救いの肉球

 再び襲ってきた地面の揺れに、建物の壁がまた剥離して広場の石畳に落下した。断続的に続く地震。しかもしだいにその揺れは大きく、長くなってくるようだ。

 蔵人はただ一人、身体を縛り上げられたまま冷たい石畳の上に横たわっていた。先ほどから、懸命に身を捩っているのだが、固い縛めは少しも緩んだ気がしない。そのうえ、この地震である。蔵人の精魂はすでに尽きかけていた。

 先ほど、空に生じた異変の後、アルハザードはどこかへと姿を消していた。その様子から察するに、魔道士にとっても予想外の変事なのだろうか。

 とにかく、脱出するなら、今を置いてないのだが……。

 ドォン……。

 どこか遠くから、爆発音のようなものが響いてくる。

 ドォン……ドォン……。

 なんだろう。

 さっきのことに関係あるのだろうか。

 縛られた身体に可能な範囲で、蔵人は音の方向に顔を向けた。

 空に舞い上がる土煙が見える。建物に視界のほとんを占められ、向こうで何が行われているのか、さだかにはわからない。

 その時、蔵人の耳にトタトタという微かな音が聞こえてきた。

 蔵人が首を回すと、ほとんどいきなり、灰色の塊がぬっと蔵人の視界に割り込んできた。

「わっ、なに?」

 蔵人は目を瞬き、灰色の塊が、大きな猫の形をしていることに気づいた。ソーニャの相棒、メインクーンの血を引く大猫ホイエルの凛々しい姿がそこにあった。石畳に転がされているせいで、蔵人は緑色の瞳に見下ろされるかたちだ。

「ホイエル? どうして?」

 そう口にだしてすぐ、愚かな質問だと蔵人は気づいた。

「助けに来てくれたのか……」

 蔵人の脳裏を、可憐な魔女の姿がよぎった。ホイエルがここに居るということは、彼女も一緒に違いない。

 しぼみかけていた希望が、青年の胸の内で再度ふくらみ始めた。

 ホイエルは鼻をフンと鳴らすと、蔵人の背後に回り、後ろ手に回された荒縄に、強力な顎でかぶりついた。

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