第10話 盗賊、敵の狙いに気づく。
「……」
こ、これは……。
およそ100キロほど先まで近づいたところで、俺は意外すぎるものを目撃してしまった。
その時点ならはっきり見えるだろうってことでウェルタン村全体を索敵した結果、想像していた光景とはまったく違ったんだ。
それまでは、てっきりウェルタン村で死体が転がってるとばかり思っていたが、そうじゃなかった。
確かに村人たちは倒れていたし、起きる気配は微塵もなかった。そこまではわかっていた。
だが、彼らは死んでいるわけじゃなかった。寝ているだけだったんだ。
しかし、寝ているだけといっても、どうにも不自然だ。
彼らの眠っている場所というのが、家の中とは限らず、庭や畑、倉庫や店舗の前だったからだ。
まるで、それまで普通に生活していたのが、突如として本物の睡魔に襲われたかのようだ。
だとすると……名もなき盗賊団によって、E級の罠の一種――スリーピングトラップを仕掛けられたのだろうか?
倒れている者たち以外に、起きている者がいないか探したが、その周辺にはいなかった。
それでも油断はできない。
あらかじめ仕掛けていたトラップに村人たちが引っ掛かったことで、これから盗賊団が押し寄せてくるかもしれないからだ。
そういうわけで、俺は先を急ぐべくまたしても距離を盗んで一瞬で移動した。
もちろん、心配させないように今度はみんなとの距離もこっそり盗み、一瞬で自分の近くに集めてからにする。
……ふう。80キロほど盗んでやった。連続なのでさすがに疲弊したが、平静を装って周りには疲れを見せないようにする。
「「「「あっ……」」」」
あれ、ユユたちがびっくりした様子で周りを見渡してる。
そうか……代り映えのしない山中とはいえ、さすがに一瞬で周りの風景が変わったんだからバレるか。
「むうう……ルファンさん、また距離を盗みましたね……!?」
「あ、あぁ、ユユ。その通りだが、急いでたからな、すまん」
「スライム教の教義に反したため、スーパーくすぐりの刑です!」
「ちょっ……!?」
ユユが怖すぎる顔で近づいてくるので遠ざかる。っていうか俺だけじゃなくみんな巻き添えを嫌がったのか彼女から離れてるし、スライム教の割りにきつい刑なのかもしれない。
「てかルファン……あんたが倒れたらしゃれになんないんだからさ、無理はしないでくれよ」
「本当にリディアの言う通りだよ、ルファン。正直なところ、肝心なとき以外はずっと休んでもらいたいくらいだから」
「みなさんの言う通りです……。ルファン様がこのようなことをなさるのは、私まで心苦しいです……」
「……」
ユユだけでなく、リディア、アラン、ピュリスにも苦言を呈されてしまった。
俺ってやつは……みんな、それまでの景色を楽しんでいたかもしれないっていうのに、それを台無しにしてしまった。
リーダーのユユがスライム教の信徒でなければ、今すぐ追放されてもおかしくない失態だ。今度からはバレないようにもっと上手くやらないと……。
猛省しつつ、俺たちはそれからしばらく移動して遂にウェルタン村まで到達した。
見た感じ、トラップは見当たらないし盗賊団が襲来する様子も今のところないが、それでも油断はできない。
半径100キロ以内をグルっと索敵してみると、20キロほど先にアジトらしきものがあり、そこに盗賊団の姿も見えた。大体100人前後くらいだろうか。
単純に考えたら、やつらがスリーピングトラップを幾つも仕掛けて村人を眠らせ、物品を盗んだという可能性が高い。
だが、俺はなんとなく違和感を覚えていたんだ。
この状況自体が巧妙な罠のような気がするというか。
考えすぎだろうか?
実際、家の中は荒れている個所が幾つも見られる。盗賊団が物を盗み出した痕跡もある。だが、何か出来すぎている。
「……」
俺はその違和感の正体に気が付きかけていた。
自分の中で確かに存在する違和感だけを盗み、それを調べることによってその全体像が薄らと見えてきた。
どう考えても、非力な村人たちに対してわざわざ罠を使って相手を眠らせる必要性は感じない。盗賊団であれば、そんなまどろっこしいことはせずに普通に襲えばいいだけだ。
今にも答えが出そうなのに出てこない、そんなもどかしい感覚だ。もう一押しってところまで来てるんだが……。
「みなさん、起きてくださいな!」
「みんな、起きろ!」
「このままじゃやられてしまうよ!」
「起きてください……」
ユユを筆頭に、リディア、アラン、ピュリスが村人たちを起こそうとしている。
「はっ……」
その様子を見たとき、俺は寒気がした。これは……そうか、敵の本当の狙いがわかったぞ……。
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