第2話 巡察師ヴァリニャーノの報告について
弥助を信長に献上したとされる、イエズス会の巡察師(イエズス会が布教状況を査察するため各地に派遣した宣教師の称号)ヴァリニャーノという人物がいる。
彼は1579年(天正7年)7月25日に来日(肥前国 口ノ津港、現:長崎県南島原市)。
1581年に信長に謁見し、その際に弥助を献上。
1582年(天正10年)に出国し、インドに帰還。
と、約3年日本に滞在し、1583年10月28日に、インドのコチンからイエズス会の総長へ【日本巡察記】を記述し日本の様子を報告した人物である。
■ヴァリニャーノの日本巡察記(1583年版)
東洋文庫 で日本語訳が発行されている(以下、巡察と略す)
その中で彼が黒人について報告した部分は見当たらない。
例えば2章に『日本人の他の新奇な風習(巡察P15~27)』という項がある。
その中で日本人は茶器や刀剣を珍重している事が書かれている。(巡察P23~25)
大友宗麟が名物茶器の似たり茄子(銀9千両、1万4千ドゥカードで購入した代物)を自分に見せた事があるが、我等から見れば鳥籠に入れて鳥に水を与える事以外には何の役に立たないもの。と紹介し、
堺商人でキリシタンのディオゴ(日比屋了珪)が鉄製五徳置の1つを大切そうに私に見せたが、 どれほど特別な品であるとしても、それは傷だらけのものに過ぎなかった。彼は九百両、およそ千四百ドウカードで購入したのであった。と記述している。
また武器に気を配るのは当然のように思われる。しかし彼らはこの点において度を越している。と刀1本に3~6千ドゥカードも出す事にも驚いている。
そしてその理由を訪ねたら、欧州人が大金を出してダイヤモンドやルビーを買うのと同じだと言われ、逆に欧州人の宝石の価値に驚かれた話をしている。
彼が日本人の収集品やコレクター的内容について書いているのはこの茶器と刀くらいである。
仮にロックリー氏や岡美穂子氏が自著で記載したように、黒人を所有する事が一種のステータスであれば、一言くらい記述があってもよいのではないだろうか?
また、日本人の家臣についての記述では、28章の日本においてキリスト教徒の領主が司祭や教会を維持できない理由と原因(巡察P143~147)という項がある。
ここには
『当初、日本人の性格や風習について述べたように、彼等はみな貧困であり、時には領主や貴人でさえ打ち続く戦乱に関与する為、また彼等にはその主食である米を産する土地の一部を自分達の為に保留しておく以外には、他の税収入や権利は何もないのではなはだ貧しいことである。』
と日本の大名の収入の少なさについて述べ、
50万石を有する大名が要れば、家臣に4万石をその中から支出する事を説明し
『したがって屋形自身は、適当な時期に提供される通常の奉仕と、戦時に屋形自身は支出することなく、家臣達が自己の負担で戦争に加わることのほかには、この五十万石をなんら使用することがない。
かくて彼の国で産出する五十万石のうち、彼自身の土地でいわば王位に附属する直轄領である一郡から生じる四万、五万、あるいは六万石が彼自身の為に辛うじて残るだけである。
彼はこれをもまた、その直属の家臣に分配し、この土地を耕作し、それぞれの時期に労務を提供する最下級の農民をも養わねばならない。』
と欧州の君主と騎士とは異なる制度について述べているだけであった。
■1592年に書かれた補遺
ただ、これだとヴァリニャーノが弥介と思われる人物を献上した直後なので、日本に黒人ブームが現れるのはその後であると考える余地もある。
しかしヴァリニャーノは1590年に再び来日し、豊臣秀吉のバテレン追放令を受けて様子の変わった日本を視察し、前述の報告書の補遺を提出した。(巡察160~234)
そこにも黒人、アフリカ人について記述された部分はない。
本能寺の変で主人である信長を失った弥介についての記述はなく、あるのは宣教師たちが迫害を受けて教会を破壊された事。
秀吉が金による納税を望んでおり、日本では金が少ないのでポルトガル人が東南アジアで銀と金を交換しており、その目的で九州の大名は欧州人と友誼を結びたがっている事。
だがその手数料は少なく、日本のイエズス会の運営状況が非常に厳しい事などは書かれても、黒人が優遇されたり珍重されたという報告はない。
日本の風習や布教に関する記述中心の報告とはいえ、欧州人が取引をしていた黒人奴隷に日本人が価値を見出し始めていたなら、何らかの記述はあっただろう。
この事から、欧州人から見てアフリカ人や黒人が日本で優遇されたり取引されたとは観測されてないと思われる。
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