第4話 陰陽の調和
平夜結はおよそ普通の人間ではない。普通ではないが、しかしこの裏世界にとっては絶大な力を持つ者であった。それが不幸中の幸いか、こちら側では有利に働いた。枷があって尚、平夜結という私は貴重な存在らしい。
そんな貴重存在の私に目を付けたのが神崎彩夏であった。彼女もまた殺意に臆さない人種であるが、今日間のようなお節介はしない。それが普通だ。
この世には陰陽の二種の気で成り立っている、という考えで動いているのが私たち。
陰と陽は対立するものではなく、相互に補完し、バランスを取る関係にある。逆に言えば、このバランスが崩壊した時、調和が崩れる。
陰陽制約という、陰陽が互いにバランスを取り合う機能は存在するが、それを乱す何かを滅するのが私たちの仕事だ。調和が崩れれば、世界の破滅と言えば大袈裟だが、それぐらいの多大な影響が見られると言われている。
妖、怪異の異形の類。更には魔術師、錬金術師、呪術師、異能力者といった調和を崩壊する人間たちも討伐対象に入ってくる。無論、害がなく調和を乱さないのであれば、片っ端から喧嘩を売るようなことはしない。
元々は陰陽御三家と呼ばれる家系が、代々調和を守ってきた。
明月今日間が血を引く、明月家。今は私、平夜結しかいない平夜家。そしてもう一つ、綾部家が御三家である。
今もこの御三家は現役で、それ以外の裏に関係する家も少なくはない。
話を戻そう。
現代では多岐に渡って調和を守っており、そこに介入しているのが神崎家だ。彩夏は裏世界のこれまた胡散臭いが、調和を守る探偵事務所を開いている。
その探偵事務所に現在は私と今日間が手伝う感じだ。
依頼を請け負う形で事務所は成り立っている。時にはこちらから行動を起こし、御三家から報酬を貰うように成果を叩きつけることもあるが基本は前者のやり方だ。
驚くことに贅沢とまではいかないが、普通の生活をするくらいには稼ぎが出ている。それだけ現代の調和の乱れが激しいのである。
私はいいように使われる駒のようだが、生活ができればそれでいい。今日間についてはよくわからないが、三年前にちょっとした事件があって以来、彼を誘っていた。
基本的に情報は彩夏が集め、私が解決に動くという流れだ。今日間については戦闘の才はあまりなく、彩夏の補佐も彩音にとられているので役割がない。
自覚しているのか、自分が唯一できる彩夏との会議は真剣に行っているようだ。
思い出した。確か彩夏から今日間を誘った理由をいつか述べられていた。
『平夜には明月今日間という人間が必要だ。だから、彼を誘ったんだ』
これを思い出したが、未だに理由は謎だ。確かに今日間といると、自己肯定感が生まれるのは事実だ。しかし、そのちょっとした自己肯定感のために、わざわざ彩夏が今日間を雇うとは思えない。が、彼女のことを百パーセント確実に知っているわけでもないため、一概に確信は持てない。一つ言えるとすれば、己の利益のために動くことが多い。
私を誘った件もそうだが、今日間を誘ったのにも相応の利益が出る理由があるはずだ。
ただし、それを知ることは極めて難しい。なにせ、彩夏はずぼらなわりに、重要な点は一切隙を見せない手管に長ける節があるからだ。
まあ、そもそも知ろうとも思わないので、特別今まで気にはしてこなかった。これからも同じ、気にする必要はない。ただ、仕事を全うして生活をしていくだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます