15話「遺跡調査の仕事を請け負うトレジャーハンター」
ジョン・ドウが机の上に広げた地図を目の当たりにすると、テラン語と呼ばれる太古の文字のことを不意に呟いてしまい結果として、周囲に居る冒険者や他のトレジャーハンター達から好奇な視線を向けられることとなった。
「あ、ああまあな。これでもトレジャーハンターなんで」
皆に視線を向けられて若干の威圧を感じつつも、さり気なく周りの同業者に圧力をかけるように口を開いた。しかしそれ自体に特に意味はないのだが一応言葉の成り行きでだ。
だがそう答えると透かさずジョン・ドウが自らの手を叩いて、
「流石です! それでこそトレジャーハンター! ではではさっそく説明の方をさせて頂きますので、皆さんよく聞いていて下さいね!」
短くも軽い拍手を行うと共に今度は地図へと視線を落として説明を始めるのであった。
そしてジョン・ドウによる説明は地図を使いながら進められていくのだが、大雑把に且つ大体の内容を纏めるとこういう感じとなる。
まず最初に一番肝心なことだが俺達が調査する遺跡についてのことだ。
寧ろこれを早期に把握しておかないと元も子もないだろう。
それから本題の遺跡についてなのだが、それは太古の昔に邪神と呼ばれる魔王すらも凌駕するほどの力を持つとされていた魔の神が、人間を操り作らせたと言われている遺跡であるらしいのだ。
けれどその邪神というのには諸説あることから、ここでの詳しい説明は省かせて頂く。
取り敢えずは魔王よりも上位の存在ということだけ覚えていればいいだろう。
それに今は遺跡と財宝についてのことが最優先事項なのだ。
ちなみにその遺跡についての補足事項なのだが、どうやら階層が幾つも存在しているようで全部で三十階層ほどあるとのことだ。つまりそこの最新部にて邪神が人を操り集めた金銀財宝の数々が隠されているということだ。
一体なんの為に邪神が遺跡を作らさせて人から宝を集めたのかは分からないが、今の議題はその宝を俺達がどういう方法で手に入れるかだ。無駄な考察は悪戯に時間を消費するだけで意味はない。
そして現状としてはトレジャーハンターが五人で魔物退治が主の冒険者が十人ほどである。
周りを見渡してみれば自ずと同業者か否かの判断は出来るだろう。
だがま簡単に言うのであれば、体格と身に付けている武器で大凡の推測ができるけどな。
……だがそんなことは些細なことであり話を本題の方へと戻すのだが、この遺跡調査の主催者でもあるジョン・ドウは遺跡内部には行かないらしく、遺跡までの道案内を行うらしいのだ。
つまり端的に言うのであれば俺達に宝を見つけさせて遺跡から運び出して欲しいということ。
ジョン・ドウ本人は安全な場所で宝が運ばれて来るのを待つのみということだな。
けれどジョン・ドウという男は自らの立場が分かる人間らしくて、分け前としてはこちらが六で向こうが四ということであり、更に金貨数百枚も一緒に付けてくれるということらしい。
まあそれでも遺跡の中に隠されている宝の量に依存するところが多いことから、分け前の意味は大きく変動するかも知れないのだが、それでも金貨数百枚を全員で分配したとしても屋敷が数十邸は余裕で買えて尚且つおつりが出るぐらいだ。
これは決して悪くはない話ではないだろうか。なんせ今後の旅でも金銭面ことに関しては、永遠に付いて回る厄介事の一つだからだ。
ならばここで早期に解決できるのは俺からしてみればただの利益のみである。
「――以上が今回の遺跡調査についての説明です」
そんなことを思案している間に説明は終わりを迎えると、ジョン・ドウは机の上に広げられていた地図を丸めて筒の中へと入れて片付けていた。
「報酬については皆さん異論はなさそうなので問題ないですね。それではトレジャーハンター五人と魔物退治の冒険者十人という編成でお願いします」
そう言いながら彼は全員の顔を見渡すと、この場に居る俺を含めた全員が静かに頷いて答えていた。つまり誰も異論を唱える者はおらず、この仕事の契約が成立した瞬間であるということだ。
「これなら仮に宝が少なくても大丈夫ですね」
「ふっ、邪神がなんだよ。結局は大昔の遺跡に変わりはないんだから、この仕事は楽勝だね~へへっ」
「こりゃぁ下手したら魔物すらも住み着いていない可能性があるな! がははっ!」
隣ではトレジャーハンター数人と冒険者の男が盛大な笑い声を出しながら既に遺跡調査を攻略し終えた後のような気分で周りと話し始めている。
だがそれを遮るようにしてジョン・ドウが、
「今回の遺跡調査に参加して頂きまして誠にありがとうございます。最後に肝心の出発日程ですが明日の朝六時にこの酒場前で集合し、全員が集まり次第出発致しますのでくれぐれも遅れないようにお願いします。それでは皆さん、また明日お会いしましょう!」
遺跡調査の日程をさらりと軽い口調で告げていくと最後に全員の前で一礼してから酒場を出て行くべく足を進めていた。
本当にあの男の歩き方や身のこなしが貴族のそれに見えて仕方ないのだが、一度仕事を受けたからにはクライアントの素性を探るのは御法度だろう。
こちら側としてはしっかりと分け前を貰えればそれでいいからな。
寧ろ無駄な詮索をして契約が取り消しなんてされたら普通に泣けちゃうぜ。
――それからジョン・ドウが酒場から出て行くと共に扉の閉まる音が聞こえると、その場に居た冒険者やトレジャーハンター達は蜘蛛の子を散らすように解散した。そして各々は再び自分の席へと座ると、酒やら料理やらを頼んで自由に過ごし始めているようである。
「ふむ、多分だが明日の仕事の為に英気を養っているのだろな」
それらの様子を見ながら独り言を漏らすと自分も残りの果実酒を堪能するべく、再び席へと向けて足を進ませることにするのであった。
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