3話「生い立ち/勇者一行」
俺は元々日本人であり不運なことに車に吹き飛ばされて死ぬと、気が付いた時には既にこの世界の人間として転生を果たしていた。
そしてこの世界では十八歳で成人となるらしく、まあ否応なしにこの世界で新たな人生を始めた訳なのだが、これまた奇妙なことに俺が生まれた家は所謂貴族という家系であったのだ。
しかもただの貴族という訳でもなく、なんと俺の家系は代々トレジャーハンターを生業としている一族であったのだ。無論だがその事実を知らされた時は全身に雷を受けたような衝撃を受けた。
なんせ生前は宝探しに人生を費やした俺だ。更に転生した世界では宝探しが一種の職業として認知されていて、尚且つ俺が生まれた家が宝探しを専門としているからだ。
それはもう神が何らかの優遇をしてくれたような。
そんな不思議な因果すらも感じ取れるほどに、全ての歯車が上手く噛み合っているのだ。
それからトレジャーハンターの家系で生まれて良かったことは他にも多くあるのだ。
それはクロックフォード家に代々と受け継がれているトレジャー技能を身に付ける事が出来たことだ。
まあ剣や魔法が使えるこの異世界ならば大抵のことは何でも出来る。それは日本で生活するよりも楽かも知れないが、ネットとかの手軽な通信システムがないことが些か不便だと感じる時はある。
だがそれでも魔道具と呼ばれる品物がこの世界にはあることから似たような事は可能だ。
主に遠くの相手と連絡を取り合うことができたり写真を撮影したりとな。
そして俺が十八という成人を迎える歳になるまでにクロックフォード流のトレジャー技能や、果ては獣人語やエルフ語などありとあらゆる技能全てを叩き込まれて今に至るということだ。
更に言うならば貴族だから生活面に関しては何一つ不自由なことはなかった。
屋敷に仕えるメイド達は皆美人だらけで逆に申し訳ない気持ちが湧くほどである。
それから俺が勇者一行に無理やり加入させられた話をするならば、それは十八を迎えて晴れて成人となり、早速各地に眠る財宝やお宝を探しに行こうと旅の支度をしていた時に事件は起きたのだ。
まあ事件だとしても、そんな大層なことではない。長年の封印が解かれて魔王が復活して魔物たちが活発となり、領土を広げるべく人間たちを襲い始めたことぐらいなのだ。
つまり魔王軍が攻めてきたことでムグルヘと呼ばれる王都の人理教会が焦りを募らせたらしく、魔王を討伐する為の専門パーティーを結成させるべく、各地から優秀な人材を集める為に王都緊急召集令が行使されたのだ。
勿論だが最初は面倒だからという理由で断ろうとはしたのだが、応じなければ貴族の称号を剥奪される上に命令違反で処刑という脅迫まで添えられていて嫌々応じたのだ。
そして王都へと出頭するとそこで個人の能力を見られるのだが、どうやら人理教会の重役たちの目には俺の家系だけが扱える宝探しのスキルが有益に見えたらしく、強引に勇者一行へと加入させられたのだ。
まあ世界中どこを探しても宝探しに特化したスキルは、俺の一族しか有していないから貴重と言えば貴重の部類に入るだろう。
「はぁ……。思い返すとクソみたいな事しか起きてないな……ったく」
色々と思い返しつつ遺跡から出るべく歩みを進めていると漸く外へと出る事が出来たのだが、薄暗い遺跡内で目が慣れていたせいか太陽光が視覚に突き刺さると強烈な痛みを伴う。
「ぐっ……さすがにこれだけは慣れないな」
そう呟きながら目元を何度も手で擦りながら痛覚を緩和させていくと次第に痛みは消えていくのだが、それと同時に目の前でお宝を横取りされたことに対して怒りの感情が段々と込み上げてくる。
「チッ、この俺様が宝を奪われたまま指を咥えて大人しくしていると思うなよ。こっちとら生粋の生まれながらトレジャーハンターだぜ」
怒りの感情が頂点に達すると握り拳を天へと掲げながら自身の決意を口にすると、目の前で横取りされた剣と盾は必ず取り戻してソロモンコレクションに加えてやると心中にて誓う。
ちなみにソロモンコレクションというのは俺が手に入れた財宝やお宝たちを事である。
屋敷に専用の魔法金庫があり、そこに今までの宝たちを纏めて一括で保管しているのだ。
もっともその専用の金庫は今現在、空の状態が続いているがな。しかしこれで晴れて自由の身ということで、やっとソロモンコレクションが増やせる旅に出られるということだ。
だがまずは手始めに俺が見つけた聖剣エクスカリバーと、イージスの盾を手に入れなければならないだろう。あんな宝の価値も知らないようなズブの素人には必要のない物だからな。
まさに豚に真珠という言葉が今のゴドウィンを表すのに的確な表現であろう。
けれど聖剣と盾を取り戻したことで結果的に、それが魔王軍の進行を早めることになろうとも俺は一向に構わない。魔王とか世界の平和とか正直どうでもいいのだ。全てはお宝と財宝、これだけである。
「でもまずは作戦を練らないと何も始まらないな」
手を顎に当てながら呟くが幾ら俺とて無鉄砲に勇者一行に喧嘩を売ることはできない。
なんせ向こうには厄介な取り巻き連中がいるからだ。故に真っ向勝負だけは避けて通らねばならないだろう。
「取り敢えず今は作戦を練りながら一行の様子を伺うとするか。まあどうせアイツらのことだから聖剣と盾を手に入れたことで祝杯を上げて、今日はそのまま宿屋で乱交パーティーだろうしな」
短い期間しか共に過ごしていない筈なのに瞬時にこれだけの展開が容易に想像できると、なんとも悲しいやら呆れやらが混ざり合い複雑な気持ちとなる。
しかし改めてそう思うと、そんなヤリ○ン野郎に伝説の聖剣と盾は少々勿体無い品物だと言えるだろう。そしてそんな汚らわしい手で神聖なる宝に触れないで欲しいというのが俺の本音だったりもする。
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