第7話 平夜vs

 相手は黒い骨を纏う人外だ。老人のような見た目、歯が大きく尖っている。妖、異形、それか式神の類も考えられる。


 と、考えているうちに相手は骨と分離した。骨が使い魔的な扱い、本体も文句なしの機動力で迫って来る。人間ではない癖に、人間のような戦い方をする。


 素手では分が悪そうだ。左掌を開き、浮かんでくるのは青白く光る魔法陣。私の左腕は無限の武を納める鞘。透明な柄が出てくるので、軽く力を入れて刀を抜く。

数週間ぶりの刀、遊ぶように軽く回す。問題はなさそうだ。


「あなたの殺意は甘すぎるわ」


 殺意にしては、殺す意思を強く感じられない。まさか、綾部の式神か、降ろしてきた異物か。これならば五名が軽傷で済んだ報告に納得がいく。殺さない程度の殺気だから。


 とりあえず無力化しなければ、私の本来の仕事が終わらないので手っ取り早くしよう。


 相手の初速はかなり早いが、視覚で捕捉できるならばいくら素早くても無駄だ。

 視覚から脳に情報を送り、腕や足に信号を送る。距離二十メートルもあれば、この一連の動作をする余裕は十分すぎた。


 つまらない相手だ。私は相手に殺意を込めた眼差しを向け、本体に突っ走る。


 地は砂利が大量で、走りにくさが目立つ。理想的なのは固いコンクリートだ。相手を確実にやるには、それが一番やりやすい。そうやって殺しを計画的に考えるのが、殺意を持つと言われる由来だった。


 視界が遮られる。灰色の粒、砂利だ。本体に何かしたような行動はみえなかった。よく鍛えられた使い魔だ。攻撃に徹するわけではなく、死角から死角を作る補助役。


 この場合、相手本体も私を見失うだろうが、使い魔の骨に視覚を共有できるのなら、優勢なのはあちらの方である。


 殺気という気配で居場所は特定できても、どの方向から刃先が飛んでくるかわからないので対処のしようがない。突っ走ってしまった以上、距離を取って回避するにも、足に入れた力の方向が邪魔をして、瞬時に動きを変えられない。


 なれば、足の力の方向を変えずに、回避すればいいだけだ。空、そこがいい。


 宙に一回転して、左に再び払われた一閃を回避する。着地と同時、私は相手の背後に直進。斬撃を放つ。余程の手練れのようだ。相手は背後を取られたが、すぐに対応し金属音が高鳴った。しかし、体勢が悪い。五連の追撃を放った後、相手の腹を真っ二つに斬った。


 血が大袈裟に噴出する。


 この言い方ではまるで殺人鬼のようだ。殺してはいないのに。


「斬られた、しかし私は死んでいない。何故? 貴様、ナニモノ?」

「ただの誰も殺せない殺人鬼よ。殺さないじゃなくて殺せないが、皮肉な話だけれど」


 私が手に持つ武器で人間を斬った場合、陰陽の気のみを削り殺傷能力がなくなる。即ち、生命エネルギーを削ることとなるが、全ての気を斬ることは叶わない。


 私は陰陽の調和を保つ存在であり、だから気を全て削ることも出来ず、この機能はある意味、呪縛であった。


 血が出る理由は生命エネルギーを斬っているからだ。生命の根源の体現化したもの、即ち血。生命エネルギーを斬っているから、血が体内から吹き出ているように見える錯覚が生れる。もっと正確に説明するならば、平夜結はエネルギーを吸収している。


 その機能については追って語るとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る