4話「勇者一行は野外でも可」
遺跡から出たあと俺は勇者一行からどうやって宝を取り戻すかという事を思案すると、現状としての案はスキル『気配断絶』を使用して遺跡から出てきた一行の後を付けて、気を伺いつつ剣と盾を取り戻すことぐらいであった。
「はぁ……。トレジャーハンターなのに最初の仕事が、まさか盗みになるとはな」
ため息混じりの愚痴を吐き捨てると静かに空を見上げたが、むかつくほどに晴れ晴れとした空が自身の体に染みる。だが物は考えようという言葉もあるぐらいだ。
故に考え方次第ではこれは盗みではなく、宝を返して貰うだけという解釈もできるはずだ。
なんせ宝自体は俺が最初に見つけた物だからだ。
つまり現所有者は俺であり、トレジャーハンターとしての仕事は全うした訳だからな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
そんなことを考えつつ数時間ほどが経過すると漸く遺跡から勇者一行が姿を現した。
そして自らの視界でその様子を確認するとスキル『気配断絶』を発動させて、近くの物陰に身を潜めながら策の段取りを頭の中で復唱した。肝心な所で失敗しては恥ずかしいからな。
ちなみにスキル『気配断絶』を発動させると周囲から認識されずらくなり、自身の存在を極限まで無くすことで魔物たちからも気づかれにくくなるという優れスキルだ。
スキルの取得方法としてはギルドで冒険者登録をして魔物を退治して稼いだポイントで獲得するか、人から教わり取得するかのいずれかの方法となるだろう。
まあ俺の場合はトレジャー技術を叩き込まれる際に一緒に教えられたから圧倒的に後者だけどな。しかしそれでも駆け出しのトレジャーハンター諸君に、手放しでおすすめできるスキルの一つだぜ。理由としては俺たちトレジャーハンターは時に同業者や魔物たちから命を狙われる側だからだ。
「しかし遺跡から一行が出てくるまで随分と時間が掛かったが……一体中で何をしていたんだ?」
取り敢えずスキルの話を一旦頭から除外すると自らの顎を触りながら色々と考察して呟くが、俺が遺跡から出て既に体感時間で二時間は容易に経過している筈なのだ。
本当に遺跡の中で一行が今の今まで何をしていたのか不思議でならない。
一体それほど時間を掛けてまで何をしていたのだろうかと。
「んー……はっ!? ま、まさか俺の探知スキルでも反応しない未知のお宝が隠されていたのか!?」
一つの可能性が脳裏に一瞬にして駆け巡ると、それはエクスカリバーやイージスの他にも別の宝の存在があるというものであった。
しかも仮にそれが本当のことだとしたら俺は相当な間抜け野郎になってしまう。
これでも腕利きのトレジャーハンターを自負しているのだ。
なのにそれが宝の価値も分からない素人集団に見つけられてしまうとは……。
「けれど奴らは遺跡の中で剣と盾以外に一体どんな宝を見つけたというんだ?」
純粋に別の宝という憶測上のモノに惹かれると今度はスキル『盗聴』を発動させて一行の元へと視線を向けた。このスキルは対象へと視線を向けることで遠くに離れていても地獄耳のように全てはっきりと丸聞こえ状態となるのだ。
だからメンタルが弱い者は使わないことをおすすめする。
何故なら影で自分の悪口を言われている時は中々に辛いものがあるからな。
俺も勇者一行と旅をしている時に何気なく『盗聴』を使用した際に、ちょうど自分の陰口を叩かれていたから普通に気分が落ち込んだぜ。
まあそのおかげで一行が俺に対してどういう気持ちを抱いているのかという答えを知ることはできた訳だが。……しかし今はそれよりも宝の方が大事だな。
「いやぁ、まさか三人がそこまで我慢していたとはね。気づけないですまない!」
意識を集中させて一行の会話を盗聴すると最初に聞こえてきたのはゴドウィンの声であった。
しかし我慢していたとは一体なんのことだろうか? ひょっとして宝を見つけたとかではなく、アイツらは未だに俺のことで話しているのか? だとしたら相当な暇人か性格が歪んでいると言う他ないが、それだと遺跡の中で二時間も滞在していた理由にはならないだろう。
「大丈夫です。これで満足できましたから」
そして次にエミーリアの声が聞こえてくると彼女は自身の服を叩いて身だしなみを整える素振りを見せていた。だがその口振りから連想するに、やはり俺がパーティーを抜けたことで満足しているということで間違いないだろう。
ということは現状を纏めると一行は遺跡の中で、俺の悪口大会を開催させて二時間も続けていたということか。……本当にアイツらは民から崇められるべき勇者たちなのか?
なんか俺が日本でプレイしていた某王道RPGとのギャップがありすぎてやばいな。
ああいうタイプはきっと世界の半分を与えると言われて笑顔で首を縦に振りそうな奴だ。
そして次回作の中盤辺りで闇堕ちした姿で登場するに違いない。
「相変わらずゴドウィンのあれは大きくて最高です!」
そして何かの聞き間違いだろうかレギーナの声で変な言葉が大音量で聞こえてきた。
しかも彼女を注視して見てみるとゴドウィンの息子の大きさを表現しているか両手で何やら卑猥な動きを見せている始末だ。
「まさか外でするとあんなにも気持ちが良いとはな。これもまた学びということか」
すると最後にシーラが両腕を組んで頷きながら何故か冷静な口調で話を纏めていた。
横ではレギーナが卑猥な手の動きを見せているというのに。
――だがしかしそれらの情報を再度纏めると、
「アイツらもしかして遺跡の中でやったのか? エクスカリバーとイージスが祀られてた神聖な遺跡で? おいおい……まじかよ。相当な変態パーティーじゃねぇか」
勇者一行は遺跡という神秘の場所で行為に及んだらしいことが分かった。
しかしこれは流石の俺でも呆れを通り越して、もはや虚無の感情しか残らない。
これでもし仮に一行が魔王を討伐して世界を救おうものなら、このことを世界中に公開してやろうかと思える程だ。もしくはそれを武器にして色々と脅して有効利用するかだな。
そうすれば気楽にトレジャー業が行える上に必要物資も融通されるだろう。
……うむ、そう考えればこそ勇者一行達には性欲に呑まれた猿のように盛りあって欲しいものだ。
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