8話「宿屋とは名ばかりのラブホテル」
無事に宿屋へと潜入する事が出来た俺ではあるがそうすると今度は別の問題が発生して、一体ゴドウィン達はどの部屋を使用しているのかという難問と遭遇することとなった。
まあそれでもこの宿屋の何処かには居るという前提は何一つ変わることはないことから、一室ずつ虱潰しに探していくことにする。
そして俺から一番近い部屋から順々に扉を開けて確認しながら奥の方へと進んでいく訳なのだが、真面な人間ならここで一つの疑問が当然頭の中に浮かぶことになるだろう。
そう、ずばりそれは部屋に施錠が施されていて扉が開かないのではということだ。
「ふっ、だが心配しないで欲しい。俺はトレジャーハンターを生業としている男だ。それ即ち厳重に施錠された宝箱とかとも時には対峙するということ。だからこんな宿屋の施錠如き朝飯前だぜ」
自信満々に懐へと手を忍ばせるとトレジャーハンター道具の一つでもある、ピッキング用の小さい金具を取り出して早速鍵穴へと差し込んで弄り始める。
「ああ、正直に言うとこれをしている時が一番緊張するぜ。まあ今回は相手が宝箱とかではないのが少々残念な所ではあるがな。まあそれでも何処かの部屋には勇者一行が居て、そこには二つの神器があることから、ある意味ではこれも宝箱として見れるかも知れん」
独り言を呟きながら自信のやる気を落とさないように鼓舞していくと、鍵穴から何かが噛み合うような軽い音が響き聞こえた。
「おっと開いたようだな。どれどれ、この部屋に勇者一行はいるのかなーっと」
そのままドアに手を掛けてゆっくりと押し開けると、開いた扉の隙間から中の様子を伺うことにした。いきなり豪快に扉を開けて野盗のように侵入してもいいのだが、ゴドウィン達に気づかれると色々と面倒事となり終わりだからな。
ここは慎重に事を運んだほうがいいと俺の勘が告げているのだ。
それと願わくば酒場で仕込んだ睡眠剤が効いていれば尚のこと嬉しいのだがな。
「うっし、寝ているようだしこれなら大丈夫そうだな」
隙間から様子を伺うことでベッドに膨らみが出来ていることを視認すると、どうやらこの部屋の住人はぐっすりと寝ているようで、そのまま扉を開けて忍び足で侵入するのだが――――
「んー……ありゃ。これは別の部屋だったみたいだな。すまん、お二人さん」
ベッドで呑気に寝ているゴドウィンたちの顔を拝んでやろうと横から覗き込んだのだが、それは見るからに別人で更に男の隣には裸の女性が寝ているようで、現状を整理するにこの部屋はカップルが事を成す為に借りた部屋ということだろう。
「何も見なかった事にして早々に立ち去るとするか……」
他人の性事情を意図せずとして知ることとなり、なんて生々しいのかと記憶から消そうとするが、それでも女性の方は割かし巨乳で美人だったこともあり記憶に留めようとする。
それからカップルたちの部屋を早急に出ると勇者一行が宿泊している部屋を探す為に、再びピッキング道具を取り出して周囲の部屋全てを開錠するべく行動を開始するのであった。
――そして数々の部屋を開錠して色んな人たちの性事情を更に知ることとなると、既に気持ちは満身創痍なのだがそれでも漸く俺はお目当ての部屋を見つけることができた。
「まったく、ここの宿屋は殆どラブホテルじゃねぇかよ……ああ、クソが。まじで部屋中が茶色一色に染まって異臭まみれなのは本当に勘弁してほしい。俺にそういう趣味はないし到底理解もできないぜ……」
勇者一行が宿泊する部屋を見つけるまでに数々の冒険をする羽目になったのだが、その中でも特段精神的にきつい部屋を目の当たりにすると、それは今でも俺の目と鼻に鮮明に光景と匂いが染み付いて一向に取れる気配がない。
しかも驚くことにそのハードなプレイをした部屋で呑気に寝ていたのは二人の女性であり、彼女らは恐らくそういう関係なのかも知れないが二人共かなりの美人で、同時に闇が底知れないほどに深いことを否応なしに理解させられた。
「……う”っ”!? おろえっげほっげほっ……あぁ」
それから記憶を思い起こしたせいで気持ちの悪さが一定の許容値を超えると、盛大に吐瀉物を宿屋の廊下にぶちまけて汚してしまった。しかし同じ汚し方でもまだこっちのほうが真面に見えるのは俺の精神が壊れた証拠なのだろうか。
「ったく、この宿屋はそういう利用の客を断るべきだろうに……」
口元を手の甲で拭いながら文句を吐き捨てると視線を前方へと向けた。
そう、この扉の先にこそエクスカリバーとイージスという二つの神器が眠っているのだ。
ついでに勇者一行という余計な奴らも一緒にな。
しかしここを見つけるのは容易いことではなかったが、どうやら勇者一行が借りた部屋は一番値段の高い部屋であり、しかも四人用という完全に金持ちが使う専用の部屋であったのだ。
「まあそうだよなぁ……。アイツらって見えだけ一人前だもんなぁ。そりゃ部屋も一番良いところ借りるわな」
頭を掻きながら自分の考えがそこまで及ばなかったとして恥ずかしい思いを感じるが今は宝を返して貰う方のが先だ。というか早く宝という至高の輝きを自らの瞳に焼き付けて、汚れた光景を一刻も早く視界の隅々から抹消したいのだ。
汚された物を唯一浄化できるのは唯一無二の宝のみなのだ。
そう思いながら急いでピッキングを行うと、いつも通りの鈍い音が鍵穴から聞こえてくる。
「はぁはぁ……漸くお宝たちとご対面だぜ!」
高ぶる気持ちを抑え込むという野暮なことはせずに、このままの感情で勇者一行が使用している部屋へと足を踏み入れることにした。
ゆっくりと扉を開けて中の様子を伺い、誰ひとりして起きていない事を確認すると恒例の忍び足で部屋の中へと侵入する。ちなみに言うとだが、この音を出さずに歩く方法は幼馴染直伝だ。
まあこれだけ言うと俺が幼馴染のことを好きみたいに見えるかも知れないが、別にそういう感情は一切ないと断言してもいい。なんせ向こうは怪盗でこっちはトレジャーハンター。
それは水と油のように混ざり合うことはなく決して相容れない存在だからである。
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