第11話 盗賊、見つけ出す。


「みんな、村人たちを起こすのはやめるんだ!」


「「「「えっ……!?」」」」


 ユユたちが驚いた顔を向けてくる。まあそれも当然か。寝ている村人を起こしているのに、なんでそれがいけないのかって思うはずだしな。


「……ウォォ……」


 どこからともなく、不気味な呻き声がしたかと思うと、村人たちが次々と起き上がってきたのだ。


 それは、一見するとただの村人に見えて普通の人間とは明らかに雰囲気が違っていた。


 強い敵愾心、すなわち殺気を漲らせていたんだ。


「やはりそうだったか……。これは眠っているわけではない。ゾンビ状態だ」


「「「「えぇっ……!?」」」」


「つまり、彼らはスリーピングトラップではなく、S級のゾンビトラップを仕掛けられていたんだ」


「「「「ゾンビ……」」」」


 ゾンビトラップは、トラップに引っ掛かった者がゾンビ化し、それがどんどん周りの村人に噛みついて仲間を増やしていくという厄介すぎる罠なんだ。唯一の救いは、完全にゾンビになるまでに猶予があることだ。


「「「「「ウオオォォオッ……!」」」」」


 ゾンビ化した村人が俺たちに襲い掛かってくるのは時間の問題だった。


「ど、どうすればいいのでしょう、ルファンさん!?」


 ユユを始めとして、みんなどうしていいのか迷ってる様子。無理もない。


 ゾンビといっても元々は村人なため、攻撃するのをためらってるんだ。


「最初にゾンビ化した村人が本体だから、村人たちを元に戻すにはそれを探して倒さないといけないが、今のところどこにも見当たらない。とはいえ、俺に考えがある。リディア、村人を挑発して一つにまとめてくれ」


「え、ルファン、一体どうするっていうんだい? ま、まさか命を盗む!?」


「いや、そんなことはしない。彼らの気配は、半分ゾンビだがまだ人間であることを示している。だから、殺しはしない」


「オッケー、わかった。村人を一つに纏めるよ!」


 戦士リディアの挑発が効いたのか、元村人たちが挙って彼女を追いかけ始めた。よしよし、助かる。


「る、ルファン、一体どうするの!?」


「アラン、そんなに慌てなくても大丈夫だ。心配ない」


「そうですよ、アラン。ルファン様なら、必ずやってくれます……」


「ああ、ピュリス。必ず期待に応えてみせる」


 俺は纏まったゾンビたちに向かって、を使った。


「「「「なっ……!?」」」」


 ユユたちが衝撃を受けてる様子。


 そりゃそうだよな。まるで神隠しにでもあったかのように、ゾンビ化した村人たちがごっそり消えたんだから。


「る、ルファンさん、村人たちはどこへ消えたのでしょう!?」


「ユユ。村人たちなら山の中にいるよ。俺が盗んだ距離をそのまま放ったから」


「「「「……」」」」


 ある意味、これもテレポートみたいなもんだ。ただ、ユユたちが黙り込んでることから、モンスターが村人たちを襲わないか心配してるんだろう。


「山中とはいえ、彼らはゾンビな上に数もいるから、モンスターも恐れて襲わないはず。しばらくは大丈夫だろう」


 だが、これで終わりじゃなかった。


 ゾンビ化した本体が必ず村のどこかにいるはずなんだ。それを探し出さなくては。


 そういうわけで、俺は本体の居場所を盗むべく索敵を開始する。


「……いた。それも、すぐ近くに。そこだ!」


「「「「っ……!?」」」」


 目を丸くするユユたちを尻目に、俺はとある方向を指差した。


 それは、まさに死角、盲点――それまで村人たちが横たわっていた地面の中だ。


「グモォォ……」


 まもなく俺たちの足元付近に罅が入り、そこから呻き声とともに手が生えてくる。


 こんなところに隠れてやがった。まさに灯台下暗しだ。


 地中から勢いよく飛び出すように姿を現した男。その額には、本体であることを証明するかのように額に赤い石が埋め込まれていた。


 そういや、確か最初にゾンビ化した本体がそうなるんだ。しかも、戦闘力はほかのゾンビに比べて数段高いんだとか。


「うあっ……!?」


 戦士リディアが相手の攻撃を受け止めようとするが、一方的に押されていた。相手は素手なのに物凄い威力があり、スピードも抜群だ。


 だが、ユユが回復するだけでアランもピュリスも攻撃しない。その流れでみんなの視線がこっちに集まってくるのは、これを倒していいのか確認するためだろう。


 それに対し、俺は迷いなく頷いた。


「残念だが本体はもう、完全に人間ではなくなっている。こうなると手遅れだし、倒すしかない」


「それなら、みなさんでぶっ倒しましょう! まず、私が杖で手本を見せますぅう!」


「こらユユ、あたしがやるって!」


「僕の魔法で蹴散らしてやる!」


「わたしの矢で、射止めてみせます……」


「……」


 みんな凄い勢いで集中砲火して、相手が可哀想に思えるくらいだ。


「「「「「……っ!?」」」」」


 だが、すぐ終わるかと思った俺を含めて衝撃に包まれた。


 どれだけ杖で殴られても、斧で斬られても、魔法で燃やされても、弓矢を急所に食らっても、相手はすぐに元通りに再生したのだ。


 それならばと、俺が命を盗んでも同様だった。まるで効いてない。一体どうすれば……って、そうだ。俺は遂にやつを倒す方法を見つけ出した。


「ユユ、リディア、アラン、ピュリス、あの赤い石を狙うんだ!」


「「「「りょ、了解!」」」」


 四人が敵の額を重点的に攻撃すると、相手の動きが止まった。これは効いてるんだと思うが、それでも倒れることがない。


 ただ、この状況ならあの赤い石のエネルギーも弱まってるはずで、それ自体を盗めるかもしれない。


 何度か挑戦するうち、俺は額に埋め込まれた石を盗み取ってやった。


「グモ……」


「「「「「あ……」」」」」


 すると、敵はあっけなく砕け散った。例の石もまた、掌の上で徐々に消えてなくなるのだった。


 バインドトラップに見せかけたヴェノムトラップといい、スリーピングと思わせておいてゾンビトラップといい、例の盗賊の仕業に違いない。


 罠自体も高度だが、やり方がとにかく巧妙すぎる。やつは一体、冒険者になんの恨みがあるっていうんだ……。

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