第3話 秋の朝

登場人物を三話目にして軽く紹介。名前だけ。

平夜 結 ひょうや ゆい

明月 今日間 みょうづき きょうま

神崎 彩夏 かんざき あやか

神崎 彩音 かんざき あやね


 ――今朝。


 朝が少し肌寒い感じ、秋に季節が流れている実感が湧く。だが、やはり強く温度は感じることがなく、これから冬になっても感じる温度は変わらないのであろう。


 昨晩は今日間が帰った後、時を置かずして睡眠に走ったが、それでも未だ眠気は取れていなかった。重い瞼は右側だけ浅く開けて、窓から見える青空を眺める。美麗な青空で、見飽きた青空だ。時代が変わっても空の色は変わらない。


 背を壁に当て腕組し、そのまま立った状態で再び睡眠に走ろうとする私は怠惰だな。と、内心で卑下していると、そんな無駄な思考を回しているうちに目が冴えてしまった。

仕方なく両瞼を開け、何やら話し込んでいる二人を見つめる。


 睡魔に襲われているにも拘わらず、ある場所に私は招集された。町外れの辺鄙な事務所だ。あくまでも、裏の世界の事務所だが。

 表立ってはただのボロっちい一軒家である。


 事務所の人間である神崎彩夏と、仕事仲間である明月今日間が何やら話していた。


 今日間は黒いシャツに灰色ジャケット、黒いボトム。黒髪で背は私より高い。目立った特徴はないのが今日間だ。彩夏は二十代後半。年齢はそれしか知らない。ロングの茶髪だが、髪の毛がぐしゃぐしゃとしている辺り性格が出ている。だが頭はいい。白いワイシャツを着ているが、隠しきれない量のしわがある。その上に灰色のジャケットを羽織る。


「殺意とはそもそも何か知っているかい?」

「えっと。人を殺そうと言う意思。気持ちですよね。感情の一部のようなもの、ですかね」

「そうだ。だが、平夜の持っている殺意は少し違うんだ。言うなれば殺人衝動の方が近い。二つの違いを簡潔に言うならば、殺意は計画的で意図的な行動、殺人衝動の方は一時的かつ感情的な要因によるものだ」

「それじゃあ結の持っているものは殺人衝動じゃないですか?」

「いや、両方といった方が正しい。普段は殺人衝動を持っているが、君が来る前だったかな。平夜はある人物を計画的に殺そうとした。これは殺意だ。だから、殺人衝動を孕む殺意だと私たちは言っている」


 今日間がこちらを見る。私は素っ気なく吐息を溢し、それ以上の返事はしない。何やら私に言いたげな表情を見せる彼だが、口をもごもごさせた後に自制したらしい。


「おはよう結。ここに来てから三十分。最初のニ十分くらいは寝てたでしょ」

「いいえ。二人のくだらない会話を漠然と聞いていたわ」


 嘘だ。三十分経過したと聞いて、内心で自身の怠惰さを改めて認識した。体感は五分。つまりは二十五分ほど寝ていたことになる。我ながら睡眠欲には正直だなと思う。


 そんな私の脳を覗いたように、今日間が苦笑した。


「つまらない嘘はしなくていい。平夜はどこから聞いていた?」

「あなたたちが殺意がああだのこうだの言っていた辺り」

「そうか、それじゃあ本題はまだ聞いていないわけか」


 軽く頷く。

 私が眠っている間に召集された訳の説明はとっくに終わっていたようだ。


「彩音。茶でも入れてくれ」


 彩夏の親戚である神崎彩音は、台所の方へ小さな体をはきはきと動かした。

 彩音は十歳ながらも天才と呼ばれる類の人だ。頭が良く、彩夏の補佐としては立派なものだ。何かを見込んでか、彩夏が彼女をこちら側に引き込んだらしい。


「そういや平夜は何でいつも着物を着ている? 着物姿以外見たことがないネ」


 彩音から問われて、私は人差し指を折って唇に添える。

 私が普段から着物を纏う理由は特別ない。誰にでもある生まれた頃からの、ただの習慣にしか過ぎない。

 そんなつまらない説明をしたところで彩音は喜ばないので、私はテーブルに置かれた茶を無言で飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る