌いではなかった。そこに殺意さえなければ、私は退屈でも生きたいと願っただろう。


 今の私の願いは安らかに眠ることだ。それが叶わないことだとしても、ふと呆然としている時に考えている。いつかこの願いが叶う日、もしくは変わる日が来るのだろうか。


 唯一の救いは今日間だ。彼は私の殺意を肯定してくれて、殺意を否定しなければならない私にとって一番の救済である。彼の人の在り方を想う姿勢は嫌いだ。他人にそこまで尽くす意味もないし、勝手に決められるのも不服だ。


 けれど、嫌いなのに、それに救われている自分がいる。だから、一つ訂正。ただ一つだけ温もりを感じているのかもしれない。今日間という、世話焼きで、無駄に他人へ気遣う彼に対して。


 帰り道、夜空を視界に入れながらそんなことを考える。この先、右折すれば屋敷だ。


「キョーマ」


 私は彼の名を呼んだ。

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