2話「まさかの異世界転生者」
聖剣エクスカリバーと伝説の盾イージスを見つけたことで用済みとなると俺は勇者一行からパーティーを抜けるように言われて事実上追放されたのだが、これでトレジャーハンターとして自由の身が約束されたと思うと別に怒りの感情や不満とかは何一つないのだ。
「はいはい、分かってますよ。お邪魔虫は退散しますよーっと」
一行に向けて気怠い返事をするとそのまま遺跡を出るべく足を進ませ始めるが、寧ろこちらとしては喜んで追放されていると言っても過言ではないだろう。
ああ、これは断じて強がりなのではない。心の底からそう思うのだ。
なんせこれで自由気ままに宝や財宝を探しに行けるのだから。つまり漸く本来の家業に復帰できると言う訳だ。周りのトレジャーハンターとは随分と差を付けられている可能性もあるが、まあこれから急いで取り戻していけばいいだけのこと。
しかしそんなことを考えていると背後からは女性たちの声が聞こえてきて、
「これで漸くゴドウィン様と私達だけのパーティーとなりましたね!」
「あんな浮浪人みたいや奴が仲間だなんて正直、耐えられなかったから精々するわ」
「それにアイツたまに厭らしい目で私達を見てましたよね」
などというよくもまあそんなに人の悪口が尽きず言えることだと寧ろ感心の気持ちすら湧く。
だが一つだけ言わせて欲しいのだ。……いや、ここは訂正というべきだろうか。
「俺は別にお前たちを厭らしい目で見てねえよ。ただ人目も気にせずによく街中とかで大胆にイチャイチャできるなと冷ややかな視線を送っていただけだ。まったく、どんだけ自意識過剰なんだよ。はぁ……あんなのが勇者一行とは世も末だぜ」
つい早口で本音混じりの独り言を呟いていしまうが、これこそがことの真実であるのだ。
だから断じて厭らしい目を向けていた訳ではない。それに俺は女遊びよりも何一つ穢れのない、お宝や財宝の方がよっぽど好きだしな。
「それにあの男は常に小汚い革のコートを着ていて、いつも不潔そうで一緒に旅をするのも嫌だったのよ。だけどこれで漸く、そのストレスからも解放されて嬉しいわ」
どうやら背後では未だに俺の悪口大会が開催されているようで、静かな遺跡内では何も遮るものはなく全てが筒抜け状態である。
もしかしたら向こうが敢えて聞こえるように言っているだけかも知れないが。
まあ俺のさっきの独り言は聞かれても聞かれてなくてもどっちでも良いけどな。
しかしそれはそれとして俺のこの格好に文句を言うとはいい度胸してやがるぜ。
「ふっ、これは俺のスタイルだ。スタイルと呼べ、あの喘ぎ声女め」
背後から聞こえてきた声の主に対して些細な愚痴を吐き捨てるが、それと同時にあんな連中が世界を魔の手から守ろうとするんだから、本当に笑い話にもならんなこれは。
だが改めて思うが勇者一行から追い出されたのは本当に好都合でしかならないだろう。
なんせ一行に無理やり加入させられて自由すらも奪われると、宝探しという俺の生き甲斐を剥奪されたも同然だったからだ。
今思いだしてもここ数ヶ月間の扱いは、まるで悪事を働いた罪人のようだったぜ。
しかしそれが今日を持って解放されたとなると、見えない透明な足枷と手錠が外れたように気分は爽快だ。
まあ端的に言えばさっさと勇者一行の目的を遂げさせて自由の身になりたかったということだ。
そう、全ては俺の計画の範囲内での出来事であるのだ。
だから何も心配はいらんし、困ることはない。
「だがなんだろうな、こうして自由の身となるとやりたいことが一杯あって気分が向上していく一方だ」
どうやら気分が最高潮に達しているようで自然と全身が震えてくると、これはもしかして宝を探すという生き甲斐が長期間禁じられていた故に起こりうる反動で、一種の禁断症状のようなものなのかもしれない。だとしたら俺は根っからのトレジャーハンターだということだろう。
「だがまあそれもその筈か。なんせ俺は日本で生活していた頃から、こんなことをしていた訳だしな。そう簡単に消える感覚でもないということか」
そう、実は日本という平和な国で生活していた頃から俺はネットやらを駆使して徳川の埋蔵金やらを探して毎日出掛けていたのだ。それはもう高校を留年するぐらい本気でだ。
まさか出席日数不足で留年するとは思わなかったぜ。しかも後々よく調べたら徳川の埋蔵金は嘘というか、そもそも埋蔵金自体が存在しないという説が濃厚だったしな。
そしてここまで言えばもう分かるとは思うが、俺はこの世界の住人ではないのだ。
いや、厳密に言えばこの世界の人間なのだが……あれだ。
いつも通りに宝を探しに出掛けた日に運悪く車に衝突して跳ね飛ばされて死んだのだ。
その時の感覚や痛みは今でも俺の脳内に深く刻まれていて、たまに夢の中で再現されるぐらいにはトラウマだ。だからここでは詳細については省くことにする。
それから車に轢かれて死んだあと次に目を覚ますと不思議なことに、この世界の人間それも生まれたてほやほやの赤ん坊として目が覚めたのだ。
まったく自分で言っていて未だに理解が出来ない現象ではあるのだが、日本で生活していた頃に見ていた漫画ではこういうのを異世界転生と言っていた気がするのだ。
だがまさかこうして漫画の中でしか起こらない非現実的なことを、俺自身が実体験することになろうとは本当にどんな数奇な人生を送ればなるのやらだ。けれど別の世界で新たに生を受けたのは別にいいのだが、問題は赤ん坊の状態で明確に意識というか自我があることだ。
生自意識があると色々と大変であり、まずこの世界の離乳食はとにかく不味くて何度も吐いた。
味はまるでその辺の草と牛乳をすり鉢で混ぜたような味である。
まあ口いっぱいに自然を感じたい人にはおすすめの一品ではあるが、そのあと何を口に入れても暫くは雑草の風味に全てをかき消されることであろう。
だから俺の唯一の生命線は母からの授乳であったことは言うまでもない。
ちなみに若々しい母の生乳を見て興奮したのは内緒だ。
でも仕方ないのだ。見た目は赤ん坊でも精神年齢は十八歳なのだから。
それに後々聞いたら俺を生んだのが二十歳の時らしいのだ。ということはこれを聞けば分かると思うが、この世界の人たちは随分とお盛んであることが伺えるだろう。
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