14話「いよいよ始まる説明会」
ジョン・ドウという身なりの整えられた男が颯爽と長靴の酒場へと現れると、この男は自らが提示した約束の時間に大幅に遅刻しているのだが一言も謝る素振りを見せず、寧ろ自らのことを偽名だと言いながら笑みを浮かべていて正直一発殴りたい所ではある。
だがそんなことをしてしまうと折角の遺跡調査の件が白紙になることは間違いないので、今はただ只管にお目当ての話が聞けるまるで耐え忍ぶことのみである。
俺とてわがままな子供ではないのだ。列記とした大人であり、一流のトレジャーハンターを名乗るソロモン=クロックフォード様だからな。
……しかしそれでも一度握り固めた拳はそう安々と静まることはないのだけど。
「さてさて、自己紹介もこれぐらいにして今日は遺跡調査の説明会に出席してくれて誠に嬉しく思う。いや、本当に凄く嬉しいんだよ。人数が多ければその分遺跡の攻略が容易になる筈だからさ」
俺達全員に視線を向けて説明を聞きに来た者達に感謝の言葉を送ると共に白い歯を見せて笑うと、やはりこの男こそが紛れもない遺跡調査の主催者であることが分かる。
まあ最初に自らの名を口にしていたから、当たり前と言えば当たり前なんだけどな。
だが俺のトレジャーハンターとしての勘が囁いてくるのだが、このジョン・ドウという男どこか胡散臭い匂いがするのだ。それが具体的に何かと問われると、申し訳ないがそこまでは分からない。あくまでも直感的な事ゆえにな。
しかし偽名を使うということは大方、裏に何かしらの組織が絡んでいることは間違いないだろう。もしかしたら宝を集めることが趣味の王族が絡んでいる可能性も充分にありえる。
「それではさっそく遺跡調査について具体的な説明をさせて頂くのですが……すみません。皆さん僕の周りに集まって頂けますか?」
いよいよ遺跡調査の説明会をジョン・ドウ主催のもと開幕すると、開口一番なにを考えているのか自分のもとへと近付くように全員に声を掛けていた。
しかしここに居る者達は全員が外の世界で数々の薄汚い仕事をこなしてきた歴戦の猛者たちだ。
故にそんな奴らに集まれという言葉のみで動かすのはまず不可能に近い事だろう。
現に警戒心の高い冒険者やトレジャーハンター達は全員が武器に手を添えて、尚且つ鋭い眼光をジョン・ドウの元へと向けて一切の瞬きすらもしていない状態だ。
つまり今この酒場内は彼の次の一言で戦闘体制に移行するか否かの瀬戸際である。
「ああ、警戒させて申し訳ないです。これは決して怪しい意味とかではなく、ただ遺跡の地図を皆さんに見て頂きたいだけなのです。ほら、この手の仕事は信用が一番大事ですからね」
ジョン・ドウは全員が殺気を自身のもとへと向けていることに気がついているようで、まるで道化師のように軽い言葉を使いながら懐に手を忍ばせると、そこから一枚の薄汚れた紙を取り出して全員が見える位置で広げていた。
「チッ、なんだよ。警戒して損したな」
「ああまったくだ。危うく殺しかけたぜ」
「本当にあれは宝の地図なのか? 自慢ではないが俺は元王宮直属のトレ――」
そして広げられた紙を全員が目の当たりにすると冒険者やトレジャーハンター達は武器に添えていた手を退かして、各々は悪態をつきながらも席を立ち上がると続々とジョン・ドウの元へと集まるように足を進めていた。
「ふっ、どうやら危機的状況から一定の信頼を勝ち取ったようだな。まさに道化師みたいな男だが……俺としては苦手な部類だな」
そう独り言を呟いてから席を立ち上がると、最後に果実酒を一口飲んでから説明を聞くために彼の元へと歩みを進ませた。
――それからジョン・ドウの近くへと足を進ませたあと、木製の机の上には先程彼が全員に見せていた紙が大きく広げられて置かれているのだが、なにを隠そうこの紙は一種の地図と呼ばれるもので間違いないのだ。
「ほう……これはこれは中々に凄いな」
広げられた地図を下顎を触りながら眺めると自然と言葉が出て行くのだが、それも当然のことであり地図には遺跡と思わしき内部の構図が書かれていて、それは道中の様子や遺跡の階層数などという様々なことが大雑把に記されていたのだ。
そう、あくまでも大雑把で様々なことが書かれているのだ。
全てが事細かに書かれている訳ではない。
つまり遺跡に何かしらの罠が仕掛けられていても分からないということ。
「……なるほど、これはただの地図ではなく骨董品としての価値も充分にあるな」
だが地図を見ていて気が付いたのだが、これは太古の昔に書かれたものであることが分かり、それが事実とするならばこれだけでもかなりの値の張る宝として価値はある。
それから何故これが太古の昔に書かれたものかと分かるのかという説明をするならば、この地図の端に書かれている文字がテラン語と呼ばれる太古の時代に使われていた文字であるからだ。
けれど残念ながら今の時代ではテラン語は完全に廃れてしまい誰も読むことはできないのだ。
しかし俺はトレジャーハンターの有名な家系として、ありとあらゆる言語を幼い頃に叩き込まれた故にテラン語とて例外ではないのだ。
だから今は廃れた文字でも、まるで日本語のように軽く読めるのである。
「ふむ……。テラン語が地図の端に書かれているということは、この地図は本物で間違いないな」
地図を眺めながら呆然とそんなことを小声ではなく普通の声量で呟く。
するとジョン・ドウが張り付いたような笑みから一瞬にして驚愕の表情へと変えると、
「おお! なんと! 貴方はここの地図に書かれているテラン語が読めるのですか!?」
声色すらも先程の道化師のようなものではなく期待と興奮にまみれたものへと変化していた。
そして彼の言葉に惹きつけられたのか周囲を取り囲んでいた冒険者やトレジャーハンター達の顔が一斉に俺の元へと向けられると、これは些か下手なことを口にしたとして失態感が自身の中で込み上げてくると共に口は災いのもとだとして自覚させられた。
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