5話「変装スキルは幼馴染の教え」

 二時間も遺跡の中で勇者一行は何をしていたのかと疑問に思うと、その答えは凄く下らないものであり、どうやら一行達は神聖なる遺跡の中で性行為に勤しんでいたらしい。俺としては別にそんなことは知りたくもなかったのだが、スキル『盗聴』で聞こえてしまったので仕方あるまい。


 そして勇者一行が歩き出して街の方へと向かい出すと、俺はさながらストーカーのように気配を消して後を付けることとなった。まあスキルのおかげで気づかれる心配はそんなにないのだが、如何せんシーラは気配に敏感な所があるから一定の距離を保たねばならない。


 それから尾行を続けていくとやがて近くの街へと到着して、勇者一行は酒場の中へと足を進めていくと、頃合いを見計らいつつ俺はスキルを解除して酒場の窓から中の様子を伺うことにした。

 ここでスキルを解除したのには理由があるのだ。それはずばり魔力消費が激しいからだ。


 他の攻撃系のスキルならば一回の消費で済むのだが、気配断絶は持続して魔力を消費することから燃費が悪いのだ。だから休める時にスキルを解除して温存することが大切である。

 しっかりと、いざという時に使えるようにしておかなければならない。


「んーで、どれどれ? 一行達は何をしているのかなーっと」


 窓越しで酒場の中を覗き込むとゴドウィン達の姿は一目瞭然であり、なんでこんなにも分かりやすいのかと疑問に思うが、やはりそれはエクスカリバーとイージスの盾を手にしているからということであろう。


 つまり宝から神々しいオーラが出ていて、俺の視界が瞬時にそれを見分けているということ。しかし残念なことにエクスカリバーとイージスは今や机の下に置かれている状況であった。それもぞんざいに置かれている状態で、何一つ神器に対しての礼儀というものを感じられないほどに。

 

「あのクソ、ヤリ○ン野郎めぇ。一体エクスカリバーとイージスをなんだと思っていやがる! まったく、これだから宝の価値すらも分からない、どぐされ野郎は嫌いなんだよ!」


 ついつい汚い言葉の数々が飛び出してしまうが宝や財宝を大事に扱わない人間は家畜以下の存在だと俺は思っているのだ。そして窓枠を掴んで食い入るように見ているこの状況だが、冷静的に客観的な視点で見るのならば相当に頭のおかしい人物だということも自分自身理解できる。


 到底トレジャーハンターが見せるような姿ではないだろうと。

 だが幸いにもここは人通りが少なり路地であり、そんなに人目に晒されることはないのだ。


 そして再び視線を勇者一行の元へと向けるとゴドウィン達がウェイトレスに何かを注文しているようで、その光景を見た瞬間にふと頭の中に一筋の光が射すように妙案が浮かんだ。


「ふむふむ……これならばアイツから教えて貰ったスキルが役立ちそうだな。やっぱり持つべき者は人脈ということか」


 手を顎に当てながら頷くと早速、幼馴染の女怪盗から教えて貰った変装のスキルを発動させることにした。これは幼馴染の一族のみが有している固有のスキルであり、幼い頃に教えて貰ったのを俺が勝手に使っているのだ。


 変装スキルは中々に便利なもので顔や声を瞬時に別人のように変えることが可能なのだ。

 だからあとは発声練習をして声がしっかりと変わった事を確認して、


「あーあー。よし、これなら大丈夫だな」

 

 最後に窓ガラスに反射した自分の顔が別人になっているかどうかの確認を終えて準備万端である。


 やはりいつ使用してもこのスキルはチート級の能力だと思わされて仕方がない。なんせこれを使えば王族にだって変装できて、国家の行く末すらも一夜にして簡単に変えることが可能だからだ。

 

 そう思うと改めて幼馴染の怪盗一族は末恐ろしい存在だと思うが、まあ今はそんなことよりもエクスカリバーとイージスというお宝を返して貰う方が先である。

 俺にとって何よりも優先されるべきことは宝と財宝だからだ。

 

 それと幼馴染についてはまた機会がある時に話すとしよう。

 彼女は色々と印象が不透明過ぎるというか闇が濃いというべきか語ることが難しいのだ。


「さてさて、ここからがお楽しみの時間だぜ」


 幼馴染のことを一旦忘れて指の柔軟運動をしながら呟くと、そのまま酒場へと突撃する為に足を進ませ始めた。


 そして無事に酒場へと乗り込むことに成功すると、ちょうど運が良いことに勇者一行の元へと酒を運ぶウェイトレスを発見することが出来て、これは使えるかもしれないと話し掛けることにした。

 

「あ、それ俺が運ぶからキミはあっちを頼むよ。なんか女性が対応しないと怒る客みたいでね」


 ウェイトレスへと近付いて気さくな雰囲気を出しつつ話しけると、人差し指を誰とも知らない男性客へと向けて即興で考えた嘘を言う。ちなみに服装はこの酒場の男性ウェイターと同じものにしてあるから俺自身が客として見られることはない。


「あー、あの人は確かに面倒な人ですね。では私が対応しますので、こちらの品を三番テーブルへとお願いします」


 そしてウェイトレスは男性客へと視線を向けて何かを察したような顔を見せたあと、酒が乗せられている銀色のトレイを俺に渡してくるとそのまま男性客の方へと足を進ませていた。その様子を愛想笑いを作りながら見送るが、どうやら即席で考えた嘘は本当のことだったらしい。


 ついでに言うとトレジャーハンターとはこういう些細な運要素も大切なのだ。

 つまり俺は運が良い男ということ。


「よし、あとはこの酒にちょっとした細工を施すだけだな」


 周囲から人目が離れ事を確認すると右手を使い、懐から小包を一つ取り出して開封する為に歯で破くと、直ぐに中身を確認するが小包の中には白い粉末状の物がぎっしりと詰まっていた。


 だがここで安心して欲しいのだが、これは決して怪しい粉とかではないのだ。

 ただ服用するとちょっとだけ睡魔が強くなり、眠りが深くなるだけのことである。


 まあ所謂、強めの睡眠剤と言ったところだろうな。

 勿論だが無味無臭の優れ物を選んであるから気づかれることはないだろう。


「ふっ、ということはもう後はわかるだろう?」


 誰に問うわけでもなく気分が向上して自然と言葉が口から飛び出していくと、この高鳴る衝動は恐らくエクスカリバーとイージスが目の前にあるからだろう。

 やはり俺の体は無限の宝と財宝を求めているようだ。

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