10話「新たな街と勇者一行の通報」

 無事にゴドウィンからエクスカリバーとイージスを返して貰う事ができると、早々に宿屋をあとにして俺はその足で街の役場へと歩みを進めることにした。

 理由としては至極簡単なことであり、現状で手元に宝を置いておきたくないというのがあるからだ。


 そして鼻歌を交えながら軽い足取りで役場へと到着して、二つの神器を屋敷へと発送する為に色々と手続きを行うと、なんとか明日の朝一で屋敷へと送り届けてもらうようにして貰うことができた。


 まあその際に手数料やら配送料やらで持ち金をかなり毟り取られて、懐が寒いことになるがこれでお宝が死守出来るのならば問題はないと思いたい。それに金のことに関しては次の宝を手に入れて、そこから工面すれば意外となんとかなりそうな気がするのだ。


「よっし、んじゃさっそく次の宝を求めて旅を再開させますかね。こっからは本当にトレジャーハンターとしての冒険の始まりだぜ!」


 諸々を済ませてから役場から出ると最早この街に長居を決め込む必要はないとして、早々に立ち去るべく街と外の境界線でもある門前へと向かうことにした。


「うぉぉぉ! テンションあがってきたぜ! み・な・ぎ・っ・て・き・たぁぁ!」


 それから門前へと到着して両腕を組みながら仁王立ちをすると、漸く自身のやりたいことが出来るとして拳を掲げながら気分を向上させるが、これは無鉄砲と言うべきだろうか次の目的地は特に決めていないのだ。


 しかしそれでも取り敢えずは勇者一行から離れたいという意思が少なからずあり、次の目的地をどうするかと悩み始めると答えは早急に出さないといけなくて、そこでふと視線がたまたま足元に落ちていた木の枝へと向かうと、これは神の導きかも知れないとして徐に拾い上げると枝を駆使して自身の行く末を委ねることにした。


「まあ焦ってもしょうがないからな。旅は気ままに財宝は大胆に手に入れるべしって言葉があるぐらいだからな。頼むぜ木の枝ちゃん。俺に次の目的地を示してくれっ!」


 今適当に思いついた言葉を呟きながら拾い上げた木の枝を地面に立たせると、これが倒れた方角へと足を進ませるという小学生の頃によく遊んでいたあれを実行することにした。


 意外とこれで新たな土地へと行けるので俺としては結構好きな遊びだったりもする。

 それに運が良ければ新たな土地で宝に遭遇できたりしたからな。

 まあ宝と言っても道端に落ちていた色の付いたガラスの破片だけど。


「……おっ、こっちの方角か。んー、そっちは見た限り森しかないのだが……」


 懐かしき頃の記憶を思い出していた間に木の枝は行くべき道を指し示していたようで、その方角としては一面が木と草に覆われた緑豊かな森であった。


「まあ行くしかねえな。こっちとら生まれながらのトレジャーハンター様だぜ。怖いものは何一つねえ!」


 しかし木の枝がその方角に進めと言うのであれば、俺としては拒否することは不可能でありトレジャーハンターとして森の中を進むことに決める。

 それにもしかしたからこの森の中には隠された宝箱があるかも知れないしな。


 そう考えて僅かな期待とまだ見ぬ財宝達が自分を待ち望んでいるとして、背中に羽が生えた感覚で軽やかな気持ちとなりながら森の中へと足を踏み入れて行くのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 そうして森の中へと突き進んで野営などを繰り返すしていくと瞬く間に数週間が経過したのだが、なんとか森を抜けてから少し歩いたところで運良く小さな街を発見することが出来た。

 

 俺は休息の意味を込めてそこで暫く身を寄せることを考えると、宿屋を探し求めて街へと入ろうとしたのだがそこへ突如として土埃を巻き込んだ突風が吹き荒れた。


「うっ、なんだこの強い風は……」


 予告もなしに吹き荒れる突風に足腰に力を込めて耐えようとするが、何故か力が上手く込められずに風に突き飛ばされて背中から後方へと倒れ込む。だが幸いなことに背中に身につけていたバッグがクッションとなり痛みを感じることはなかった。


 しかしここまで体力を奪われたのには理由があるのだ。それは森の中で野営をしていた時は山菜などしか食べていないせいでカロリーが著しく低下しているからだ。

 それ故にただの風ですらも今は強敵となりうる存在である。


「はぁ……。分厚いステーキが食いた――――ぬぁっ!?」


 ため息を吐いてカロリーが多い食べ物の名前を言うと、そのまま体を起こそうとするのだが、そこへ風に揺られて何やら一枚の紙が顔に目掛けて飛んできた。


「あぁ? なんだよ一体?」


 地面に座りながら上半身だけ起こしている状態で顔に張り付いた紙を手に取ると、一体なにが書かれている紙なのかと面倒ながらも好奇心には逆らえず目を通していく。


「うわっ!? まじかよ!?」


 するとその紙には驚くことに勇者一行の事が書かれていて、内容としては伝説の剣と盾を元パーティーメンバーに盗まれたと記されていたのだ。


 けれどその文面の下部には取材班の言葉が書いてあり、そこには『証拠がないことから憲兵団が捜索を行うことも出来ず、そもそも伝説の剣と盾が実在するのかどうかも怪しい』という風に一行の供述を疑う言葉が書かれていた。

 

 つまり俺がエクスカリバーとイージスを取り戻したことに勇者一行は気が付いているということか。だけどその確たる証拠がないから捜査も動けない状態ということ。

 まあ御尋ね者認定されて顔が公開されていなければ現状は気にする必要はないだろう。


「それにこの紙……いや新聞か? まっどっちもでいいんだが、これが発行されたのは一週間前みたいだな」


 発行された日付を確認しつつも新聞の一面を改めて見直すが、何処にも自分の顔写真が掲載されていないことから、恐らく勇者一行の言葉に信憑性が無いと判断されて、そこまで本気でやる必要はないと思われたのだろう。


 だが一応相手はこの世界を救うために魔王と戦う連中ということで、下手に取材を断ることもできずに嫌々ながらも書いたという感じが大いにこの新聞からは伝わる。

 

「まったく、こんな面倒な連中に新聞を作らされた人は可愛そうだな」


 そう呟きながらも手元の新聞を読み終えて適当に丸めて投げ捨てる。

 しかしあくまでも現状は特に気にする必要はないとして考えてもいいということで、それが今後どうなるかは分からないとして警戒は必要なのかも知れない。

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