9話「お宝は返してもらうぜ!」

 さてさて幼馴染の話をしていたせいで本題から逸れそうになるが漸くお目当ての部屋へと入ることが出来ると、俺の視界には予想通りというとなんだか滑稽な気もするのだが勇者一行は一刻も早く体を休ませたいのか全員が同じベッドへと倒れ込むようにして寝息をたてていた。


「ふむ……装備すらも外す気力が無かったと見えるな。やはり睡眠剤の量を間違えたか? ……まあ結果的に寝ている訳だし、気にしなくてもいいか」


 ゴドウィン達に視線を向けて全体を確認すると、連中は自身の装備を身に付けたまま寝ているようで、どうやらそれほどまでに睡魔に抗えない様子であった。

 恐らく今の状態であるならばエミーリア達に悪戯をしても気づかれることはないだろう。


「ふっ、こんな女達の寝込みを襲うほど落ちぶれたくはないものだな」


 普通の男ならばここで襲うという選択肢が僅かにでも浮かぶだろうが、生憎と俺は短い間だとしても連中と旅を共にしていた者だ。


 それ故にエミーリア達の醜い部分を多く見てきたことで到底襲う気なんて湧いてくる筈もなく、そもそもゴドウィンと所かまわず致している女達にそんな価値なんぞ一つもないのだ。


 そう、例えるならば今のエミーリア達はただの石ころであり、探さなくとも何処にでも落ちている無価値な存在。まず俺の興味を惹きたければただの石ころから、ダイヤモンド級の輝きを帯びることが大切だな。


「まっ、そんなことよりも今はエクスカリバーとイージスの回収の方が大事だけどな」


 道端に転がる石ころから意識を外して周囲へと視線を向けると、そのまま物音を立てないように部屋を徘徊して二つの神器を探し始めることとした。


 しかしここで一番手っ取り早く済ませる手段としてはゴドウィンが他の連中と同様に、エクスカリバーとイージスを手にした状態で寝ていてくれれば、無駄な捜索活動は避けられたという点にあるだろう。


 まったく、笑えないほどに使えない野郎だ。

 これで勇者という肩書きがなければただのクズ男だな。


「……おっと、いけないいけない。ついストレスが溜まって思考が悪い方向へと進んでいたな。落ち着け俺。大丈夫だ」


 今頃となって勇者一行への苛立ちが体の底から込み上げてくると、それは少しだけ自身の思考を掻き乱していくが直ぐに軽い深呼吸を行い気分を整えて思考を正常なものへと戻した。


「はぁ……。ここに居ると勇者一行アレルギーを発症してしまい体に毒だな。さっさと神器を見つけてかえ――――づぅぁぇつ!?」


 額を手で押さえながら体調が次第に悪くなる感覚を鮮明に受けると、急いでエクスカリバーとイージスを見つけて退散しようと考えたのだが、そうすると何かの気配を察知して視線を机へと向けた瞬間に、お目当ての物が堂々と視界に飛び込んできたのだ。


 そう、まさに机の上にこそ二つの神器が乱雑に置かれていたのだ。

 イージスの盾の上に重ねるようにしてエクスカリバーの剣が放り投げ捨てられている感じだ。


 これはまさに適当に置いたという言葉が相応しいぐらいで、宝をこんな無防備に且つお粗末な状態で晒すとは、どんな怖いもの知らずかと形容しがたい恐怖感を抱かされるほどだ。

 

 仮にこんな宝の状態を俺の父ちゃんと爺ちゃんが見たら、厳しく指導し直して一ヶ月は地下牢で謹慎生活は確実だな。


 現に俺はそれでなんども屋敷の地下牢にて監禁されて、今や地下牢に咲いていた一輪の花はマイフレンドさ。まあ疾の昔に枯れてしまったけれども。


「ああもう、宝はもっと丁重に扱えっての。それこそ女性を守るように丁寧にな」


 幾度の女性を抱いたとしても宝の扱いが適当な男に碌な奴はいないと言うのが俺の持論であり、エクスカリバーとイージスを女性の肌を撫でるかの如く優しく触れると、そのまま抱き抱える要領で二つの神器を持ち上げる。


「それに剣と盾は己の身を守る大切な武器だろうに。まったく、それでも勇者かねこいつは」


 二つの神器を抱えて部屋を出る前に無謀にも寝顔を晒しているゴドウィンに文句を吐き捨てると、そのあと改めて周りを見渡して女性陣にも視線を向けるが、口を閉じていれば美少女という印象が強いのだから尚更質が悪い。


 やはりここ数ヶ月間、雑な扱いを受けた身としては些細な悪戯をしても神は許してくれる気がするのだが、それでもただの石ころに欲情するほどまだ頭はおかしくないので、そのまま部屋を出ていくことを決める。


 けれどもう二度と勇者一行とは会うことはないだろうとして、最後に中指を立たせて格好良い感じに仕草を決めたあと部屋を後にした。これが今の俺に出来る精一杯のお礼だとも。


 ――それから忘れ物を回収したとして店主に挨拶をしてから宿屋から出て行くと、スキル気配断絶を解除すると共に漸くお宝が自分の元へと戻ってきたとして、気分が坂道のように段々と上昇していく。


「ふふん~エクスカ~リバ~。エクスカ~リバ~美しい~聖剣っ!」


 そして気分が乗ると自然と聖剣の歌が頭の中に浮かびあがり自然と口が動くと、鞘を自らの頬に擦らせてエクスカリバーの冷たい感覚を己の体に染み込ませる。だがこの冷たい鉄という感じが気分が向上させて温度が高まる肉体をいい感じに沈めてくれるのだ。


「ららら~イージスの盾~。ああ、重厚で格好良い盾よ~」


 さらに次は左腕に抱えている盾を眺めながら先程と同様に、頭の中に浮かんだ盾の歌を口にしながら歩みを進めていくと、今俺が目指している場所とはずばりこの街の役所であり、そこで手続きをしてお宝達を屋敷へと送ることにしたのだ。


 理由は至極簡単である。この二つの神器を抱えた状態でトレジャーハンターを続けるのは現実的ではないからだ。なんせ俺は筋力もなければ剣の適正すらない男だからだ。つまり宝の持ち腐れという状態であり、それならば一層のこと屋敷で保管しておいたほうがいいということだ。


「まあそれでも輸送中に野盗が現れて宝を盗まれたらという不吉な考えが何度も頭を過るが、それでも現状は手元においておくよりかは幾分かましだろうな。今後のことを踏まえてもだ」


 そう独り言を呟きながらも役場へと足を進ませていく訳だが、それと同時にソロモンコレクションに初めてお宝が飾られるとして向上していく気分が収まることはなかった。

 寧ろ心臓の鼓動すらも次第に強くなる一方である。

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