第9話 盗賊、危機感を持つ。


 俺たちは依頼を受けてから休む暇もなく、盗賊団の被害に遭っているという村まで向かうことにした。


 このロンテルの街から青々とした山々が見えるが、あそこがウェルト山脈といって、そこの奥深くに位置する村ってことでウェルタン村って名前がついたんだそうだ。


 そこを襲撃しているという名もなき盗賊団については、一体何人くらいの規模なのか等、依頼者からの詳しい説明はなかった。それどころか、被害についても物品を盗まれて困るからなんとかしてくれって程度で、正確な情報が見えてこない。


 ギルドの職員によると、村からそう遠くない場所に盗賊団のアジトがあるのは確かだそうだ。また、依頼者は自身の情報を詳細に記したものをギルドに提出していなければ正式に依頼できないため偽情報でもない。


 とはいえ、この時点で冒険者が避けるのもわかる。依頼者が依頼料や成功報酬を安価にするべく、盗賊団のスケールやクオリティ等の詳細をあえて記述しなかった可能性が大いにあるからだ。


 また、盗賊団の中に今話題のが含まれてる可能性だってある。


 そうなると、ヴェノムトラップといった高度な罠を仕掛けられる恐れがある。その上、報酬もやたらと少ない。そんなリスキーな依頼を積極的に受けたがるF級パーティーなんてそうそういないだろう。


「それじゃー、ルファンさん、いつものお願いしますね!」


「ああ、ユユ。任せてくれ」


 俺がユユたちの荷物を預かったあと、村を含めた周辺の人々の位置の窃盗、すなわち索敵を開始する。


「って、ルファン。さっきからなんで一人だけ立ち止まってるんだ?」


「ん、リディア。どうしたって、索敵してるんだが」


「「「「えぇっ……!?」」」」


「……いや、そんなに驚かれても。索敵なら以前もやっただろう?」


「いあいあ……。ルファンさん、ウェルタン村がここからどんだけ離れてると思ってるんですか!」


「あぁ、ユユ。そういうことか。確かに山奥だからここからだと300キロ以上は離れてるな。それでも、ぼんやりと見えるはずだから試してみるよ」


「「「「……」」」」


 みんな頭を抱えてる。クレイジーとかもう人間じゃないとか。聞こえてるんだが……。


 まあいいや。ユユたちが盗賊に免疫がないだけだろうから。そういうわけでウェルタン村の索敵を開始する。


「……」


 俺はウェルタン村らしきところまで意識を移動できた。魔力によって人の居場所を検知することができるため、その辺はスムーズに行うことができる。


 ただ、わかっていたことではあるものの、やはりこの距離だとかなりぼんやりとしか見えない。


 ウェルタン村全体の景色や、人間かそうでないかってことがなんとなく理解できる程度であり、その詳細な状態までは判別できない。


 ……ん、なんだ?


 村の住民らしき者たちが、みんな動かないように見える。気のせいだろうか。


 これ以上は気力の消耗がきついので索敵をやめたが、少なくとも俺が調べた村人たちはその場から移動してないように見えた。


 これは、どういうことだろう。


 まさか、みんな死んでいる……? 俺が見た光景は一部であり、漠然としていたとはいえ、村人たちが既に盗賊団に襲撃され、皆殺しにされてる可能性もあるのか。


 こうなると、ウェルタン村までは距離もあるしのんびり歩くだけではダメだな。急がなければ。


「みんな、先を急ごう。俺の近くに寄ってくれ。から」


「……る、ルファンさん? きょ、距離を盗むって……どゆことです……?」


 ユユを筆頭に、みんな現状が飲み込めないのかフリーズ状態だ。そうだな。距離を盗むなんて前のパーティーでもやらなかったことだ。仔細を説明しないと納得してくれないだろう。


「文字通り、目的地を対象にして、そこから距離を盗むような感覚だ。もちろん、魔力が足りないから全部は盗めないが、空間を盗むことで一気に目的地まで近づけるのは確かだ。原理自体は魔術師のテレポートやダンジョンの無作為転移トラップと同じだから安心してほしい」


「「「「……」」」」


 みんな呆れたようなぼんやりとした顔をしてる。これは、あれかな。ちょっと説明がくどかったのかもな。気を付けないと……。


 そういうわけで、俺たちは目的地から距離を盗み取り、現在地から一瞬で100キロほど先へと進めた。これくらいが限界だ。


 今持ってる魔力を限界まで使ったことでかなり気力を消耗してしまったが、村人たちに異変が起きた可能性を考慮すれば多少無理をしても仕方ないところはある。それに、ユユに回復してもらったおかげで少しは持ち直せた。


「ルファンさん、本当に大丈夫ですか? なんなら、私が負ぶっていきますよ!」


「ユユ、あんたの体力じゃ難しいだろ。ルファン、あたしがおんぶしてやる」


「いあ、リディア。それなら僕がやるよ! こう見えて一応男だし!」


「いいえ、アランさん。私がルファン様に肩をお貸しします……」


「……い、いや、ユユ、リディア、アラン、ピュリス。気持ちだけ貰っとくよ」


 まだまだ、ここからだと村人たちの位置を盗んでも色々とぼやけている。ウェルタン村の状況をよく理解するためにも、せめて100キロ以内に近づかないとな……。

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